そんな、ある意味コントのような会話が何度か繰り返され。 なんとか彼らの制作物が"料理"になってきた頃。 ばたばたばたばた、とこちらに向かう足音が聞こえてきて、ばたん!と勢い良く厨房の扉が開いた。 「ちょっと!? 窓から煙が出てるじゃない、一体何してるのよ!」 扉を開け放ったのは、どうやら機械クリエイションの最中だったらしくスパナを片手に握ったままのマリア。 「うわ、マジ? ごめんごめん、さっきちょっとフライパン焦がしちゃってさー」 まさか煙まで出ていたとは思わなかったようで、フェイトは驚きながらも素直に謝った。 アルベルは煙騒動の原因となったフライパン(ちなみにかなりコゲついていて洗うのが大変そうだ)を無言で見遣った。 マリアもそれに気づき、呆れたと安堵したの半々くらいの表情でため息をついた。 「何だ、ボヤでも起こしたのかと思ったわ」 「さすが僕でもそこまで間抜けなことしないって」 「そうかしら? …ところで」 マリアがちらりとアルベルを見て、そしてすぐにフェイトの視線を戻してから口を開いた。 「数日前から、一体何を企んでいるのかしら。ソフィアやネルが不思議がってたわよ」 ぎくり、と二人の表情が一瞬だけ強張った。 「…ま、マリア。僕がおととい君に質問した内容、喋った? ソフィアかネルさんに」 そのうろたえ様を面白そうに見ながら、マリアは首を横に振った。 「いいえ。珍しい質問をされた、とだけ言ったわ」 「っあ〜、良かった…。明日まではバレないようにしないと、今まで隠し通してきた意味がなくなるからなぁ」 大げさにため息をつくフェイトと、顔には出さないようにしているがほっとしているようなアルベルを見て。 「…ま、あなた達が何をしようとしてるのか、詰問する気はさらさらないけど」 「あー…、うん。こないだも言ったけど詮索無用ってことでひとつ」 マリアは苦笑するフェイトと、顔を背けているアルベルと、そしてテーブルに並べられているところどころ不恰好だが一応形になっている料理を見て。 「"女の子が恋人にしてもらって嬉しい事"ねぇ…ま、あなた達がソフィアとネルのために何がしかを頑張ってる、ってのはなんとなくわかるけど…」 「…なんだよ」 くすくすと笑うマリアにアルベルがぶっきらぼうに問いかけた。 マリアは口元に指を当てながら、にっこりと笑顔を作って口を開いた。 「いえ、…なんだかあなた達、母の日にお母さんをびっくりさせる為にこっそり頑張ってる兄弟達、みたいだと思って」 「「………」」 フェイトとアルベルは思わず無言になる。 その頃。ネルとソフィアに割り当てられた部屋にて。 不機嫌モード全開のソフィアと、表情には出さないものの機嫌が良いとは言えないネルが現在彼女達が置かれている状況について話し合っていた。 「どう思いますネルさん? もう一週間くらいずーっと、フェイト達こそこそ何か企んでるんですよ」 「どう思う…って、あいつらの考えてる事は予想できないからねぇ…」 「う〜…。なんだかもう何を企んでるかなんてどーでもいいですけど、ずーっと構ってくれないんですよここ一週間!」 「あぁ、そうだね…」 「そうだね、って…ネルさんは寂しくないんですか?」 くしゃりと表情を歪ませて、ソフィアがネルを見てつぶやいた。 「私は寂しいです。…どういう理由であれ構ってもらえなくて、寂しいです」 「ソフィア…」 ネルは我知らず気遣わしげな表情になりながら、苦笑する。 「…そりゃ、確かに…つまらないよね」 ほったらかし、ってのは。 そう付け足すネルに、ソフィアがですよねですよね!と激しく同意した。 無言になってしまった二人を見て、マリアがあら、と口を押さえる。 「…あら、私何かいけない事言ったかしら?」 「……別にー…」 全然"別に"だなんて思って無さそうな顔と口調でフェイトが答える。 マリアは腰に手を当てながらため息をついた。 「もう、子どもって言われたくらいで落ち込むことないでしょ」 「そんぐらいで落ち込むか、阿呆」 「でも私がさっきそう言った時、あなたも動き止めて無言になって固まってたわよね、きっかり十秒」 「………」 憮然とした面持ちをつくったアルベルにぎろりと睨まれ、マリアは苦笑して肩をすくめる。 