我侭という感情は必ずしも負の感情とは限らない。






我侭の方程式





「初詣に行かない?」
そう、フェイトが告げたのは。
三箇日も過ぎてお正月ムードも落ち着きはじめたある日。
彼の言うことは唐突で、それは私自身が一番よく知っていて理解していて。
だから、普段はそんなに驚かないんだけど。
今回は言われたことが結構意外で、私は目を丸くした。
「初詣?」
「うん。初詣」
「え…でももうお正月が終わって結構経ってるよ?」
「年が明けてから初めて参詣するのが初詣だから、そんなの気にしないでいいって」
そう、独自の思わず納得してしまう理論で言われて。
久しぶりに、フェイトとどこかへ遊びにいけるかもと思って心が跳ねた。
「それに、ジェミティってこういうイベント多いし、多分三箇日とかも忠実に再現してるだろ?だから行っても混んでるだろうし、お正月浮かれムードも収まりつつある今がいいかなぁって」
なるほど、フェイトも考えてるんだ。
前もリーダー性があるなって思ってたけど、今回の冒険で磨きがかかってるね。
「いつ行くの?今日、これから?」
「うーん、皆次第かな。まだ全員に意見訊いてないし、承諾も貰ってないし」
「そっか…」
あ、やっぱりまだ皆には意見訊いてなかったんだ。
てことは、真っ先もしくはかなり早い段階に私に訊きに来てくれたんだね。
そう思って嬉しくなる。



「皆もきっと、賛成してくれるよね、初詣」
「そうだといいよな」



一年ぶりの行事。
いつもは家族で行ってたけど。
今年は大切な皆とそしてフェイトと一緒に、初詣。



家族で行くのがつまらなかったわけじゃないけど。
にぎやかな、パーティの皆と行けるのが嬉しくて。
それと、フェイトと一緒にいけるのがすごく嬉しくて。
楽しみでしょうがない。
私は自然と笑顔になった。





その、笑顔がだんだん曇ってきたのは。
初詣行こうという案に全員が承諾して、善は急げですぐに出発して。
予想通りお正月イベント真っ最中のジェミティに着いて、皆で歩き始めて数分後。
「今日は皆で一緒にまわろう」と、フェイトが告げてから。








がやがやがやがやざわざわざわざわ。
周りにいるのは人、人、ヒト。
昔見た、「満員電車」っていう人がすし詰めになった状態程ではないけど、自分の半径1メートル以内に常に五人は人間がいますってくらいの人だかり。
…うぅ、人ごみ苦手なんだけどな…まぁ、しょうがないか。
フェイトの予想は外れて、三箇日以降も人だかりは絶えていなかった。
どうやら福袋無料配布イベント?というものが開かれているらしく、ジェミティはいつも以上に活気に満ちていた。
私以上に人ごみ嫌いらしいアルベルさんが真っ先に回れ右したけど、「輪を乱すんじゃないよ」とネルさんが説得(?)して。
なんとか、パーティ十人全員でお正月イベント御用達の赤い鳥居をくぐった。
先頭付近にいるフェイトは、お正月がなんたるかをまだ理解していないアドレーさんや、お正月イベントは二回目だけど細かいところまでは知らないだろうネルさんやアルベルさん―――つまりはエリクール組に。
「さっきくぐって来たのが、"鳥居"。で、あの白い紙が"おみくじ"。今年一年の運勢が書いてあるんだよ」
そうやって意気揚々と解説していた。
私は。
「なーなーソフィア姉ちゃん、あれなにあれなに?」
「ソフィアちゃん、この甘〜い匂いなぁに?ここに入った時からずーっと気になってたんだけど」
最後尾で、おチビちゃん二人に手を繋がれて、そんな可愛らしい質問に答えていた。



これはこれで。
楽しいよ。楽しいんだけど。
でも。
今日は皆でまわろう、って。
何それ。



…嫌じゃないけど。
つまらない訳じゃないけど。
ちょっとでも、二人っきりになる時間を作ってくれたって。
バチは当たらないと思うんだけど。





こんな時、自分がどうしようもなく嫌な人間に思えてくる。
我侭で、自分勝手。
フェイトは、皆に、全員に楽しんでもらえるようにってがんばってるのに、私は彼を独り占めすることばっかり考えてる。



ここでみつけた、方程式。
私の我侭=彼と一緒にいたい





うぅ。
フェイトの言葉で降下していた気分は、苦手な人ごみの真っ只中にいる所為かさらに急降下している。
あー。なんか気分悪い…。
気分の悪さを周りに気づかれないように(だって個性的だけど心配性さんが多いメンバーだし)表情に出ないように、気をつけていたけど。



