それはとある土砂降りの雨の日の事。





044:ゲーム





「梅雨だな〜」
「梅雨だね〜」
「露?」
「あぁ、他の星には梅雨ってあまりないから、スフレが知らないのも無理ないかもな。はい、スキップ」
「私達が住んでた地球の一部の地域では、春と夏の間に一ヶ月くらい雨が多くなる時期があるんだ。それを梅雨って呼んでるんだよ」
「へぇ…春と夏の間ってことは、なるほど、ちょうど今くらいの時期なんだねっ! 色変え、緑ー!」
「うぇっ緑? パス、一枚ちょうだい。そうそう、だからなんだか梅雨を思い出すなーって思って」
「この時期は雨ばっかりだったり、梅雨入り宣言したと思ったら急に暑くなったりで嫌な時期だったなぁ」
「へぇ〜。地球もやっぱり、天気とか勝手に変えちゃだめ〜って決まりがあったんだ?」
「空が巨大なドームで覆われてる街とかは一応街ごとに調節が可能なんだけどね。僕らの住んでた所はそうじゃなかったな」
「一応変えられる事は変えられるんだけど、スフレちゃんの言うとおり後々惑星の気象バランスが崩れるからあまり変えない方がいいって決まり事になってたよ。6二枚、黄色ね」
「やっぱり文明が進んでるって言っても、限界はあるもんね〜」
「まぁ、天気だけはどうしようもない…こともないけど諸々の理由でやっぱりどうしようもないんだよね〜」
「…うん、その通りだよね」
「その台詞、まさに今の現状を的確に表してる言葉だね…」
「はぁ…。今日はバニラの所に行ってクリエイター契約しようと思ってたのに、なんでこんな大雨が降るかなー? あ、リバース」
「まさか、一日宿屋で過ごす羽目になるとは思わなかったよね」
「まぁまぁ、たまにはいいじゃない♪ それにこんな大人数でゲーム大会なんて本当久しぶりだし!」
「そうそう、たまにやると本当に楽しいよな。あ、DRAW2」
「うわ! …と見せかけて、DRAW2返し!」
「同じの出せば回避できるんだよね。はい!」
「DRAW2リバース返し!」
「えー…と、あ、DRAW4でも返せるんだよね? DRAW4返しー!」
「ふふーん、まだ持ってるよ! DRAW4!」
「甘いね、リバース!」
「まだまだー! スキップ!」
「えへへー、私もスキップ! フェイトご愁傷様ー」
「っぎゃー! おいおいおい一体何枚だよ!?」
「二、四、六…十四枚取りだね。まぁまだ挽回できるよ、はいどーぞ」
「残りカード数二枚のソフィアに励まされても嬉しくないなぁ…」



「そっちはまだ決着着きそうにないかしら?」
「あ、マリアさん。えーと、私はもうそろそろ上がれそうですけど、全体の決着はまだまだ着きそうにないですね」
「今の14枚取りがソフィアに行けば、全員のカードの枚数が平均的になったんだけどな」
「でもわかんないよー、ウノって言ってからが長くなる時もあるし!」
「えらく長期戦になってんなー。残り三人になるまでは割と展開速かったのによ」
「初心者のはずのロジャーとアルベルが何故かすぐに上がったものね…。次いでネルも上がったし、エリクール人にはUNOの才能があるのかしら」
「へっへーん、びぎなーずらっく、ってヤツじゃんよ!」
「…それ自慢になってないよ、ロジャー」
「お待たせしてすみません、なんだったらマリアさん達は別のゲームして時間つぶししててください」
「五人だし、トランプも持ってきてたから大富豪とかしてたら?」
「あぁ、正確には三人ね。ネルとアルベル、終わったら呼んでくれって言って将棋始めてたから」
「チェスに似てて面白いっつって前教えたら、二人共ハマったみたいでなぁ。戦術の組み立て方の練習にもなるっつってよくやってるらしいぜ」
「ちえー、オイラもルール知ってたらおねいさまと一緒にできたのになー。アルベル兄ちゃんばっかりずるいじゃんよ」
「うーん、ロジャーにはちょっと難しいかもね。ええと、じゃあダイアモンドゲームとかどうですか?」
「あー、あれなら三人の時にぴったりだよね。いろいろ持ってきて正解だったな」
「そうね…。でも、あなた達の対戦を見てるのも割と楽しいから、観戦しながら待ってるわ」
「だな。お前らの決着が案外すぐに着くかもしれねぇし」
「お、ならその間にオイラにもショーギ、とやらのルール教えるじゃんよ」
「あはは、じゃあ早めに終わるように頑張りますねー。よーし、あと少し!」