「まぁ、二人とも機嫌直しなさいよ、ほらこれ練習してたんでしょ? 味見してあげるから」 テーブルに並んだ、一応まともな料理達を指差して言ったマリアに、フェイトがぱっと顔を上げた。 「…あ、ほんと?」 「ええ。お母さんの為に頑張る兄弟達の為に、お姉さん微力ながら協力してあげるわ」 「「………」」 「冗談よ、冗談」 くすくす笑うマリアに、二人は憮然とした顔を直そうともせずにため息をついた。 そんな二人を見ながら、マリアはふっと真剣な、だがどことなく呆れたような表情になって、言った。 「…でも、練習するのはいいけど、早く完成させた方が良いんじゃない? "カワイイ恋人達"の為にも」 急に真顔になり、"お母さん"ではなく"恋人"と言い替えたマリアの台詞に、フェイトとアルベルは一瞬不思議そうな顔をする。 マリアはもう一度肩をすくめて苦笑して見せてから、その辺にあったフォークで皿の上のカニさんウィンナーをぱくりと食べた。 「あ」 フェイトが一瞬ぽかんとなる。 マリアはしばらくもぐもぐと口を動かしていた。ややあってからこくんと細い喉が鳴る。 「…多少焦げてるけど香ばしいと言える範囲でしょ。及第点ってことにしておいてあげるわ」 「…あ、ありがとう」 「ふん…」 珍しく、素直に嬉しそうな顔をしたフェイトと、どことなくだがやはり嬉しそうなアルベル。 そんな対照的な二人を見て、マリアは苦笑に似た微笑を浮かべた。 「料理は及第点、って言ってあげるけど。…でも、さっき私が言った事、考えておいた方が良いわよ」 ぽつりと呟いた台詞に、アルベルが不思議そうな顔をする。フェイトはマリアの台詞が聞こえなかったのか、気づいた様子はなかった。 作戦決行日、当日。 本日の予定、作戦実行。 「じゃ、今日もクリエイションの続きね。もーちょっと頑張れば、ランキング上位入賞独占だって夢じゃないよ」 そうにこにこと言い放ち、その後すぐにすたこらと工房に行ってしまったフェイトの台詞を思い出しながら、ソフィアが訝しげにつぶやいた。 「…やーっぱり、怪しいですよね」 隣にいたネルも、こくりと頷く。 「ランキングがそこそこ上がってきたとはいえ、丸二日もクリエイションを続けるなんて…何か他に意図する事があるとしか考えられないよね」 「でも、他の皆さんはそんなに気にしてないですよね…」 ソフィアがきょろきょろと周りを見回して、皆の反応を思い返す。 スフレとロジャーははーい!と良い子の返事を楽しそうに返していたし、クリフはまぁしょうがねぇな、と肩をすくめていて、マリアとミラージュはどこか訳知り顔で微笑んでいた。 「私が気にしすぎなんでしょうか?」 「ううん、そんなことないよ」 はぁ、とため息をついたネルと、たぶん同じような心境でソフィアが口を開いた。 「どうして話してくれないのかな…」 ぽつりとつぶやいたその言葉に答えるべき人物は、残念ながら予定が発表されてすぐにアルベルをひっつかんでファクトリーにすっとんで行ってしまって。 「やっぱり、訊いてみようか。本人に、さ」 「…それが一番手っ取り早いですよね…でも、」 ソフィアが俯いて、浮かない顔のまま口を開く。 「隠し事されてるってことは…私に言いにくい事とか、言えない事とか…そういう類の事なんですよね、きっと」 「…」 「…あのフェイトが、私達にひた隠しにするなんて…よほどのことなんじゃないかって」 「…そうだとしたら、私達が知るべきことじゃない…そう、言いたいのかい?」 「………」 ソフィアが黙って、こくんと頷いた。 「話してくれるよ、きっとね」 「え?」 ソフィアが顔を上げる。微笑んでいるネルの表情が、ソフィアの大きな緑色の瞳に映った。 「フェイトがあんたの事大切に思ってるって、皆知ってるよ? そのフェイトが、ソフィアに理由も無く隠し事するわけないじゃないか。きっと何か事情があって、話しづらいだけなんじゃないかな。だから、もし言えない事だったとしても…訊けばきっと話してくれるよ」 そう言ってから、ネルはくすりと笑う。 「捻くれやで意地っ張りで素直じゃない誰かさんも、きっと話してくれると思う」 遠まわしなのに一発で誰か分かるような言い回しに、ソフィアがくすりと微笑む。 「あはは、それってアルベルさんのことですよね?」 