愛のかたち。





ねぇ



あ?



くだらないことを訊いてもいいかい?



…嫌だと言っても結局は訊くんだろうが



おや よくわかったね



だったらわざわざ確認しようとすんじゃねぇよめんどくさい



ま 意味のない質問だったかもね



で 何が言いたい




あんたは…



は?



あんたは "何かを殺すこと"について どう思ってる?








何かを殺す?



うん そう



…何だよ急に



…変なこと訊いてるってのは判ってる
でも あんたなら答えを持ってるんじゃないかって思って



何故そう思う?



…さぁ
なんとなく かな



…ほぅ



それで あんたはどう思う?



お前の言う "何かを殺すこと"ってのは
俺やお前が魔物やらを殺してることについて言ってんのか



まぁ そんなところかな
で?



…別に
何も 思わねぇな



何も?
本当に 何も?



あぁ



どうしてだい?



はぁ?
おかしなことを訊くヤツだな







自分達の目の前に立ちふさがるヤツがいる
そしてその立ちふさがってるヤツらは自分達を殺そうとしている
だから殺される前に殺してる ってだけだろうが







それだけのことに何を思えってんだよ




うん そうだね
…確かにそれだけのことなんだ




…お前はどうなんだ



え…



つまらねぇことでいちいち悩むお前のことだ
どうせまた思考が何かめんどくさい方にいってんだろ



…ふぅ
やっぱりあんたに隠し事はできない か



当然だ
お前ほどわかりやすいやつはいねぇからな



そんなこと言われたの初めてだよ



…ふん
で 何だ?言ってみろ









この頃 自分が何のために戦っているのか 何のために血を流しているのか
何のために魔物を殺し続けているのか
…よく わからなくなるんだ








は?



自分でもどうかしてると思うんだ
…今更 魔物を殺すことを疑問に思うなんて



そりゃそうだな



正直だね



嘘言ってどうなる



はは まぁそうだね
…それで さ
あんたがさっき言ったことはよくわかるし 私も重々わかってるつもりだよ
でも それなのに時々戸惑うんだ



…何を



魔物を殺すことに さ








もちろん 創造主とやらが放ったあの天使みたいなやつとかは ためらいもなく殺せるよ
でも 魔物のなかには卑汚の風に毒されて魔物になってしまった 普通の動物だっているんだ
…本来なら 静かに自然の中で生きていけたはずなのにね



…そうだな



もちろん 以前はどうあれ今は魔物だってわかってる
だから戦い 殺さなきゃいけない
でなきゃ自分や 仲間の身を護れない







なのに…
戦闘が終わった後 すごい罪悪感に苛まれるんだ







その罪悪感の中で いつもこう思うんだよ
"今までだって生きるために殺し続けてきたのに 何を躊躇うの?"って







その通りなんだよね
今までだって私は 生きるために何人もの相手と戦い 命を奪ってきたのに







自分でも …自分ですらもそう思うのに
…やっぱり躊躇いや戸惑いは消えないんだ







どうすれば いいのかな?




なぁ



ん?



お前がその罪悪感とやらを覚えはじめたのはいつだ?



え …そうだね つい最近 かな



そうか



それがどうかしたかい?



まだ間もないみたいだな
だったら慣れろ



へ?



慣れろ って言ったんだ
んな罪悪感覚えるのが当たり前になって もう何とも思わなくなるまで慣れろ







それが一番手っ取り早いんじゃねぇか



…そうかな



そうだろ
だいたい お前だって始めて人を殺したとき
同じように罪悪感に苛まれたんじゃねぇか?







少なくとも俺はそうだったぜ
…すぐに慣れちまったけどな




そう考えると 慣れって恐ろしいね



…そうかもな








ま 戦闘中に躊躇ったり戸惑ったりされたら俺達にも迷惑がかかんだよ
だからとっとと慣れて普通に戦え



…努力するよ



それでいい
…こればっかりは俺にだってどうしようもできねぇしな



そうだね
私自身がなんとかしなきゃいけないことだよね
…でも 助言してくれてありがとう



さっきも言ったろ?
お前は一応は大事な戦力だ
なのに戦闘中妙なことを考えられたらこっちが困る



…そうだね
それでぼぅっとして もし怪我でも負ったら洒落にならないからね



わかってんじゃねぇか
…んなつまらねぇことでもし怪我でもしてみろ 問答無用で斬るぞ



…ありがとう



礼を言うことか?



うん



…変なヤツだな








大丈夫 多分もう躊躇わないよ



そうか



あぁ
あんたに斬られたくはないからね



当然だ



魔物に殺されるのももちろん嫌だしね



それも当然だ
…お前を殺していいのは俺だけだからな



なんだいそれ



そのままの意味だ阿呆
お前は俺のものなんだから勝手に殺されたりすんじゃねぇぞ



…あんたらしい言い分だね



ふん








さっきも言ったが躊躇ったりすんなよ
元は野生の動物だとしても 今は魔物だ



あぁ



無防備に突っ立ってりゃ簡単に殺される



…あぁ



躊躇えば殺られる
だから躊躇うな 絶対に




あぁ








…だったら



あ?



あんたもつまらないことで死ぬんじゃないよ
あんたを殺していいのも私だけだからね







さっき お前は俺のものだって言ったけど
あんただって私のものなんだから勝手に死ぬなんて許さないよ?








…はん 上等だ
俺だってお前以外に殺されてやったりしねぇよ





珍しいね
私もまったく同じ意見だよ





そうか



うん








世間一般的なものとは、少し違った形だけど。
これが二人の、 遠まわしで率直な、想いの伝え方。





これが二人なりの、愛のかたち。