視線を感じていた。
睨まれている訳でもなく、殺気立っている訳でもない視線を受けるのは、正直慣れなくて。
首をぐるりと巡らせて視線の元を辿ると、紫の瞳にぶつかった。
仲間の女性陣と共に談笑していたはずの、黒い忍装束に身を包んだ女性が彼を見ていた。
目が合ってすぐ、ごく自然に視線が逸らされる。
まるで何事もなかったかのように、彼女は先ほどと同じように隣に座る銀髪の少女の会話に相槌を打っている。
不思議に思いながら、彼は特に気に留めずにいた。



が。



「……」
ふと振り向けば、また彼女が彼の方を見ている。
不思議そうにしているのが彼の表情に出ていたのか、彼女が苦笑した。
何か言いたい事でもあるのかと彼は思うが、また視線をゆるりと外される。
「…?」
さすがに二度目ともなると気になったが、彼は特に言及することはなかった。





自分が視線を逸らしてから、しばらくして興味を失ったのか背を向け多分宿屋の自室へ歩いていった彼の後姿を見遣って。
「似てないな…」
彼女がそうぽつりとつぶやいたのは、彼には聞こえなかった。





It is not similar?





事の始まりは、ソフィアのこの一言からだった。
「皆さんのお父さんって、どんな人だったんですか?」
唐突な質問に不思議そうに首を傾いだのはネルとマリア、それにスフレ。
いつも通りの表情で微笑んでいるのはミラージュ。
「ど〜したのソフィアちゃん、急に?」
「前ね、女の子は自分のお父さんに似たタイプの人を好きになりやすい、って聞いたんだ。だからちょっと気になって」
皆複雑な事情で、家族の誰かはすでに亡くなっていたり行方不明だったりするのだが、そんなことも笑って話せるくらいの親密度にはなっている。
「う〜んそだな〜、本当のお父ちゃんはね、すごくリッパでユウカンな人なんだって。ママからもそう聞いてるし、お母ちゃんもそう言ってた気がする」
「ロジャーと似たタイプ、なのかしらね?ちょっと疑問かも」
笑いながらマリアが言って、スフレがうむむむと唸る。
「ん〜…。似てない、気がするなぁ…。勇敢なとこはちょこっと似てるかも、…って、べ、別にあたしロジャーちゃんの事トクベツ好きってわけじゃ…」
「照れない、照れない」
慌てて言いなおそうとするスフレを、ソフィアがにこにこ宥める。
「そういうソフィアちゃんはどうなのよっ?ソフィアちゃんのお父さん、フェイトちゃんに似てるの?」
逆に訊き返され、ソフィアは少し考えてから口を開いた。
「う〜ん。見た目頼りないけど実は結構頼りになるところは似てるかなぁ。腹黒いのは似てないよ」
「…ソフィア、あんたさり気にフェイトが腹黒って明言したね」
「本当の事ですからv」
にこり、と笑うソフィアに、この二人が結婚したらすごい事になりそうだ主に周りが、と微妙に悟ってしまったネル。
「ミラージュさんのお父さんはどんな人でしたか?クリフさんに似てたりします?」
急に質問の矛先を向けられたミラージュは、別段驚くでもなく少し考え、そうですね、とつぶやいて話し始めた。
「私の父は確かにクリフにタイプが似ていますね。豪快な面や、後先考えずに野生の勘を頼りになんとかしてしまう面など、ですか」
「そうなの?へぇ、今度一度会ってみたいわね」
「ええ、是非会ってあげてください。きっと孫ができたようだと喜ぶと思いますから」
「孫…か、確かにマリアはミラージュの娘みたいなものだしね」
今まで相槌を打っていただけのネルに、くるりと視線が向けられる。
「ネルさんのお父さんはどんな方でしたか?」
「ま、少なくともアルベルに似てたって事はなさそうよね」
「あっ、その気持ちわかる〜!アルベルちゃんみたいなお父さんだったら、ネルちゃんこんなに真っ直ぐに育たないよね!」
言い得て妙だな、と苦笑しながら、ネルは答えた。
「そうだね。皆の言うとおり、あいつとは似てないよ。穏やかでのんびりしてて、いつも笑ってる人、かな」
表向きは。
その一言は言わずにおいて、軽く説明をする。
「へぇ〜。アルベルちゃんとはまさに正反対!だね」
「うーん、お父さんに似た人を好きになる、って話あんまり一般的じゃないのかなぁ?」
大半があまり似ていないと言う結果だった為に、疑いを持ったのかソフィアが首を傾げる。
「じゃあ、マリアさんはどうですか〜?」
矛先が最後に残ったマリアに向いたとき、ネルはふと視線をずらす。
自分たちの会話は多分耳に入らないが、視界には入るくらいの距離で、たった今議論されていたアルベルがぼおっとしていた。
「(やっぱり似てないよな…)」
そんなことを思いながら、視線を向けていると。
不意にアルベルがこちらを向いた。
目が合って、でも別段用はなかったからなるべく自然な動作になるようにゆっくり視線を逸らす。
「えぇー、私てっきりリーベルさんとマリアさんとっくに恋人同士になってるのかと思ってました〜」
「違うわよ。まったく、どうしてそういう話になるのかしら」
「でもでもそう見えたよね〜ね〜ネルちゃん」
「ん?あ、あぁ」
あまり話を聞いていなかったのだが、適当に合わせてまた会話に混ざる。
会話が盛り上がりを見せているとき、またちらりと視線をアルベルに遣ると。
何故かすぐに気づいてアルベルはまたこちらを向いてきた。
また目が合ってすぐ、二度目ともなると不思議なのか、軽く睨むような視線を向けられる。
さすがに二度目だと怪しまれるか、と苦笑して、また視線を外した。
視線がずれる間際のアルベルの不可解そうな表情を思い出して、後で追及されるかも、と思いながらまた会話を聞いて適当に相槌を打った。



