雨が降っていた。 というより、まるで地面を叩きつけるように落ちていた。 バケツどころか25メートルプールをひっくり返したかのような大雨がその町を襲っていて。 さらに木をなぎ倒すかのような(実際に細い木は何本かなぎ倒されている)突風と、一分に一回は必ず落ちてくる雷なんておまけもついてきたもんだから。 屋外には人っ子一人いなかった。 そんな悪天候の中、旅を続けているフェイト達も例外にもれずに宿屋で立ち往生するハメになり、 "今日は休日!理由は窓の外を見りゃ納得だろ!" と高らかに休日宣言をしたリーダーによって、久々の休日となった。 「誰これ」 「えー知らない。いつの間に?」 「こんなヤツいたかぁ?っかしーな、周りには誰もいなかったと思うんだがなぁ…」 「でも実際写ってるんだからいたんでしょ?皆気づかなかったなんて不思議な話よね」 休日宣言をしてすぐ、四人揃って急に宿屋の一室に閉じこもり、 "立ち入り禁止・ドアを1ミリでも開けたら即イセリアルブラスト" と張り紙をドアに貼っ付けて。 部屋中のあらゆる窓、さらにドアにはめ込まれている小さなガラス窓にまで内側から暗幕をつけ、約半日引きこもっていた集団が。 手に四角い紙を持ちながら、固まってソファに座り込みなにかをわいわい話し合っていた。 四人が座ったソファの前には、何枚もの四角い紙、透明な円柱型の入れ物の様な物、そして紐がついていて、丸いレンズがはめ込まれた立方体の機械が無造作に置かれていた。 休日の時 「朝から部屋に閉じこもって、やっと出てきたかと思えば…一体どうしたんだい?」 「うっせェんだよお前ら。四人揃って騒ぎやがって」 「あっ、ネルさん。それにアルベル」 赤毛の女性と黒と金の髪の青年が話に入ってきて、紙を覗き込んでいた青髪の少年が顔を上げる。 「何してたのさ。窓に暗幕まで張って…黒魔術でもしてるのかと思ったよ」 「あはは、違うんですよ。私達、朝から写真の現像してたんですー」 「写真?」 「んだそりゃ」 聞きなれない単語に、二人が揃って首を傾げる。 「これよ」 青髪の少女がテーブルの上に散らばっている紙の一枚を取って、二人に見せる。 その紙は四角くて、手のひらくらいの大きさ。ノリノリでVサインしているフェイトとソフィアが写っていた。 「あぁ…映像を撮れるヤツかい?」 「ええ。カメラっていう機械で写した印画の事なの。今日私達が朝から部屋に閉じこもってたのは、これを現像…カメラから紙に焼き付けてたのよ」 「言っとくがな、光が入るとフィルムっつー映像を写したモノがダメになっちまうから部屋を暗くしてたんだからな。別に急にヒッキーになったわけじゃねえから」 「結構時間がかかる作業ですからね。完全に休日の日しかできないと思って」 円柱型の、小さな透明のケースに入った何かを見せられる。これがフィルムというらしい。 「別にあんたらが引き篭もりになったなんて思ってなかったけど…ふぅん、そうだったのかい」 慣れない単語は適当に解釈しながら、赤毛の女性は半分納得できていなさそうな顔で一応納得した。 「部屋に丸半日閉じこもって作業なんて珍しいな。お前らの星では、そういうこと一発で機械がやってくれるものだと思ってたが」 「あぁ、違うよ。本当は機械で一瞬でできるんだけど、今回は自分達の手でやりたいなぁって気分で」 「事の始まりはなんだったかなぁ?フェイトが "そういえば本当なら今は大学の夏季休業中だっけ…今回は面倒な課題が出てたんだよなぁ、確か昔々の技術を駆使して機械に頼らず写真を焼き上げる、だったっけ" って言ったからだったよね?」 「道具や器材や薬品関係はレプリケーターで作れたから楽だったわよね」 「中々面白かったよな、古い技術に触れるのも」 「まぁね。