疲れた時には甘いものを食べるといいらしい。 本当なら、クエン酸を多く含む酸っぱいもののほうが疲労回復には良いのだけど。 酸味の強いものより甘味が強いもののほうが好きという人が多い所為か、疲れたときに甘いものを好む人が多いらしい。 だからと言って。 「疲れた。だからなんか甘いもん作れ」 部屋にノックもなしに入ってきて、なんの悪びれもなく言われたこの台詞はどうかと思うんだけど。 ヤキモチ。 「…は?」 前置きもなしに唐突な台詞を投げかけられ、私は思わず思い切り嫌そうな顔をしながらそう聞き返した。 読んでいた本の物語が佳境に入っていいところだったのに、邪魔されて少なからず機嫌の悪い私に急な来訪者は淡々と理由を述べる。 「さっきまで鍛冶さんざん手伝わされてたんだ。だりぃ」 「…それで、なんで私が何か作らされなきゃならないんだい」 多少の嫌味をこめて言うと、来訪者と言うより闖入者なプリン頭は不満そうな顔でつぶやく。 「…お前の武器のレシピ指定やらされてたんだがな」 「う」 …確かに、今日は男共が鍛冶をやると言っていたので、半端にレシピ指定された私の武器を渡した覚えがある。 よりにもよってこいつの分担になっていたとは。 「作らねぇんだったら別のもの食うぞ」 にやりと笑いながら言われた台詞に身の危険を感じて。 「…。分かったよ、何か作ってくる」 「最初からそう言やいいんだよ」 「部屋に入るなりに横柄な台詞寄越されたらそんな気起きるわけないだろう」 とりあえずそう言い返しておいて、手に持った本を机に置いて立ち上がった。 部屋を出て工房へ向かおうとすると、後ろにいたアルベルは何も言わずについてきた。 「? なんだい」 「ついでに腹も減ってんだ。お前についてきゃすぐ食えるだろ」 「まぁそうだろうけど。ついてくるのは勝手だけど、必要以上に急かしたり邪魔したりするんじゃないよ」 「はいはい」 どうやら、疲れたから甘いもの、というよりは腹減ったから何か食えるもの、を食べたいだけらしい。 だったら自分で作ればいいだろうに…とか思いながらも、わざわざ作れと言いに来てくれた事が多少なりとも嬉しくて。 「ついさっきまで機嫌悪そうに睨んできたってのに、何笑ってんだよ」 「別に」 「…変な奴」 そんな会話をしながら工房へ向かった。 ガチャリ。 工房の扉を開けると、ふわりとした甘い匂いが漂ってきた。 「あれ、あんた達は鍛冶をしてたんだよね?誰か料理してた人もいたのかい」 「いいや、俺は知らん」 不思議に思いながら厨房に向かうと、ちょうど扉が開いて中から誰かが出てきた。 「あっ、お久しぶりですネルさん。それに団長さんも」 こちらに気づいたのか、出てきた女の子が声をかけてきた。 エプロンに三角巾、長いスカートに黒い髪。 「マユじゃないか。どうしたんだい?」 「さっき、鍛冶をしてたフェイトさんとクリフさんが、お腹すいた〜って仰ってたので。夕ご飯にはまだ早い時間ですから、何かおやつになるような物を作ろうと思って…」 「へぇ…」 やはり、一仕事終えて疲れた男共の考える事はそう大して変わらないらしい。 ふわりと漂っていた、焼き菓子のような甘い匂いはその所為だったのか。 「…そう言えば、香ばしいいい匂いがするけど、もしかしてケーキか何かを焼いてる途中かい?」 「はい。今洋ナシのタルトを作ろうと思って生地焼いてるんです」 「近くにいなくていいのかい?焦がしたりしたら大変だよ」 「大丈夫です。リジェールさんが見ててくれますから」 ウェーブがかった金髪の、貴族出身の女性の名が出て。 その名前に隣にいたアルベルがぴくりと反応したのは気のせいだろうか。 「へぇ、彼女もいるんだ」 「はい。リジェールさんもお腹すいてたみたいなんです」 いつもお腹をすかせていて、でもどれだけ食べてもまったく太っていない彼女を思い出して苦笑する。 