さっきの、目の合ったときの態度と言い表情といい。
やっぱり、父さんに似てはいないと思う。
「似てないな…」
もし父さんだったら、…父さんだったら?
どう反応するだろう。凝視されて目が合って、不思議そうな表情はしても不快なのを顔には出さないし、態度にも絶対出さない。
逆にどうしたの?という意味も込めて軽くにこりと微笑むかもしれない。
やっぱり似てない。というか、正反対かもしれない。
かもしれない、としか言えないのは、断定できるほどの確信がないわけで。
仕事やら任務やらで親と接する事が幼い頃からあまりなかったからかもしれない。
親孝行できてないなぁ、とまた苦笑して。
「でもやっぱりこのお話あんまりアテになりませんね」
「そうでもないと思いますよ」
「逆を突いてみたら?男の子の好きになる人はお母さんに似てるかどうか、とか!」
「あら面白そうじゃない。男性陣捕まえて訊いてみましょうよ」
ぼぉっと考えている間話が進んでいて、いつの間にやら話題が変わっていた。
「あたしロジャーちゃんに訊いてくる〜!」
「ミラージュ、一緒にクリフと暴露大会やりましょうよ」
「あら、いいですね」
「じゃあ私フェイトに訊いて…と思ったけど、私リョウコおばさんのこともうよく知ってるしなぁ…」
「ならアドレーに訊いたら?さっきフェイトと一緒に武器選んでたし」
「そうですね、そうしようと思います。あ、じゃあネルさんはアルベルさんに訊いてきてください〜」
ぽんぽんと会話が進み、気づけばじゃあよろしくお願いしますねと言い残し女性陣はその場からいなくなっていた。
…女は色恋沙汰好きと言うけど、彼女達も例外に漏れないな。
ネルはそんなことを思いながら、さっき不審がらせた事も一言言っておきたいし、とアルベルの部屋に向かった。





「…で?」
「で?って…」
アルベルの部屋へ行って、ノックして中に入って、ソファに埋もれて半分寝ていた彼の向かい側に座って。
とりあえずネルが先ほど目が合った時の状況を説明して。
真っ先に返ってきたのが数行前のアルベルの台詞だった。
「それでさっき二度も凝視して二度も視線を逸らした、と」
「そう」
「………」
はぁ、と短くため息をついて、アルベルが後ろ頭を掻く。
狭いソファーに上半身だけを寝転げて、九十度回転している視界を眺めながらアルベルは口を開く。
「女っつぅのはよくわからん」
「え?」
「なんでそんな根拠もねぇような話でそこまで盛り上がれるんだ?」
「女は色恋沙汰の話をするのが好きなんだよ」
「…ふぅん」
よくわからん、と言っておきながら、アルベルの機嫌がさりげに良くなっているのは。
ネルの説明の中で暗に好きな人、と言われたからだったりするのだが。
もちろんネルは気づいちゃいない。
アルベルがそんなことを考えていると、本日三度目の視線を感じた。
アルベルがネルを見遣ると、またじぃぃぃっと彼を凝視していた。
「…何」
「んー、観察?」
もしかして共通点あるかもしれないし、とか言いながら凝視してくるネルに、見るなとも言えず。
「……」
居心地悪そうにアルベルはごろりと寝返りをうってネルから背を向けた。