とまぁそんなわけです」 軽く説明を終えて。 「だったら、さっきどうして難しい顔してたんだい?失敗したのかい」 「あぁ、それは…」 茶髪の少女が、ある一枚の写真を手に取る。 テーブルを挟み向かいあって設置されている四人がけのソファに二人ずつ悠々と座って、青髪の少年、茶髪の少女、青髪の少女、金髪の青年が口々に議論していたのは。 「この写真なんです。見た事もない知らない人がいつの間にか写ってるんですよ」 「変だよねこれ」 「うん。現像も私達の手でやったから誰も手を加えられないはずだし…」 「見せてもらってもいいかい?」 口々に言い合う彼らに、赤毛の女性は何気なく訊いた。黒と金の髪の青年は興味が無いようで何も反応しない。 「構わないわよ」 「ありがとう」 言いながら、赤毛の女性は四人が注目している一枚の紙切れを見やる。 赤毛の女性は絶句した。 「?」 目を見開いたまま、写真を除きこんだままの不自然な体勢で止まっている赤毛の女性を不思議に思ったのか。 「ネルさん?ネルさーん?あのーどうしましたかー?」 ひらひら、と赤毛の女性の顔の前で手のひらを振っている青髪の少年。 はっと動きを取り戻した赤毛の女性が、驚いたような表情のまま口を開く。 「これ…この、写真に写ってる人がさ…」 「まさか知ってる人なんですか?」 茶髪の少女の問いに、赤毛の彼女はこくりと頷く。 写真に写っているのは、肩くらいまでの黒い髪を二つに縛った青年。 よく見ると、毛先の色素が抜けて茶髪になっている。 「…グラオ・ノックス。アルベルの、父親だよ」 赤毛の女性の隣の青年が、一瞬驚いたように目を見開き。 「「「「…えええええぇぇぇ!?」」」」 続いて、見事なまでにステレオになって四人分の声が響いた。 「アルベルのお父さんって確かかなり前に亡くなってたよね!?」 「じ、じゃあこの人ってゆゆゆ、ユーレイ!?」 「ならこれっていわゆる心霊写真じゃない!」 「まさか今もどこかにいるんじゃねぇか!?」 かなりあたふたしている四人に、赤毛の彼女が宥めるように口を開く。 「落ち着きなって。あんた達の世界で幽霊がどう思われてるのかは知らないけど、この星じゃ幽霊は生きている人間に何も危害を加えてこないから」 「………」 宥めている赤毛の女性の手元を、黒と金の髪の青年が覗き込む。 四角い紙に写っているのは、親指を立てながら今にも「イェーイ!」と言いそうな表情をした金髪の青年と同じような格好の青髪の少年。 …と、人間にしては妙な位置に浮かんでいる、黒と金の髪の青年に面差しがよく似た青年。 黒と金の髪の青年は、えらく疲れたような表情ではぁぁとため息をついた。 「…何落ち込んでるんだい」 気づいた赤毛の女性が声をかける。 「落ち込んでんじゃねぇよ。またあのでしゃばり幽霊が来たかと思うと気分が重いだけだ」 「そんなこと言って…。会いにきてくれたんだろうし、そんな邪険にすることないのに」 「アルベルったらまだ反抗期なんだね」 「うぁー大人気ないですねアルベルさん」 「うるせ」 ようやく落ち着いたのか、他人をからかう程度の余裕を取り戻した二人の言葉を一蹴し、黒と金の髪の青年は何事かを考え。 「おい。この"写真"とか言うのは、この妙な機械があれば撮れんのか」 四人がカメラと呼んでいた黒い機械を指差しながら、黒と金の髪の青年が訊いた。 「えぇ。使いたいの?」 「少し興味が湧いたからな」 何か企むような顔をして、黒と金の髪の青年がにやりと笑む。 「なら簡単な機能だけ説明するわね。