「ちょ、ちょっと待ってアルベル。この服歩きにくいんだからもう少し歩くスピード落としてほしいんだけど」
「…あぁ、そういや運動に不向きこの上ない服だったな、お前が着てるの。脱がしやすいのはいいがこういうときは不便だな」
「…こういうとこでそういうセクハラまがい発言するんじゃないよ…と、とにかく悪いけどもう少しゆっくり歩いてくれないかい?不慣れな事もあるし…その、はぐれちまいそうだから」
「…ふん、ならこれでいいだろ」



ぎゅ。



少し離れたところで。
隣を歩くネルさんの手を、極自然な動作で指を絡めて軽く握ったアルベルさんが見えた。



「!? ちょ、そんなことしなくたって」
「こーすりゃ歩調合わせやすいしはぐれる心配もねぇだろ、一石二鳥だ」
「皆見てるだろう!」
「今更照れんじゃねぇよ」



手を繋いで、一緒にいるお二人さんを見て。
…フェイトと二人になりたいなぁ、って思う気持ちが、さらに倍増して。
二人っきりじゃなくてもせめて一緒にいたいなぁ、って、思っちゃって。
気分の悪さも手伝って、重いため息をついたら。



「ねぇねぇフェイトちゃーん!ソフィアちゃんが具合悪そうだよ!」
「おーいフェイト兄ちゃーん!ソフィア姉ちゃんが体調悪そうじゃんよ!」



両側からステレオで、高い声が響いた。
え、ちょっと待って二人とも。
そう言おうとしたけど。



「え?」
「どした?」
「大丈夫かい?」
「あら、確かに顔色悪いわね」



すでに、フェイトもその傍にいた皆も足を止めて振り返った後だった。
次々に心配そうな顔で声をかけられる。
あぁ、いつも思うけど良い人達だなぁ…。
なんて、感動してる場合じゃない。
私一人の我侭で、皆を足止めさせるなんて嫌だもん。
そもそも、ちょっと考え事してただけだから、体調悪いわけじゃないし…。



「だ、大丈夫です!全然平気ですから!」



心配してくれた皆に申し訳がなくて。
慌てて私はそう言った。
のに。



「ごめんマリア。先行ってて」
フェイトがそう申し出て、マリアさんも苦笑して頷いて。
…えぇっ?
待ってよフェイト、皆で行くんじゃなかったの?
そう言おうと口を開いた時、フェイトに手首を掴まれた。
そのまま人ごみの外へ引っ張られる。
「えっえっえ、ちょ、フェイト?」
自分でも情けないくらいにうろたえながら、なんとかフェイトに声をかける。
でも、フェイトは止まってくれずに私の手を握ったまますいすいと人ごみを抜けていく。
途中、くるりと振り向いて私ににこっと(珍しく黒くない)笑顔を向けた後、視線をずらして、
「後で合流するから。まぁ、適当にぶらついててよ。もし人ごみの所為で合流できなかったらお昼御飯時に入り口の鳥居に集合しよう」
「OK。ソフィアは任せたわよ」
「りょーかい」
フェイトはマリアさんとの会話を終えた後、また私の手を引っ張って人ごみを抜けていった。





「だ、大丈夫だよ!皆に心配かけたくないし、戻ろうよ」
「いいからいいから」
「本当に大丈夫だから…」
「ソフィアの大丈夫は大丈夫じゃないから」



その一言で、私の反論はすぱっと切り捨てられた。
…心配かけたくないのに。
皆にも、気を遣わせたくないのに。



…でも。
反面、フェイトと二人っきりで一緒にいられて嬉しい、と思う私も、心のどこかにいる。
…嫌な女。
我侭で、自分勝手で。
なんで、皆に心配かけてまでこんな風に思うんだろう…。