彼女は思った。
似てない。
やっぱりそう思う。
仕草と言い態度といい口調といい、まったく似てない。
例えば、態度。
こいつは他者を跳ね除けるような高圧的な態度で人と接するけど。
父さんは他者を受け入れるような柔らかい態度で人と接する。表向きは。
実際の所、父さんは特定の人にしか心を開かない野良猫みたいなところもある、と母さんがいつか言っていた気がする。
あれ、でもそうすると結構似ているんじゃないだろうか。
あ、でも二面性がある時点で違ってるか。こいつ二面性皆無でそのまんまだし。
でもこいつは気が短くてせっかちだし父さんは気が長くてのんびり屋だし。
やっぱり、似てない。と思う。
…断言できないのが悔しかったりするけど。



「あのさ」
久しぶりに口を開いたネルに、アルベルが首だけ回して視線を向ける。
「あんたは、自分の父さんのことどれくらい覚えてる?」
「は?」
首だけでなく体全体をぐるりと反転させ、アルベルがネルに向き直る。
「私は…情けないけど、あまり覚えてないんだ」
「……」
「任務やらなんやらであまり会えなかったけど、それでも…記憶から抜け落ちてるのって、寂しいね」
アルベルは寝ていた体を起こして、ネルを見る。
珍しく。
ネルが落ち込んだ表情を見せていた。
「…んなもん俺も変わらねぇよ。あいつが幽霊になって出てこなきゃ、そのまま忘却の彼方へ放り込まれてたかもしれねぇしな」
「酷いねあんた」
「記憶に残ってねぇもんはしょうがねぇだろ」
「…。でも、あんたは幽霊としてでも、会えたんだったね」
「……」
そういえば。
ネルは、父親の姿を幽霊としてでも見る事が出来ないようだった。
声も聞くことができないらしい、と、以前ネルの父親がぼやいていたのも聞いた。
まぁ、紅蛍の件で一度は会ったようだが、仕草や口調も変えていたらしいし。
というかなんで自分に見えてネルに見えないのかと、アルベルは疑問に思う。
「おいお前…」
しょげた表情をしているネルに声をかけようとアルベルが口を開いた。





「ひっさしぶりーっ!」
にゅ、とアルベルとネルの間の空間に何かが飛び出てきて。
二人は無言で体を仰け反らせて驚いた。
座っていたソファーが反動でがた、と傾き、ソファーごと倒れそうになって慌ててアルベルが体勢を元に戻す。
見ると、体が透明で黒と茶の髪の青年が、あっけらかんとした表情でそこにいた。
「噂をすればなんとやら…だね」
「…だな」
ぽかんとした表情の二人がつぶやく。
「なんだよ絶句するほど俺に会えて嬉しかったのか二人とも?」
「驚いてんだよ阿呆親父!もう少しマシな登場の仕方はねぇのか!」
「あはは、悪いね。一応普通に部屋入れって言ったのに聞かなくて」
「あ?」
黒と茶の髪の彼とは違う声が聞こえて。
アルベルは声のした方を振り向いた。
アルベルが座っているソファーの横。
肩より少し長い紅い髪の青年が、微笑みながら佇んでいた。
「あーなんか俺らの噂してたみたいだったし。聞いたらネルがネーベルの記憶が抜け落ちるのが寂しい云々言ってるし。百聞は一見に如かずって言うし、連れてきた」
「俺が行ってもあまり意味ないって言ったのに聞いてないし…」
ネーベル、と呼ばれた紅の髪の青年が、苦笑しながらぼやく。
「あっ、そーいやここ来る前なんか言ってたけど、何?」
「…やっぱり聞いてない。人の話をよく聞かないのは損だよグラオ」
「…あの」
話に置いてけぼりにされていた一人のネルが、ぽつりとつぶやく。
「んー?何ネル」
「あんた達、さっきから一体誰と話してるんだい?ネーベル、って言ってたけど…そこにもしかして父さんが?」
「え…?」
グラオと呼ばれた黒と茶の髪の青年が、ぽかんとした表情になる。
「えっ、えっ?まさかネル、ネーベル見えてねぇの!?」
「だから、ここ来る前にそう言ったのに。ほんっと聞いてないね人の話」
「は―――?なんで―――?アルベルにも見えてんのに―――!」
もし隣の部屋の人の霊感が強ければ驚いて飛び出てくるような大声で、グラオが叫ぶ。
「うるさい。…理由なんて俺にだってわからないよ。でも事実そうみたいなんだからしょうがないじゃないか」
「嘘ぉぜんぜん知らなかった…」
「お前が人の話聞いてねぇ所為だろうが阿呆親父」
ネルから見ると何もないところに向かって会話しているように見えて。
彼女は確信を持ったように訊いた。
「…やっぱり、そこに父さんがいるんだね?」
「…」
やはり見えていない上に声も聞こえていないようで、ネーベルが複雑そうに微笑した。
「…うん。ネルには、やっぱ見えねぇのか?」
「あぁ。…声も聞こえないみたいだし」
「うぁー…ちゃんとネーベルの話聞いときゃ良かった。ごめんなネル、変な形で再会させちゃって」
途端にしゅんとなって謝るグラオに、ネルは気にしないでいいよと答える。
「そっちこそ変な気を使わせて悪かったね。あんたに罪はないし、そんなに落ち込まないでよ」
「………。ネル、ちょっと待っててな」
急に表情を変えて、何か意気込んだかのようにグラオがネーベルの腕を引っ掴んだ。
「え?」
「すぐ戻るから絶対待っとけよー!ネーベル行くぜ!」
「は?おい、話を自分だけで勝手に進めるんじゃな…」
グラオは引っ掴んだ腕を引っ張りながらどこへともなく消えて、フェードアウトしたネーベルの声だけが残った。