まずここから撮りたいものを覗き込んで、このボタンを押すと写真が撮れて、こっちが…」 青髪の少女が軽い説明をして、とりあえず理解したらしい金と黒の髪の青年がカメラを受け取った。 金と黒の髪の青年は、早速レンズを片目瞑りながら覗き込んで、その辺を適当に撮っている。 「アルベルー、それ百枚撮りだからね。なくなるまで使っていいけど、壊すなよ。それと近すぎると写真がピンボケ…えーと上手く写らないから気をつけなねー」 「へいへい」 すでに十枚くらい撮った彼がどうでもよさそうな返事を返す。 「さて。じゃあ僕らは暗室にした部屋を片付けに行くから」 そう言って、机の上に散らばったものを手早く片付け四人は部屋に戻って行った。 「…楽しいかい?」 戻るタイミングを逃した+こいつのやってることに興味があったの半々くらいの割合で、割り当てられた部屋に戻った彼についてきた赤毛の彼女が訊く。 「さぁ」 いつものようにソファに座り、適当な被写体を見つけてはシャッターを切っている黒と金の髪の彼が短く返す。 「あんたがそういう機械に興味を示すなんて珍しいね」 「別に。…もし親父が戻ってきてたら嫌がらせに撮ってやろうと」 あいつこーいう文明の利器慣れてねぇしなとか言いながら悪戯っぽくけけけ、と笑う彼に。 「…相変わらず反抗期だねぇ」 「黙れ阿呆」 言いながら、また彼はシャッターを切る。かしゃり、と耳に慣れない音が小さく聞こえる。 やることがなくなってつまらないのか、彼女はいつものように椅子を引っ張ってきてソファの近くに座った。 相変わらずシャッターを切っている彼に視線を向ける。 そんなに面白いのかと眺めていると、不意に彼がカメラごと彼女を向いてそのままシャッターを切った。 「えっ」 はっとして彼を見ると、彼は面白そうに笑っている。 「油断禁物、だな」 「な、今撮っただろ!急にやめなよ、ぼぉっとして変な顔してたじゃないか」 急に撮られて怒る彼女に、彼は軽く言い返す。 「撮影の練習だ」 「まったく…いきなりだと心の準備もできないじゃないか」 ぶつぶつ言ってそっぽを向いた彼女を横目で見ながら、彼はにやりと笑い。 「いきなりじゃなかったらいいのか?」 「えっ?」 「と言うことは、予告があればどれだけ撮っても構わない、と」 「まぁ、いきなりよりはマシだけど…」 撮影にハマったのか、心なしか楽しそうな彼に彼女は渋々答えた。 「…んじゃ今から撮るぞ」 「えー…と、どうすればいい?」 写真を撮られるのに慣れていない(というかほぼ初めて)な彼女が呟いて。 「普通に笑ってりゃいいんじゃねぇの」 「…急に笑おうとするのって難しいもんだねぇ…」 ぎこちない笑顔を浮かべて彼女が呟く。 「ならそのまま撮るぞ」 「嫌だ」 「じゃあどうしろと。俺に隠し撮りでもしろと?」 「それってただの変質者じゃないか」 くす、と笑った彼女に、彼はすかさずレンズを向けてシャッターを切った。 刀を扱う時のような早業だった。 あっけにとられる彼女を気にせず、彼は満足げに呟く。 「…よし」 「よし、じゃない!またあんたはいきなり…!」 「そうでもしねぇとお前ぎこちねぇ顔しかしねぇだろが」 「それはそうだけど…」 彼女は言い返せなくて口ごもる。 「…そんなに写真撮りたいのかい?」 言い返せなかったからか、違う話題を出した彼女に。 彼は考える事もなく首を横に振った。 「いいや」 「はっ?」 てっきり肯定されると思っていた彼女が、素っ頓狂な声をあげる。 「こんなん撮ったところで、紙きれに写されて出てくるだけだろうが」 「じゃあ、なんでそんなに写真撮りたがってるのさ。しかも、私の」 こっちは迷惑してるんだけど、と見上げてくる彼女の。 …カメラを向けた時の反応が面白かったから。 とは言えない。 