「…あいつに任せたら、いねぇうちに全部食われちまうんじゃねぇの」 「え?」 あれ、こいつは彼女と面識があっただろうか。 最近忙しくてここの工房に立ち寄る暇もなかったから、アルベルはリジェールに会っていないはずだけど。 何で彼女が食いしん坊と知っているんだろう。 「これはフェイトさん達のだから食べないで、ってクギを刺しておいたので、タルトは無事だと思います」 マユがほやんとした口調でそう言って。 「ならいいんだがな。あいつは昔から食べ物を見たら即口に入れてやがったから」 「あははは、団長さん子供のとき何度もおやつ食べられちゃって怒ってたんですよね、お母さんが言ってました」 「黙れ」 …昔から?子供のとき? 「あ、そうか。ネルさんは知りませんでしたよね。団長さんとリジェールさん、幼馴染なんですよ」 不思議そうな顔をしているのに気づいたのか、マユが説明をし始めた。 「そうなのかい?」 「はい。確か、家がすごく近かったんですよね?お二人とも同い年ですし、小さいころはよく一緒に遊んでたって聞きましたけど」 「へぇ…」 確かにアルベルはカルサア出身と聞いていたし、年や家が近ければ子供の頃に一緒に遊んでいても不思議ではないだろう。 言われてみれば同じ町に住んでいるなら知り合いでも当然だ。 「…つか、あいつもここにいんのかよ…」 何故か嫌そうに呟くアルベルに、マユが笑う。 「そうですよ。会うの久しぶりでしょ、団長さん。積もる話もあるんじゃないですか?」 「あいつの頭ン中は寝る事食うこと食べる事しかないから旅の話なんかしたって無駄だろうに」 「団長さん、食うことと食べる事って一緒じゃないですか?まぁ的を得てますけど」 話し振りからして。長い付き合いらしい、ということは感じ取れた。 …別に、あいつが誰と知り合いであろうが、私には関係ないけど。 …関係、ないけど。 なんだろう。 胸の辺りがもやもやする。 「あ、立ち話もなんですし、厨房行きましょうか。ネルさんもお料理に来たんですよね?」 私が持参していたエプロンを見て判断したのか、マユが確認するように訊いてきた。 「あぁ、そうだよ」 「ネルさんがいてくれれば作業もはかどりますね!」 手を首の前あたりで合わせながら、にこにこと嬉しそうにマユが言って。 「団長さんもきっとお腹すいてここに来たんでしょ?良かったですね、早めに食べられますよ」 「………」 アルベルは何故か無言のままだった。 「リジェールさん、タルト見ててくださってありがとうございましたっ」 厨房の扉を開けてすぐ、マユがぱたぱたとオーブンの方へ向かった。 オーブンの前で火加減を見ていた白い服の女性がゆっくりとした動作で振り返る。 「あらマユちゃん、おかえり。…と、あらぁ?」 金髪の女性は、マユの後ろにいた私達を見てほやんとした瞳をわずかに見開いた。 「アルベルじゃない。それにネルさんも。お久しぶり」 言いながら、リジェールはこちらに向かってゆっくりゆっくり歩いてくる。 相変わらず動作がゆっくりな人だな。そう思っていると。 「お前は相変わらずトロいな」 同じような事を隣のアルベルが口に出した。 「うるっさいわねぇ。あなたがせかせかしすぎなのよ」 口を尖らせながらリジェールが呟く。 「食うことに関しては家庭内害虫並みに素早い癖に」 「あっひっどぉい、食料食べ散らかすあの害虫と一緒になんかしないで」 「他人の食い物を勝手に食う点では一緒じゃねぇか」 「おやつの時間になるたびに私の家来て出されたお菓子ぜぇ〜んぶ食べてたあなたに言われたくないわよ」 何やら言い争いになってきた二人を見ていて。 私にはまったく関係ないはずなのに。 やっぱり。 胸の辺りがもやもやする。 決して心地よいとは言えないその感情の所為か。 無性に、苛々する。 