やがて人ごみを抜けて、フェイトは辺りを見回してベンチを見つけ出し、私をそこに座らせた。
座った私がうつむいていると、フェイトは私に視線を合わせるようにしゃがんで顔を覗き込んできた。
「平気?」
「え?…だから、大丈夫だって」
「お前自分では気づいてないかもしれないけど、さっき土気色の顔してたんだぞ」
「え?」
驚いて顔を上げた私に、フェイトはほらやっぱり気づいてなかったな、と苦笑する。
苦笑したフェイトの顔が、次の瞬間には申し訳なさそうに歪んでいた。
何か声をかけようとしたら、先にフェイトが口を開く。
「ごめんな。お前が人ごみ苦手だって知ってたのに、こんなとこ連れてきて」
「えっ」
「予想に反して混んでたからなぁ…って、これ言い訳か。とにかくごめん」
しゅんとしているフェイトが珍しくて。
彼にそんな、滅多にしないような表情をさせているのが申し訳なくて。
「そ、そんなことないよ。初詣は楽しいし、私だって来たかったもん」
初詣に行かないかと言われて、即座に行きたいと思ったのは本当だし。
「それに私は皆と一緒にここに来れて嬉しいよ?そりゃ、確かに人ごみはちょっと苦手だけど、気分悪かったのその所為だけじゃないし…」
「え?」
「…あ」
慌てて私は口に手を当ててふさぐ。でも。
「…その所為だけじゃ、ない?他になんか原因あったのか?」
時既に遅し。
フェイトは私の顔を、不思議そうにでも真っ直ぐに覗きこんでくる。
緑の綺麗な瞳に、考えている事がすべて見透かされているような感覚になって。
「…。言ったら笑うもん…」
「笑わないよ」
フェイトは私が居心地の悪さを感じているのに気づいたのか、立ち上がって私の隣に腰掛けた。
「笑わない?」
「笑わない」
「…」
観念するしか、ないみたい。
まぁ、最初からフェイトがうまく誤魔化されてくれるなんて、思わなかったけど。今までの経験上。





「…フェイトと一緒にいたかったの」





「え?」
「だってフェイト、せっかく一緒に初詣に来たのにネルさんやアルベルさんとばっかり一緒にいるんだもん!そりゃ、説明しなきゃならないし皆でいるのも楽しいけど、けど…。でも私も、フェイトの傍にいたいの!フェイトと一緒にいたいの!」
「………」
あーあ、言っちゃった。
自分でも子供っぽい言い分だなぁ…。って思う。
隣に座っているフェイトは、こちらをきょとんとした顔で見つめてきた。
心持ち、目がまるーく開かれてる。
あぁ、呆れられたなぁ…そんなことを思っていると。
「…え、で…それで、気分悪くなったっていうか落ち込んでたのかよ?」
「…そうだよ」
「………あー…。うん、ごめん」
「謝らなくていいよ…自分でも、我侭だってわかってるし。フェイトは皆のために頑張ってたんだし。てゆーか謝んなきゃいけないの私だし…」
言っているうちに、本当に自分が我侭なんだって実感しちゃって。
また気分が降下し始めて、はぁ、とため息が出た。
「…別に、我侭じゃないだろ」
「我侭だよ、私。フェイトが皆をつまらなくさせないために頑張ってたの邪魔しちゃったし…」
「我侭じゃないって」
「我侭だよ」
「…じゃ、僕も我侭だな」
「え?」
思わず、フェイトを見る。
フェイトはにこにこと笑って、言った。
「だって僕もソフィアと一緒にいたいって思ってるから」



………。
え?
「それに皆をつまらなくさせないために説明してたのだって、エリクールの皆がつまらない顔してたらお前がまた気を遣うだろ?それが嫌だからしてたんだし」
「え、え?」
「僕だって一緒にいたかったんだぞ?お前がここ来て真っ先にスフレとロジャーに懐かれて一緒に両手繋いで歩き始めたの見て、ちょっとがっかりしたのも事実だし。ネルさんとアルベルは説明聞きながらちゃっかり手繋いでラブってるし」
「……」
そう言ったフェイトの顔が、拗ねた子供みたいで。
「…なっ、笑うなって言った張本人が笑うなよ」
思わず私は笑ってしまって、フェイトに睨まれた。
「ご、ごめんごめん。…そっかー、そうだったんだ?」
なんだか私達、空回りしてるなぁ。
そんなことを思う。



「私だけ、我侭言ってたかと思った」
「僕だって我侭だよ」
「そっか。一緒、だね?」
「そだな、同じだな」





ここでみつけた、方程式。
彼の我侭=私と一緒にいたい
私の我侭=彼の我侭





「…さて。そろそろ気分良くなった?」
「あ、うん」
実際。
座ってたら人ごみで悪くなっていた気分も良くなったし、ココロの中で悶々と考えていたことを話せたからかな、どこかすっきりした。
さっきに比べて晴れやかな表情でそう答える。
「そっか、良かった。じゃ、そろそろ行こうか?」
「…あ、うん…」
そうだった。
私が休んで気分が良くなれば、皆と合流する。
マリアさんにそう言ってたっけ…。
もう、我侭はこの辺でお終いだね。…ちょっと残念だけど。