「別に…」 「なーんか今私にとってものすごーく不快な事考えてなかった?」 妙に勘の鋭い彼女が半眼で睨み付ける。 彼はそんな視線を軽く受け流すように気にせずにいたが、それがまた癪に障ったらしく彼女は無言で彼の手にあるカメラを奪い取った。 「あ?」 「なんだか腹が立つからあんたも撮ってやるよ」 「なっ、おい」 「変な顔してるとそのまま撮るよ?」 にやりと笑って彼女が言うが、彼ははたと冷静になって聞き返す。 「お前、撮り方わかってんのか」 「…あ」 呟いた彼女に、彼は喉元だけでくく、と笑う。 「阿呆かお前、っくくく」 「阿呆じゃないよ」 彼女は言い放ち、すかさずカメラを構えてシャッターを押した。 笑っていた彼はあっけにとられ、そこでまたシャッターの音。 「私、撮り方わからないなんて一言も言ってないだろ?第一目の前でぱしゃぱしゃ撮られ続けてたんだからいくらなんでもわかるよ」 勝ち誇ったような笑みを浮かべている彼女に、彼は邪悪に笑って口を開く。 「…いい根性してんじゃねぇかお前」 「お互い様だろう?」 そう言ってまたカメラを向けてくる彼女に、彼はからかいすぎたかとちょっと反省するが。 時すでに遅し。 そんな、ちょっと反省したような表情(無表情に近いが)もバッチリカメラに収められて。 さすがにそろそろ止めようと、彼はにゅ、と手を伸ばしてカメラのレンズを正面から押さえた。 「え?」 急に真っ暗になったレンズ越しの視界に、彼女が驚いて声をあげる。 「そろそろやめとけ」 「何で」 「俺の写真なんざ撮ったってつまらねぇだろ」 「いや、そんなことないよ。コレ向けた時のあんたの反応面白いし」 「………」 何気にこいつ今さっき俺が思ったのと同じ事言いやがった。 同じ発想をしていたことに嬉しいやら悲しいやら、複雑な顔をしている彼に。 また、彼女の手元からシャッターの音が聞こえた。 はっとなって彼が彼女に目を向ける。 彼女はくすくすと笑って、カメラを構えていた。 「お前…」 「さっきさんざん撮られたお返し、だよ」 楽しそうに笑っている彼女に、怒る気力の失せた彼が苦笑する。 「お、笑った」 彼女が呟き、彼が何だと問う前にまたシャッターが下ろされた。 油断も隙もあったもんじゃない。彼の脳裏にそんな言葉がよぎった。 「あんたの笑顔なんて、あの子達が見たらなんて言うだろうね?」 明らかに楽しんでいる彼女から、彼は無言でカメラを奪い返す。 もう十分楽しんだらしく、彼女は奪い返そうとはしなかった。 ことり。 彼が机にカメラを置いて、彼女が不思議そうに彼を見た。 「もういいのかい?まだ半分も撮ってないと思うけど」 「いい」 てっきり、撮られた仕返しがくるかと思っていた彼女は意外そうに目を瞬いた。 「珍しいね。さっきのお返しとか言って撮られまくるかと思った」 「…撮ってほしいのか?」 「別に?」 彼女が答えると、彼は小さく笑って、彼女の頭に手を伸ばした。 そのままくしゃくしゃと彼女の赤毛を撫でて。 「お前の写真はもういい」 「え?」 「本物がここにいるからな」 そう言って彼がまた彼女の髪を撫でた。 「…嬉しい事言ってくれるじゃないか」 そう言って、彼女が無意識に極上の笑顔で微笑んだもんだから。 彼は完璧に不意打ちを食らって固まる。 「?」 当の彼女はまったく気づかず頭の上に疑問符を浮かべる。 彼はようやく元に戻り、腰掛けているソファに顔を埋めて長ーいため息をついた。 「…今、カメラ構えときゃよかった…」 「はぁ?たった今、お前の写真はもういいとか言ってた癖に」 「…今の顔は反則だろうが…」 完璧にノックアウト(笑)された彼が、手で顔を覆いながら呟く。 めったに見れない彼女の表情なら撮ってもいい。