そんな事を思っている私に気づいたのかそうではないのか、マユがタイミングよく声をかけてきた。 「…ネルさん、先に料理に取り掛かってましょうか」 「……。そうだね」 二人の方を見ないまま、無理に笑ってマユにそう答えた。 とりあえず、デコレーションケーキでも作ろうと、材料と道具を探す。 「あ、待って待って〜私も料理する早く食べたい〜」 慌てたようにリジェールがこちらに来て。 「あなたの分は作ってやりゃしないからね〜だ」 振り向いてアルベルにべーっと舌を出して、リジェールがそう言い放つ。 それを見てはっ、とアルベルが鼻で笑って。 「いんだよ別に」 リジェールではなく、何故か私の方を見てきた。 何かと思ってアルベルを見返すと、至極当然そうに、 「俺どうせこいつが作ったのしか食わねぇから」 「…え」 思わず口から声が滑り出る。 周りの二人もぽかんとしていた。 「…ふぅ〜ん?」 いち早く元の状態に立ち直ったリジェールがにまりと笑って。 「へぇ〜、へぇ〜…。そうなんだ。なら、あなたの苦手な甘いもの作ってもらっちゃおうかな」 意地悪く笑ってリジェールが呟く。 「え、苦手…?」 今度は私がぽかんとなって、思わず呟いた。 「そうなの。アルベル甘いもの苦手で見ただけで吐き気がする〜とか言いやがってたのよ」 「そうそう、前私がケーキ作ったときなんか厨房の前の廊下通りかかっただけで、"甘ったるい匂いがしてムカつくからちゃんと扉閉めやがれ!"な〜んて言ってきたんですよ」 マユも便乗して説明だかアルベルに対しての文句だかどっちかわからない台詞を言ってくる。 …あれ? 「…こいつ、甘いもの嫌いだったのかい」 「「え?」」 今度は、リジェールとマユの口から呆気にとられたような声がして。 「…え、はい。ネルさんがそういう風に言うってことは…団長さん、甘いもの平気になったんですか?」 「えぇえ〜嘘ぉ信じられない、前まで甘いもの近づけるだけで逃げてたのにぃ」 私達の会話から、これ以上ここにいても面倒なことになるだけだと判断したのか。 「あっ逃げる気ですか団長さん!」 「待ちなさいよぅどういうことか説明してったらどうなの!」 背を向けて厨房から出ようとするアルベルの背中に、女性二人の質問が投げられる。 うざったそうに振り向いて、アルベルは女性二人を見やる。 続いて私を顎で指しながら、 「こいつの影響」 アルベルはいたってさらりと簡潔に答えた。 「なっ…」 何か言い返そうとしてでも声が詰まってしまって、 「その辺で寝てる。…出来上がったら呼べよ」 いけしゃあしゃあとそう告げてさっさと出て行ってしまったアルベルの背中を睨む事しかできなかった。 「…ネルさん、甘党なんですか?」 「そうなの?」 きょとんとした大きな瞳が二つ、こちらを見ていて。 「…そうだけど」 扉越しにアルベルに怒鳴る気力も失せて、とりあえず答えた。 各自お菓子作りに取り掛かって、数分ほど経った頃。 「"あの"アルベルがねぇ…」 ほへ〜、とどこか間の抜けたため息をつきながら。 リジェールがこちらを見てきた。 「な、何」 ケーキのスポンジの生地を作りながら、聞き返す。 「…女の子に興味無さそうだったのに、ふぅ〜ん…人は変わるものなのねぇ」 そんな事を言いながら、リジェールは五人分のフルーツパフェに盛り付ける果物を切っている。 マユは二個目の洋ナシのタルトの生地を型に敷きこみに入っていた。 「あの、えっと…。だから、リジェールさんはもうちょっと団長さんの悪口控えてもらったほうが…」 マユがおずおずと言ってきて、別に気にしなくていいのに、と言おうとしたが。 「あ…」 両頬に手を当てながら、さーっとリジェールの顔が青ざめて。 「ご、ごめんなさい――――!彼女さんの目の前で悪口ばっかり言って…」 深々と頭を下げて思い切り謝ってこられて、こちらが逆に慌ててしまった。 「あ、別に気にしてないから。