「嵐のようだったね…」
現れて数分もしないうちにまたどこかへ去って行った二人を指してネルがぽつりと呟く。
「あいつはいつもあんなんだ」
「あはは、いいじゃないか。賑やかで明るくて」
そう言って笑ったネルの表情があまり楽しそうではなくて。
「…無理に笑うんじゃねぇよ」
思わず、アルベルは呟く。
「え?」
「無理に笑うな。落ち込んだら落ち込んだでいい。空元気の笑顔なんぞ見せんな」
「………」
ネルはゆっくりと何度か瞬いて、ふ、と笑う。
「あんたにはお見通しか…」
「当然だ、どれだけの間お前を見てきたと思ってる?」
「まだ半年も経ってないよ」
「意外に短いな」
「そうだね。あんたみたいに飽きないやつと一緒にいると、もう十年くらい一緒にいる気になってくるよ」
「阿呆か」
「ふふ」
話しているうちに、落ち込んでいた気分が少し晴れた。
何気にきっと無意識に励ましてくれたアルベルに心の中で感謝しながら、ネルはこういうところは父さんに似てるかもなぁ、と思う。





静かな、だが居心地の悪くない沈黙が流れて。
「たっだいまー!」
そして盛大に破られた。
「またお前か」
「あーうるせーバカ息子」
「うるさいのは二人ともお互い様じゃないのか?」
凛とした声が部屋に響く。
「…え?」
今までグラオとアルベルの漫才のような会話しか聞こえなかったネルが、ぴくりと反応した。
「! おぉぅ反応あった!ネル、ネル、ここにネーベルいるんだけど見える?聞こえる?」
ネーベルがいる方を指差しながらグラオが言って。
ネルはそちらを見た。
紅色の、肩より少し長い髪の青年が、ネルの紫の瞳にはっきりと映る。
「見えた…」
「うぉーすげぇ、大成功!」
わーぱちぱちぱち、と盛大に拍手して、グラオが満面の笑みを浮かべる。
「…何やったんだ、おい?」
まさか突然霊感が開花したわけでもあるまいし、とアルベルはグラオに問いかける。
「んー、ちょっとな。レナスちゃんに頼んだ」
「は?レナスってあのガキ…」
「ま、細かい事気にするとデッケェ大人になれねぇぜ!」
「………」
あはははと笑うグラオと理解できなくて眉をしかめながら無言になるアルベルと。
そして。
「…ネル、俺が見えた?」
にこりと微笑むネーベルが、ネルに向かって問いかける。
「見えるし、声も聞こえるよ。久しぶりだね、父さん」
驚きを隠せない表情で、でも嬉しそうにネルが答えた。
「あぁ、久しぶり」
「よく、事情はわからないけど。また会えて嬉しいよ」
「うん。俺も」
互いに、良く似た表情で微笑んで。
見ていたアルベルはまるで鏡のようだと思ったらしい。
「元気そうで何よりだね、ネル。素敵な恋人も出来たみたいで父さんは嬉しいよ」
「…素敵?」
思わずアルベルを見て。
「………」
微妙な表情をして黙り込むネルに、ネーベルが笑う。
「まぁ、いつも一緒にいると分かり辛いかもしれないけどね…あいつはいい奴だよ。ネルに合う相手だと思う」
「え…?そう、かい?」
「そうだよ。…父さんがどれだけの間ネルを見てきたと思う?」
あ。
あいつと同じ台詞。
「…二十年ちょっと?」
「そうだね。長いな」
「長いね」
ネーベルが言って、ネルが答えた。