むしろ撮りたい撮らなきゃ勿体無ぇ。 彼は再度カメラを手に取った。 彼女にずい、とレンズを向けて、 「笑え」 「え?」 「今のお前の写真なら持っててもいい」 「…馬鹿」 言われた台詞に頬を染めて、彼女が毒づく。 「馬鹿で結構」 その反応を楽しそうに見ながら、彼が答えた。 「だから笑え」 相変わらず偉そうな彼に、さすがにむっとなったのか彼女が軽く彼を睨む。 「人に物を頼む態度がそれかい?」 「ただ笑うだけじゃねぇか」 「それはそうだけど。"笑え"はないだろ?」 彼は軽く俯き、一瞬何かを考えて。にまりと笑って顔を上げた。 その、いたずらを思いついたかのような彼の表情には、見覚えがありすぎて。 しかもその"いたずら"は自分の身に覚えがありすぎて。 「ちょ、待っ…、ぅわ!」 彼女が制止の声をあげかけた時、彼は彼女の腕を掴んで自分の方へ引っ張り。 彼女の座っていた椅子が派手な音を立てて倒れ、彼女がソファに座った彼に倒れこんだ。 顔を上げた彼女の目の前には、小悪魔のような表情の彼。 気づいたら彼女の頬には彼の手があって。 慌てて彼女が目を閉じると、すぐに慣れた感触が唇に当たった。 「(…やると思った…)」 とか彼女が呆れながら思うあたり、もはや日常茶飯事の出来事らしい。 顔が離れて、ぱちりと目を開けた彼が呟いた。 「これでいいのか?」 「…それがあんたの、"人に物を頼む態度"なわけ?」 「お前限定でな」 彼女は脱力して、彼にもたれた。 「…あんたには負けるよ…」 そう言って、彼からひょい、と離れる。 一瞬名残惜しそうな表情をした彼に、照れた表情のまま彼女が言った。 「…距離が近すぎると、写真が上手く撮れないんだろう?」 だから離れたんだよ、と呟く彼女に、彼は笑いながらカメラを構えて。 「なら、撮り終わったら戻ってこいよ」 「さぁ、どうしようかな?」 「…おい」 「冗談だよ」 本気で拗ねたような顔をする彼に、彼女が笑って。 彼はカメラ越しにその笑顔を見てくく、と笑う。 シャッターを押す音が一度だけ聞こえた。 「まだ半分くらい残ってるけど、もういいのかい?」 「いい。写真撮る為にお前と距離置かなきゃならねぇくらいなら撮らん」 「…あんたって実は天然タラシ?いや、確信犯?」 「さぁ?」 「…確信犯かい…」 そんな会話が交わされて、机の上に再度ことりとカメラが置かれた。 「…俺、文明の利器に慣れてないわけじゃねーもーん」 そんな声が聞こえて。 机の下からにゅ、と透明な手が伸びてきてカメラをがっしと掴み、ソファの上でまったりと会話をしている二人にレンズが向けられた。 「…止めんなよ、ネーベル」 「それはないからご心配なく。面白そうだしね」 「あっそーだ、あいつらにバレないように音消して」 「はいはい。…サイレンス」 本当に小さな声で会話が交わされて。 カメラの周りの空気が施術によって音を伝えなくなる。 「…あの青い髪の子達が撮ってる時、ちゃーんと慣れたもんねー文明の利器」 にやりと透明な二人が笑って。 音にならないシャッターが何度か押された。 「う、わー。見てこれ見てコレ!」 機械により一瞬で現像された写真の一枚を見て。 ソフィアがものすごい勢いで隣にいたフェイトを引っ張った。 「ちょ、ソフィア、服伸びるって!なんだよ」 フェイトが慌てたように訊くと、ソフィアはえらく目を輝かせながら一枚の写真をフェイトに見せた。 写っているのは、少し照れながらも極上の笑顔で微笑む赤毛の彼女。 「うわー…」 思わずフェイトは写真を凝視する。 こんな顔の彼女を見たのは初めてで。 「すごいわね。