そんなに謝ることでもないよ。…それより、ひとつ訊きたい事があるんだけど」 「なぁに?」 ゆるりと首を傾げてくる。 「…あの、あいつが甘いもの苦手だってさっき聞いたけど…本当に、見ただけで吐き気もよおすような酷さだったのかい?」 甘いものが苦手だと言うのは知っている。だが、見ただけで吐きそうになるほどではなかった。 実際、よく甘いものを食べている姿を見たことがあるし。 苦手とは言っても、好き好んで食べるほどではない、といった程度のものかと思っていた。 「あぁ…ん〜、ちょっと複雑な事情があったのよねぇ…」 苦い顔をして、リジェールは口を開いた。 「アルベル、元は甘い物好きだったのよ。でもね…。あ、アルベルのお母様が、料理駄目なのは知ってる?」 「あぁ。確か、毒食った方がマシなくらい殺人的とか…」 本当かどうかは知らないけど。 「そうそうそうなの。で、子供の頃ね、アルベルのお父様が任務でいない時、どーっしてもお母様の料理が半分以上食べられなくてお腹減ったからって、私の家にきておやつ貰ってたのよ」 「あぁ、それですね、出されたお菓子ぜんぶ食べてた、って言ってたの」 マユも興味があったのか、面白そうに話を聞いている。 「うん。でね、そんなことが続いてたんだけど、ある日生クリームが極端に入ったケーキをお腹減ったからってまるまるワンホール食べたら、気持ち悪くなったらしくて胃の中のものぜーんぶ吐き出しちゃって」 「うわ…」 確かに生クリームは油分が多いから、それだけ食べれば気分が悪くなるだろう。 「それからまる三日寝込んで、水とお茶しか喉を通らなくなっちゃって」 「そ、それは大変でしたね…」 「それから、甘いもの見るだけでダメになっちゃった、ってわけ。だから驚いたのよ、甘いもの平気、って聞いた時」 「へぇ…」 一通り説明が終わって。 とりあえず、あいつが甘いもの嫌いになった経緯は分かった。 でも。 それを訊いたのは私なのに、リジェールがあいつの事を話してくれているのを聞いていて。 リジェールは。 私の知らないあいつを、沢山知ってるみたいだね。 そう思ったら。 また胸の辺りがもやもやしてきた。 「…あの、ネルさん。なんだかすっごくコワイ顔になってますけど…」 マユに言われて、はっとなる。 「え、あ、ごめん」 思っていることが顔に出るなんて、私もまだまだだなと思っていると、 「あっ、わかりました!ネルさん、リジェールさんのお話聞いてヤキモチ焼いちゃったんですね!」 「なっ…」 心を読まれたかのようにずばりとそう言われ、二の句が告げなくなった。 「だってだって、さっき団長さんとリジェールさんが会話してたときも、おんなじ顔してましたもん」 「あらら、そうだったの?焼くんならヤキモチじゃなくてお菓子か何か焼いて欲しいかなぁ、私…」 何故かズレた事を言っているリジェールの台詞に、反論する気力も失せてしまう。 「でもね、私とアルベルは、なんっ」 「でもない、ただの幼馴染だから。気にしないで?」 「あ、あぁ…」 やけに勢い良く言われた台詞に、思わず反射的に頷く。 「それにねぇ、アルベルのあの甘いもの嫌いを治したの、ネルさんなんでしょ?」 「…そう、みたいだね。私は別に、特別な事した憶えはないんだけど」 「そう!それですよ!特別なコトしてないのにあの団長さんが甘いもの平気になったってコレスゴイことですよ!」 マユが拳を握り締めて力説する。 …そんなにまであいつは甘いもの嫌いだったのか。 「そうそう。…アルベルが他人に影響されるなんて、前までは考えられない事だったもの」 「ですよね。他人に会わせるのが大嫌いで我が道突き進んでる団長さんが、だなんて。今でもびっくりしてますよ私」 「あいつも人に合わせる事を覚えたのか、それともネルさんだったからなのか…ふふふ、どっちかしらねぇ」 「後者ですよvヤキモチやいちゃう必要ないくらい、仲良しさんですもん!」 