「スキップスキップスキップ、ウノあーんど上がりー!」
「うわ! スフレちゃん、七枚もあったのに一気に上がっちゃったね!」
「スキップ三枚で自分のターンにして、最後四枚は同時出しか…やるね」
「えっへっへー、この為にスキップをずーっととっといたんだもんね!」
「よーし、私も負けないよー! ウノ!」
「って、いきなりウノかよ! …と見せかけて、悪いな、DRAW2」
「えーっ! ウノの状態で英語札持ってるわけないから、絶対返せないじゃない〜」
「わー、フェイトちゃんも容赦しないねー。これはどっちが勝つか楽しみになってきたねっ!」
「悪いけど、勝つのは僕だよ。DRAW4、赤」
「えええっ! また四枚取り〜?」
「わー、フェイトちゃんあと二枚〜!」
「WILD、緑。ついでにウノ」
「あ、じゃあ緑以外にすればいいんだよね。えーとじゃあ、3二枚。青ね」
「甘いねソフィア。青の0、上がり」
「えええ〜っ! さっき緑って言ったじゃない!」
「わ、フェイトちゃんってば色変えられるの予想してたんだね!」
「これの為にWILDとDRAW4を確保してたからな。さっきの十四枚取りの恨みは怖いぞ〜」
「ううー…。次は負けないからね!」
「あら、終わった?」
「割と早かったな。よっしゃ、じゃあ次はさっき出た大富豪でもすっか?」
「お、じゃあおねいさま呼んでくるじゃんよ!」
「あーっ、ロジャーちゃんってば二人の邪魔しちゃダメだよ!」
「そうそう、せっかく二人っきりなんだから、ねv」
「将棋なんてすぐに決着着くもんじゃないしなー。あの二人だったら特にすごそう」
「確かにね。お互い戦術的にも優れているでしょうし、なかなか終わらないんじゃないかしら。逆にそれは観戦してみたい気もするけどね」
「あー…。いや、まぁな。あいつらの一局はある意味一見の価値アリかもしれねぇな」
「ほへー、そうなんじゃん?」
「わー、じゃあやっぱりスッゴイ勝負なんだ?」
「へぇ〜、それなら、お邪魔しない程度に見てみたいかも」
「ある程度将棋のルールや戦術を知ってる人じゃないと、そのすごさとかわからないかもしれないけどな」
「そうね。将棋のすごさって何手先まで呼んでるかとか、そういった目に見えない部分で現れるものね」
「んあー、まぁ、確かにそうなんだが。あいつらの対戦のすごいとこはそういうのじゃなくてだな…」
「…?」
「??? まぁ、見ればわかるかもしれないし、ちょっと見に行ってみよっか!」
「そうだね、ここまで言われちゃったらさすがに気になるもん!」
「だな。…あのさ、ところで」
「あら、どうしたのフェイト」
「…僕けっこういろんなゲーム持ってきたけどさ。将棋盤は持ってきた覚えないんだけど…」
「「「「え?」」」」



「…5五歩」
「そうきたか。……6二金」
「…7一銀」
「9二玉」
「ふぅん…? …5六…待った、やっぱり6二銀成」
「ほぉ…。なら、4九飛成」



「…あの二人、何やってんの?」
「…将棋…なんじゃない?」
「えっ、あれが将棋なの? 将棋って、四角い盤の上にちっちゃい駒がいっぱい並んでるゲームだよね?」
「うんうん、さっきそうやって説明受けたじゃんよ」
「そのはずだけど…。私の気のせいかしら、盤も駒も見当たらないんだけど」
「いや、俺にも見えてねぇから安心しろ。…すげーだろ、アレ」
「ちょっと、あの二人一体何やってのけてんの」
「まさかと思うけど…。盤と駒なしでやってる?」
「えええーっ? って事は、駒の場所とか全部暗記? 嘘ぉ?」
「さっきの説明で、駒の位置を頭の中で描けるようになれば一人前だってあったけど、あれがそうなんじゃん?」
「いえ、あれは…一人前どころか…」
「…本人達いわく、"戦術実践のいい練習になる"だそうだぜ」
「………」



ちょっとしたゲーム大会になっていたその空間に、満場一致で共通の見解が生まれた。
目の前で繰り広げられているのはゲームじゃない。



普段どつき漫才ばかりしているケンカップルにちょっとした伝説が生まれた、とある土砂降りの雨の日の事。