これは確かにカワイイわ」 「ほぉー、あのネルもこんな顔できんんだなぁ」 「それ失礼ですよ、クリフさん」 写真を覗きこんで、四人が口々に感想を述べる。 その写真は、日付と時間からして間違いなくプリン髪の彼が撮った物で。 「アルベルの奴、ネルさんのこんな顔毎日見てるんだな…」 「幸せ者だよねー、アルベルさん♪」 「…う、っわ。見てみろよコレ」 写真を一枚一枚見ていたフェイトが、先ほどのソフィアと同じような調子でソフィアを呼んだ。 「何?」 フェイトに一枚の写真を見せられ、ソフィアは目が点になる。 写っているのは、嫌そうな顔をしてはいるものの、笑っているプリン髪の彼。 「アルベルってちゃんと笑えたのね…あの、"ふははははは!"って笑いしかできないと思ってた…」 「アルベルさん、ちょっと照れてるーかわいいーv」 「…いつもこんな顔してりゃ、もうちょっと人受けよくなんのになぁ」 「ネルさん、アルベルのこんな顔毎日見てるんだな…」 「お?」 次はクリフが不思議そうな声を上げた。 「何々?今度はどんな面白い写真を見つけたの?」 興味深そうにフェイトが寄ってくる。 クリフは不思議そうな顔のまま、フェイトに1枚の写真を見せた。 「これ、何かおかしくねーか?」 そう言ったクリフの手にあるのは、赤毛の彼女とプリン髪の彼が二人とも写っている写真。 その写真の中の二人は、軽い言い争いをしているらしく微妙に怒ったような顔つきをしている。 「…確かに。操作が面倒だからセルフタイマーも教えてないのに、二人が同時に写ってるって、変、だよね…」 「お二人とも両手の先まで写ってるよね?だったら、カメラを自分達の方に向けて撮ることもできないよね」 「それに…あの二人、五十枚くらいしか撮ってない、って言ってたわよね?例の写真、七十二枚目なんだけど…」 「…しかも、五十枚過ぎてちょっとしてから、二人が同時に写ってる写真しかねーぞ…」 ………。 「た、たまたま、カメラの調子が悪くて勝手に誤作動起こして写真が撮れちゃったんですよ!」 「そ、そうよね。それで、偶然二人の方にカメラのレンズが向いてたのよね」 「うんうん、そうだよたぶん!」 「あら?」 今度はマリアが不思議そうな声を上げた。 と同時に、髪の色に負けないくらいマリアの顔が青ざめた。 「え、どうしたんですかマリアさん」 「ま、ま、ま」 「ま?まー…窓」 「ドア」 「雨」 「めだか…じゃなくて!私は、また出たって言いたかったのよ!」 「何が?」 クリフの問いに、マリアはさっきまで手にしていた一枚の写真を手に取った。 それは、さっきのカメラの誤作動事件(と、四人は無理やり思い込んでいる)で撮られた、二人が写っている写真。 二人はそのままソファで寝てしまったのか、寄り添って目を閉じていた。 その、二人の背後に。 「…こ、これ…」 「さ、さっき自力で現像した時にいた、アルベルさんのお父さんのゆーれー…?」 「しかも、ネルさんの背後には、見た事ない赤毛の人までいるんだけど…」 「あぁ!これ、かなり前アリアスの宿屋で見た幽霊よっ間違いないわ!」 「っつぅことは、さっきの写真も誤作動じゃなくて、この幽霊達の仕業ってことか!?」 ………。 「キャ―――――!!!」 「イヤ―――――っ!!!」 「出た―――――!!!」 「呪われる―――――!!!」 途端に、写真をほっぽり出してその場から彼らは逃げ出した。 クリフに投げ出された一枚の写真は、ひらひらと宙を待って机の上に落ちた。 その写真に写っているのは、寄り添って寝ている男女と。 そんな二人を微笑ましそうに見ている赤毛の幽霊と。 そんな二人を面白そうに見ているコーヒー髪の幽霊。 ちょっと不思議でほのぼのした写真が撮れたりした、そんなとある休日。 |