「………。えーと、とりあえず料理再開しないかい…?」 なんと答えればいいかわからず、とりあえず話題を変える。 幸いにもそれで気が変わってくれたようで、二人ともそうですね、と作業を開始した。 ほっとなって、私もデコレーションケーキの生地を型に流し込んで、オーブンに入れた。 それからまた、数十分経って。 「出来た―――v」 「いい匂いv」 テーブルに、出来上がったお菓子達が所狭しと並べられた。 「あぁ、お腹へった…ねぇ、みんなが来る前に私達だけちょっと食べない?」 「…リジェール、あんた作る最中も半分くらいつまんでたのにまだ足りないのかい…」 「それはそれ、これはこれ〜」 とか言いながらてきぱきと用意を始める。 もう先に食べる気満々のようだ。 「いいじゃないですか。お菓子は作るのに時間がかかるものって皆さん分かってるでしょうから、ちょっとくらい待っててくれますよ」 「…そうだね」 早く食べたいオーラを出している二人に負けて、デコレーションケーキを三切れ切った。 他のおやつもあるし、夕飯が食べられなくなっては困るから心持ち小さめに。 小皿に分けて、マユとリジェールの椅子の前に置く。 最後に私の座っている椅子の前に置くと、ちょうどマユが紅茶を入れ終えたところだった。 フルーツパフェとデコレーションケーキと洋ナシのタルトがテーブルに並ぶ。 「んじゃ、いただきまーっすv」 「いただきます」 「いただきますっv美味しそーうv」 やはりおやつ時でお腹が減っていたのか、二人は美味しそうにぱくぱくと食べている。 私のデコレーションケーキも、美味しそうに食べてくれていて。 自分でも一口食べてみると、なかなかに美味しく出来ていた。 うん、上出来上出来。 二口目をフォークで切って、口に運ぶ。 ばたーん。 扉の開く音がして、振り向く。 こちらを睨んでいる、アルベルがいた。 「…出来たら呼べっつったろうが。何先に食ってんだよお前ら」 低い声でそう言われ、マユがびくっと反応する。 「だぁってお腹へったんだもん」 「………」 動じていないリジェールの、彼女らしい答えに、はぁ、とアルベルがため息をつく。 「…お前まで何先に食ってんだよ阿呆」 「…いいじゃないか別に。そろそろ呼ぼうかと思ってたところだよ」 「んなら早く寄越せよ甘いもの」 「はいはい、今持ってきてやるか、ら…!?」 アルベルの分を持ってくるために、立ち上がろうとした瞬間。 顔の横からにゅ、と手が伸びてきて、私がさっきまで食べていたデコレーションケーキがなくなっていた。 「は…?」 驚いて振り向くと、アルベルの顔がすぐ傍にあって。 アルベルの口はもごもごと動いていて、指にはデコレーションケーキのクリームがついていて。 「あ、あんたそれ私のなんだけど!」 アルベルにケーキを食べられたと理解して怒鳴る。 「うるせ、どーせすぐ次の持ってくんだろ」 「作ってもらっておいてなんなんだいその言い草は!しかもそれ食べかけだったのに!」 「呼びにくるの遅かったお前が悪い」 途端に口喧嘩になる。 「なーんだ。やっぱり、ヤキモチ焼く必要ないくらい仲良しさんですねv」 「いろんな意味で"ごちそうさま"ねぇ」 「夫婦喧嘩は犬も食わないって言いますけど、リジェールさんはどうですか?」 「私も勘弁願いたいわねぇ〜だって食べる前にすぐ仲直りしちゃいそうだもの〜」 隣で、二人がこんな会話をほのぼのと続けているのに気づくのは、それから数分後。 「…お腹すいた…マユちゃんとリジェールさん、まだかなぁ…」 「やっぱタイムの遅くなるリジェールに頼んだのは間違いだったみてぇだな…」 「そうかもね…とほほ」 「腹減った〜…」 当初の目的だった、フェイトとクリフに差し入れがやってくるのは、それからまた数十分後の事。 |