「ねぇ、私あんたの事嫌いだよ」
「は?」





064:悪戯





「なんてね、嘘」
「…」
「あはは、そんな顔しない。ちょっとした悪戯だよ。今日が何の日か、フェイト達から聞いてるだろう?」
「…罪の無い嘘ならついても構わない日とやらか?」
「そう、それ」
「また地球の行事だかイベントだかに踊らされてんのか」
「そんな風に言う事ないじゃないか。便乗して楽しんで損はないだろう?」
「…お前、本当にあいつらに感化されてやがんな」
「悪いかい?」
「悪くはないが」
「じゃあいいじゃないか。あんただって、なんだかんだ言って今まで結構便乗して楽しんでただろう。バレンタインとかお正月とか」
「別に楽しんでねぇよ」
「嘘ばっかり。あ、今日は嘘ついてもいい日だから、別にいいか」
「…嘘言おうと思って言ったんじゃねぇんだが」
「どっちでもいいよ。まぁ、あんたの事だからそんなイベントくだらないとか思ってるだろうしね」
「さぁな」
「その仏頂面見ればわかるよ。まったく、本当にお祭りとかイベント事とかに無関心なんだから。たまには便乗でもしてみたら?」
「嘘なんかついて何が楽しいんだよ」
「相手の反応とかじゃないかい?実際、あんたのさっきの呆けた顔面白かったし」
「…。んなの、今日が嘘ついても構わん日だっつうこと知ってるお前に嘘ついたって、何も面白い反応返ららねぇだろうが」
「あぁ、そうかもね。でもフェイトやソフィア辺りは、それでも新たなネタ考え出して何度でも挑戦してくるけど」
「…阿呆共が…」
「でも、嘘かもしれないってわかってても結構驚くもんだよ? マリア辺りなんて、本当か嘘か本気でわからないような巧妙なネタを仕掛けてくるから」
「…ふぅん?」
「ま、最初から便乗して楽しむ気が無いってわかってるあんたには、みんな仕掛けてこないかもしれないけどね」
「………。便乗する気がカケラもないとは、誰も言ってないが?」
「え?」
「そこまで言うんなら多少は便乗してやってもいいと言ってるんだ」
「別に何が何でも便乗しろとは言ってないけどねぇ…。じゃあ、何か嘘言ってみたら?」
「…そうだな。じゃあ…」



「俺はお前なんて嫌いだ」



「…は? それ、さっき私が言ったのと同じじゃないか」
「そうだな。だがまったく同じっつぅわけじゃねぇぞ」
「何がだい」
「嘘じゃねぇからな」
「…え?」
「だから嘘でもなんでもないと言ってるんだ」
「………」





「…そう。あんたがそう言うんならそうなんだろうね。でも、別に私は」
「…っ、く、くくくく…」
「な、何笑ってるんだい!」
「お前、本っ当面白いな」
「だから何が!」
「…今日は、"罪のない嘘なら何でもついていい日"だぞ?」
「は…? でもあんた、さっきのは嘘じゃないって自分で言ったじゃないか」
「あぁ、言ったな」
「だったら、」
「"嘘じゃない"と言った台詞自体が嘘だったらどうする?」
「………」
「…っくくくっ、んな顔すんなよ、"ちょっとした悪戯"だろう?」



「…あんたなんか嫌いだ!」
「あぁはいはい、嘘だな」
「嘘じゃないよ、本当に!」
「それが嘘だろ?」
「嘘じゃないったら!」
「嘘だな、さっき俺が嘘言った時のお前の顔見りゃ一目瞭然だ」
「なっ…」
「お前自分がどんな顔してたかわかってねぇのか? あれは嘘じゃできねぇだろ」
「…うるさいっ、あんたなんか大嫌いだよこの大嘘つき!」
「お前もな」