「まぁね」 「信じてるんですね。…羨ましいな」 「…ん?」 「えへへ、なんでもないでーす」 先ほどの落ち込んだ表情を一変させて、ソフィアが嬉しそうに笑う。 「…じゃあ、ストレートに! スマートに! てっとりばやく! 訊いてみましょうか」 「うん、そうだね」 そう結論を出して、二人が立ち上がった。 少し前の沈んだ空気はいつの間にかどこかへ吹き飛んでしまっていた。 「もしかしたら、たいしたことじゃないかもしれませんしね」 「そうかも。あいつら、変なところで頑固だから」 「あはは、言えてますねー」 二人はそんな事を言いながら、フェイトとアルベルがすっとんでいった工房へと歩く。 「それにしても、この頃クリエイションばっかりですよね。もしかしたらそれが何か関係してるんでしょうか?」 「有り得るね…実は、失敗作ばかり作っちゃってそれを取り戻す為にこっそりとクリエイションしてるとか」 「…赤点のテストを隠す小学生レベルですね」 そうこう会話しているうちに、工房にたどり着く。 ソフィアは一回大きく深呼吸して、ドアノブに手をかけた。 「…そんなに緊張する事ないんじゃないかな」 「だって、もし話してくれなかったら私どうすればいいのかわからないんですもん…」 「大丈夫だって。ほら、行こう」 そう言いながら、ネルが代わりにがちゃり、とノブを捻って扉を開ける。 途端、ふわんといい匂いが彼女達の鼻腔をくすぐる。 中からはかちゃかちゃとかじゅーじゅーとかばしゃばしゃとか、さまざまな音が聞こえてきた。 彼女らの耳が確かなら、皿を移動する音、何かを炒めている音、野菜か何かを洗っている音。 「「………」」 二人は無言になって顔を見合わせた。 なんとなく展開が読めたような気がして、工房の奥、厨房がある方を見やる。 二人は我知らず忍び足で厨房へと向かった。 開いていた扉から、ひょいと顔を出して覗いてみると、 「アルベル、炒め物できたよー。そっちはどう? オムレツできた?」 「あぁ。まぁ取りあえず食える程度にはな」 「よし、じゃあ次はいよいよ盛り付けだね。彩り良く見栄え良く並べないと」 「はいはい…」 「…何、やってるの、フェイト」 ぽかんとしたソフィアが呟いて、フェイトの肩がびくぅと跳ね上がった。 「な、」 フェイトとアルベルが同時に反応して振り向いて、二人の目に扉の前に立っている彼女らが写る。 「いつの間に…」 「い、今来たばかりだけど」 もしかして見ないほうが良かったのか、とソフィアがおずおずそう答える。 「…何してたんだい?」 ネルが単刀直入にそう訊いて、アルベルが一瞬間を置いてから答えた。 「料理クリエイション」 「ふぅん…? あんたらが率先して料理するなんて珍しいよね」 「今日はクリエイションする日って決まったんだから、別に不思議じゃねぇだろ」 「でもあんた、料理苦手だろ。クリエイションしろ、って言われたら機械か鍛冶あたり選ぶよね」 「………」 思わず口ごもったアルベルに、ネルはふぅ、とため息をつく。 「…もしかして、この頃こそこそ何かやってたのと関係あるのかい」 すんなり本題に入ったネルの台詞を聞いて、ソフィアがあ、と思いついたように声をあげた。 「そう! 私達、それを訊きに来たんだよ、フェイト。この頃フェイトとアルベルさん、様子がおかしいから」 「「………」」 フェイトとアルベルは無言のまま顔を見合わせた。 「…観念すべきだね、アルベル」 「ま、どーせこれが完成したらどの道言うつもりだったしな」 アルベルがほとんど完成している料理をちらりと見やって言った。 「そだね」 フェイトも微かに乾いた苦笑をもらしながら頷く。 潔く降参した男二人の会話に、ソフィアとネルは不思議そうな顔をした。 「…これが完成したら、どの道言うつもりだった…?」 「それって…どういう意味だい?」 「あー。まぁまぁ、そう結論を急がず。うーん、何から話したらいいかな…」 困った顔のまま苦笑するフェイトに、アルベルが頭の三角巾を取りながら口を開く。 「…今日が何の日か言えばいいだろうが」 「あー。そっか、そうだった」 「今日?」 何かあったっけ、と首を傾げるソフィアに、フェイトがにこにこ笑いながら口を開いた。 