「いい息子を持ったね、グラオ」
急に話を向けられたグラオが、きょとんとして。
「えっぇえー、そーかー?」
実に意外そうな顔で答える。
「だってこいつ短気で礼儀知らずで無鉄砲で、無愛想で戦闘バカで短絡的でガキで…一体誰に似たのやら」
「今言った特徴の八割てめぇにそっくりそのまま返してやる」
「なんだとー?」
「本当の事じゃないか」
くすくす笑いながら、ネーベルが楽しそうに見ている。
「お前も大変だなネーベル。こんな奴と同じ所にいて」
嫌味ったらしく言われた台詞に、グラオが面白いように反応する。
「あっどーいう意味だよバカ息子!」
「あはは、そうだね大変だよ飽きないけど」
「ネーベルてめーも納得すんな同意すんな!」
ぎゃーぎゃー言い合っている三人(実際にぎゃぁぎゃぁ言っているのは約一名)を見ながら、ネルがくすくすと笑う。
「面白いね、見てて飽きない」
「あーほらネルに笑われたじゃねーかよー」
「俺に言うな」
「同感」
「あーなんでそんなにネーベルとアルベル仲良しなのー」
「「別に」」
また、見ていて聞いていて飽きない会話を楽しそうに観察しながら。
ネーベルと、アルベルを見比べる。





父さんの特徴。
のんびり屋。気が長い。いつも微笑んでる。身内に寛容。人付き合いは浅く広く。



あいつの特徴。
せっかち。気が短い。いつも目つきが悪い。身内に容赦ない。人付き合いはどうでもよさそう。



やっぱり、似てない。
けど、





本当に大切な、物事の本質を理解しているところ。
無意識に、欲しい言葉をくれるところ。
心を許した相手には、無防備な面を見せてくれるところ。
そして、優しいところ。



よく、似てる。
大切な二人の共通点。





「やっぱり、あの話はあながち嘘でもないのかな…」
「あ?」
小さく言ったのに聞こえたようで、アルベルが聞き返してくる。
「なんでもないよ」
首をゆるりと横に振って、ネルは答えた。





「あ」
そういえば。
「ねぇ、あんたの母さんってどんな人?」
「あー?」
「さっきの、ソフィア達の話題に戻るんだけど、なんか男が好きになるタイプは母親に似た人なんじゃないかとかなんとか」
そうだそういえば最初これを訊こうとしてたんだった、とネルが思い出したように言った。
「…えー?あいつネルには似てねーって絶対」
グラオが言って、ネーベルもうんうんと頷く。
「そうなのかい?」
聞かれて、アルベルは面倒くさそうに答える。
「似てねぇだろ。俺の母親は料理が殺人的に下手でバカ正直で常に何も考えてねぇふやーっとしたヤツだ」
「………ふぅん…」
「可愛げねぇし何かあるとすぐ誰かに相談するし無駄にいつも笑ってるし…」





「…てか、あいつさり気にネルの事料理上手で素直じゃなくて可愛いって言ってるような…」
「惚気だね完璧に。しかも本人気づいてないところが面白いなぁ」
「ネルですら気づいてんのにな。あ、顔赤くなってる」
「本当面白いね。幽霊ってポジションもなかなか捨てたものじゃないな」
にやり、と笑ったネーベルに。
「(あー今の表情アルベルにそっくり…新しいおもちゃを見つけた子供の目だ…)」
グラオはそんな事を思ったとか、思わなかったとか。





「あの茶髪の子の話、あながち嘘でもねぇみたいだな…」
「え?」
「なんでもない」