「…どした?ため息ついて」
残念だって思ったら、無意識にため息をついていた。
気づかれて指摘されて、急だったからちょっと焦って返事する。
「あっ、え、別になんでも」
「なんでもないならそんなに焦らないだろ」
「…。…やっぱり我侭だってわかってるんだけど、もう皆と合流しなきゃならないなって思って…」
「………」



フェイトは一瞬押し黙って。
次の瞬間には、いたずらっ子のようににやりと微笑んでいた。
…え?
私がその急激な表情の変化に驚いていると、フェイトはそんな表情のまま口を開く。



「なぁソフィア」
「なぁに?」
「僕も我侭だからね」
「へ?」



「じゃ、行こっか」
フェイトはそう言って私の手を握ってゆっくりと立ち上がらせる。
え、ちょっと待って。
さっきの、微妙に脈絡のないセリフは何。
そう訊こうと思ったけど、手を繋いでくれたことが嬉しくて(私も現金だなぁ)訊くタイミングを逃してしまった。
「う、うん」
「確か、マリア達はあっちに行ったよね」
フェイトが、人ごみの流れを見ながら呟く。
視線の先には、さっきまで歩いていた道の先にある大きな十字路。フェイトはその十字路の右側を見ていた。
私はフェイトに引っ張られるがままに歩いてたから、マリアさん達がどっち行ったかなんて見てなかったけど。
そっか、フェイトはちゃんと見てたんだ。しっかりしてるなぁ、そういうとこ。
そう思ってちょっと見直した。
「さ、行こうか」
フェイトが私の手を握ったまま、にこりと笑う。
たまに黒いけど、でも私の好きな優しい顔。
「うん!」
私も笑って頷いて、フェイトの隣に並んだ。
二人で、人の少ない道の脇を歩き出して、十字路を右に曲がる。





その後。
ちょっと寄り道して、近くにあったおみくじを二人でひいた。
結果。フェイトは大吉、私は凶…。
「新年早々幸先悪いなお前」
「ほんと…前途多難だよ。いいなぁフェイトは、大吉なんてひけて」
あぁ、ただのおみくじとはわかってるんだけど…それでも気にしちゃうのが人の常。
というか、私って占いとかジンクスとか結構気にしちゃう性格なんです、不便なことに。
結果に落ち込んでいると、フェイトが面白そうにこちらを見てくる。
「木の枝にくくっとけば平気だって」
「でもー…凶だって事実は変わらないもん」
「…ったく、いーからほら、くくってやるから貸せって」
「はーい…」
言われるままにおみくじを渡す。
フェイトは受け取ったおみくじを、細長く折り曲げて。
何かを一瞬考えて、私のおみくじと自分のおみくじを広げなおして、重ねた。
「え、何やってるの?」
「二枚重ねてくくれば、そのおみくじは凶+大吉÷二でちょっとは平均的な運になるだろ」
言いながら、フェイトは二枚重ねの状態で折りたたまれたおみくじを、そのまま枝にくくりつける。
「…その理論、どこから出てきたの?」
「僕の脳内から」
「………」
フェイトらしい。
即座にそう思って。
「ふふ、ありがと。…でも、そうするとフェイトの運が悪くなっちゃうんじゃない?」
「いいんだよ、ソフィアだけが運勢悪いのも不公平だし」
「………」
思いがけず嬉しい言葉をもらってしまいました。
…どうしよう、かなり嬉しい。
足して二で割った、運の効果があったみたいで。
フェイトの自分的理論も、あながち外れてもないのかな?
そんなことを思う。