「ソフィアが憶えてないって珍しいね、まぁ、地球の暦なんてエリクールに来てからほとんど無縁だったし、しょうがないか」 「地球の暦…? 何かあるのかい?」 地球の行事なぞ知るはずも無いネルが問いかける。 フェイトはネルの質問にこくりと頷いて、それからソフィアに向き直って。 「今日は"恋人の日"だろ?」 「………。んん?」 ちょっと間を置いて、ソフィアが目をぱちくりと瞬きながら唸った。 それからおもむろにスカートのポケットからクォッドスキャナを取り出して、今日の日付を確認する。 五秒ほど押し黙ってから、ソフィアの口が開いて、 「フェイト…恋人の日って、来月だよ」 「…アラ?」 ひっくりかえった声がフェイトの口から出た。 そんなフェイトに、ソフィアがほら、とクォッドスキャナに表示されている日付を見せる。 「恋人の日、でしょ? それ、来月の今日だよ」 「…………………そーだっけ」 「うん」 「…」 フェイトはばつの悪そうに片手を腰にやって視線を隣のアルベルへ向ける。 アルベルはそんなフェイトを半眼で睨んでいた。 うぅ、と居心地悪そうに軽く肩をすくめたフェイトを見て、ソフィアがくすりと笑った。 ネルも状況を飲み込めてきたようで、苦笑する。 「あっ笑われたっ。しかもネルさんにまで!」 「自業自得だ阿呆が」 アルベルが機嫌悪そうに肘でフェイトの脇辺りを小突いた。 普段なら三倍返しはするだろうフェイトは、今日ばかりは言いかえせないのかむぅ、と小さく唸るだけだった。 そんなやりとりを見ていたネルが、口元に指を当てながら言った。 「…つまりは、何か恋人の日とかいうイベントだか行事だかがあって、でもフェイトが一月勘違いしてた、と」 「…その通りです、はい」 しゅん、と小さくなるフェイトに、ソフィアがぽつりと問いかける。 「ってことは…もしかして、あのお料理って…今日の為に作ってたの? 二人で?」 「…うん」 素直に頷いたフェイトを見て、次はネルが疑問を口にする。 「…なら、今まで何かこそこそしてたのも、全部今日の為に?」 「……あぁ」 こちらも素直に頷いて、アルベルはばつの悪そうに視線を逸らした。 「…そーだったんだ…」 気まずそうにしているフェイトの顔を見ながら、ソフィアがどこか呆然とそう呟く。 「私、フェイトに何か隠し事されちゃった、って思って…。なぁんだ、そうだったんだ…」 かみしめるように繰り返すソフィアに、フェイトがヤケになったように口を開いた。 「…なんか変だとは思ってたんだよな。イベント好きのソフィアが恋人の日、って結構な記念日のことすっかり忘れてるなんて、よく考えたら地球の暦に縁遠くなってるからって有り得ないよな」 やはり気まずいのか一気にそう喋ったフェイトを見ながら、ソフィアがくす、と笑う。 「その、"結構な記念日"の為に、アルベルさんと二人で協力して、あの料理、作ったんだ?」 テーブルの上に並べられた料理を順々に見やって、ソフィアが笑った。 フェイトはあーあ、と肩の力を抜いて、 「…こっそり計画してびっくりさせたかったんだけどなぁ」 そう言ってからへらり、と笑った。 ソフィアはそんなフェイトを見ながら、口を開いた。 「…あんたも珍しい事したもんだね」 ばつが悪そうにしているアルベルの顔を見ながら、ネルがどこか呆然とそう呟く。 「恋人の日、ねぇ。あんたがそういうの気にしてるなんて思わなかったよ」 面白そうに笑いながらそう言うネルに、アルベルが視線をふい、と逸らして口を開いた。 「…俺は別に"恋人の日"とやらなんぞどうでもよかったんだがな」 「へぇ、そうなんだ」 「フェイトの野郎に無理やり手伝わされたんだよ、別に俺はお前に何かしようって思ってたわけじゃ、」 「本当に?」 にこり、と微笑んだままネルがそう訊いて。 アルベルはそうだ、と即答できなくて口ごもる。 「…でも、面倒くさがりで基本的に他人の為に何かしようなんて殊勝な考え持ち合わせてないあんたが、あの料理、作ったんだ?」 テーブルの上に並べられた料理を順々に見やって、ネルが笑った。 アルベルははぁ、と肩の力を抜いて、 「…どうせなら驚かせたかったんだがな」 そう言ってからははっ、と投げやりに笑った。 ネルはそんなアルベルを見ながら、口を開いた。 「「私達の為に、いろいろ頑張ってくれたんだ?」」 