おみくじをくくり終えて、また私達は歩き始めた。
マリアさん達は今どの辺にいるのかな?
そう思いながら、人ごみに視線を巡らせる。
きょろきょろしながら歩いていると、ところどころにある出店が視界に入った。
「あ!猫のお守り売ってる!ねぇフェイト、ちょっとそこの出店に寄っていい?」
また寄り道になっちゃうから、…さすがにちょっとまずいかな、と思っていると、
「ん、いいよ。見ていこうか」
あっさりOKされてちょっとびっくりした。
でも、さすがにマリアさん達に悪いから早めに選ぼうと思って、数あるお守りに視線をめぐらせる。
へぇ、お守りの他に猫の形の鈴とか、猫の破魔矢なんてのもある。
…猫って十二支に入ってなかったよね、という突っ込みはジェミティでは厳禁かな。
「んー…」
心持早めに視線を移動させていると、ある一つのお守りが目に留まる。
ピンク色で、ふわふわ素材で、小さくって可愛らしい猫のお守り。
あー、でも隣のオレンジ色の子も捨てがたい。私って暖色系の色が好きだから、いっつも悩むんだよね…。
「ねぇフェイト、このピンクのとオレンジの、どっちが可愛いかなぁ?」
「え?…うーん…僕としてはピンクの方かな。ソフィアってなんかそんなイメージあるし」
「じゃ、ピンクにしようかな。すみません、これ下さい」
店員さんに書いてある値段のフォルを渡す。飲食代以外は入場料に入ってないから、ちゃんとお金払わなきゃいけないもんね。
帰ったらさっそく杖か何かにつけよう、と決めて大事に袋にしまう。
「じゃ、行くか」
屋台に背を向けて歩き出しながら、フェイトが首だけ振り向いて言った。
「うん。あーあ、オレンジの子も捨てがたかったなぁ…」
でも同じお守り二個買うのも、欲張りだって思われそうだし…。
うーうー唸りながら私が何度もお守りの屋台に視線をやっていると、フェイトが苦笑して声をかけてきた。
「二個買ってくればよかったじゃないか」
「でもー…。お守り二個も買ったら、なんだか欲張りな感じがしない?」
「そうか?僕はそう思わないけどな」
フェイトはそう言ってくれてるけど、でも…うーん。
買い物に対してはとことん優柔不断な(自覚あるけど治らないんだもん)私を見かねたのか。
フェイトがまた苦笑した。
「…まったく。ちょっと待ってて」
え?
私がフェイトを見ると、彼は既にさっきのお守りの屋台へ向かっていた。
オレンジの猫のお守りを店員さんに渡して、フォルを払っている。
………。買って、くれたの?わざわざ?
「ほら。…僕から貰ったものなんだから、別にソフィアは欲張りにはならないだろ?」
そう言って、お守りの入った紙袋を渡される。
「………」
うわ。
すごい嬉しい。
「…ソフィア?」
感動に浸っていると、フェイトが怪訝そうに顔を覗き込んでくる。
「あ、ごめん。…ありがとう!すっごく嬉しい」
「それは何より」
そう言って歩き出したフェイトの隣に並んで、私は笑顔のまま歩き出す。
「さ、行こっか。早くマリアさん達に追いつかなきゃね」
「…そうだな。…ま、当分追いつくことはないと思うけど…」
「うーん、そうだよね。…結構寄り道しちゃったからなぁ」
ちょっとはしゃぎすぎちゃったかな。と少し反省する。
「ま、それもあるけど…な」
「?」
言われた意味がよくわからなくて、首を傾げてフェイトを見上げる。
フェイトはにこりと笑って。
楽しそうに、口を開いた。
「だってマリア達が歩いていったの、本当はこっちじゃないから」





「…。えぇっ?」
思わず立ち止まって、フェイトを見る。
フェイトは相変わらずにこにこ笑ったまま。
「それ、本当?」
「本当。マリア達が行ったのはあっち」
歩いてきた道とは反対方向を指差される。
…ってことは、さっきの十字路の左に曲がった方、ってこと?
じゃあなんで私達は、十字路を右に曲がったこの道にいるの?
「…ど、うして?早く合流しなきゃいけないのに」
少しぽかんとしながら、私がそう訊くと。





「言っただろ?…僕は我侭だって」



笑いながらフェイトは答えた。



「え?」



思わず、目を丸くしたら。





「ソフィアと一緒にいたかったってことだよ」








「…そ、のために、こっちの道来たの?嘘ついてまで?」
ぽかんとしながら、心持ち赤い顔で問いかける。
フェイトはちょっと拗ねたような顔になって、
「…お前は嫌だったのかよ」
逆に問いかけてきた。





「そんなわけ、ないでしょ」



私は首を横に振る。
そして。
フェイトを見上げて、言ってやった。





「私も、我侭だから。ね?」








「そっか。一緒、だな?」
「そうだね、同じだね」





さっきも繰り返した言葉を。
もう一度繰り返す。





「なんだか、さ」
「ん?」
「二人で一緒のこと考えれるのって、幸せだね」
「…そだな。ま、僕の我侭叶えられるのはソフィアだけしかいないわけだし」
「そんなの私も一緒だよ。私の我侭叶えられるのはフェイトだけだもん」
「…そっか。幸せ、だな」
「そうだね。幸せ、だね」








今日みつけた、方程式。



私の我侭=彼と一緒にいたい
彼の我侭=私と一緒にいたい
私の我侭=彼の我侭



それと…。





私の我侭+彼の我侭=、





しあわせ、無限大。