「…まぁね」 「…まぁな」 投げやりにヤケ気味に答えた、彼らに。 「「ありがとう」」 彼女達が極上の笑顔で微笑んで。 そう、言った。 「…アルベル。プチ感動で嬉し涙が出そうって言ったら君僕のこと笑う?」 「…いや…」 プチどころか結構な勢いで感動していたりする彼らが、そんな風に密かに会話している中。 彼女らはまだ完成していない料理達を見ながら何やら目配せをしていた。 「ねぇフェイト。このご飯って、もう全部完成してるの?」 ソフィアが首だけ振り向いてそう聞いて、フェイトが答えた。 「ん? いいや、まだ二品残ってる。ポテトサラダと、デザートにフルーツパフェ」 「ふぅん…」 ネルがそう呟き、ソフィアを見た。 ソフィアもネルを見て、そして同時に頷きあう。 「? …何だよ」 無言で結託している彼女らを見て、アルベルが怪訝そうに問いかける。 彼女らは答えずに無言のまま手を洗い髪をまとめ、てきぱきとエプロンや三角巾を付け始めた。 「え?」 「は?」 不思議そうにしている彼らに、彼女らは笑って口を開いた。 「まだ完成じゃないんでしょ、料理。私達も手伝うよ」 「二人より四人の方が早く出来上がるだろう?」 そう言うが否や調理器具または材料片手にてきぱきと動き出した二人を見て、慌てて男二人が立ち上がった。 「ちょ、ちょい待ち! それじゃ意味ないんだけど!」 「何が?」 「何って、ソフィアとネルさんの為に作ってたんだから、二人に手伝ってもらったら意味ないだろ」 「いいのいいの。何かしてもらってばかりじゃ、悪いから。四人がかりなら早く終わるじゃない」 「うんうん。…それに―――」 そこで言葉を止めて、ネルはソフィアを見た。 ソフィアもネルを見返して、微笑む。 「それに、何だよ」 アルベルが先を促す。ネルははいはい、と答えてからくすりと笑った。 「…"恋人の日"の為に、あんた達が頑張ってくれてたんだろ? だったら私達も"恋人の日"の為に何かしないと」 「そうそう!私はフェイトの"恋人"だけど、フェイトも私の"恋人"だもん!」 「……、…?」 「…言ってる意味がよくわからん」 首を捻る彼らに、彼女らはふふ、と微笑む。 「じゃあ、ちょっと言い方を変えるけど。ここ数日間、あんた達ずっと今日の為にあれこれやってただろ?」 「あぁ」 「その間、私達にバレないように〜って、いっつもこそこそしてたんだよね?」 「うん」 「その間…、」 「少し、つまらなかったよ」 「少し、寂しかったよ」 「「………」」 「だからね、」 彼女達は少し照れながら、呟いた。 「「何かしたいんだ、一緒に」」 一緒に、の部分が微妙に強調されて紡がれた、彼女達の本音に。 「…了解です」 「…承知した」 彼らはそう言って頷く以外の動作を思いつかなかった。 「ん! じゃあ、さっそく四人で一緒に共同作業開始ーっ」 「うん、始めようか」 そう言って楽しそうに料理し始める彼女らを見ながら、フェイトがぽつりと呟いた。 「なぁ、アルベル」 「あ?」 「僕らさ、まぁ日付間違うっつーポカミスやらかしちゃったけど、まぁ今日の為に、いろいろ考えたよね」 「あぁ。っつぅか日付間違えたのはお前だけだろうに…まぁいい。それで?」 「…でも、さ、一番しっくりくる答えなんて、見つかんなかった。よね」 「あぁ」 「…よく考えたらさ、それも当然だよね。僕らが何かしようとしても、それをソフィアが、ネルさんが、望まなければ…意味ないもんな」 「………」 「でさ。もっかい考えてみたんだ、改めて。"恋人"の為にできるコト」 「…考えるまでもないだろうに?」 「…。そーだね、きっと―――」 フェイトがそう言ったとき、 「もー! 何やってるのよフェイト、四人で共同作業!って言ったじゃない」 「アルベル、あんたも。何サボってるのさ、私達だけで仕上げたらそれこそ無意味だろ」 後ろで頬を膨らませたソフィアと、腰に手を当てたネルが彼らを急かすようにそう言った。 それを見て、フェイトはにこにこ笑いながら、アルベルは僅かに苦笑しながら、彼女らの元に向かった。 「はい、じゃがいも洗ってね」 「はい、りんごの皮むいてね」 「はーい」 「はいはい」 「それできたらにんじんもよろしくね」 「それ終わったら次苺洗ってね」 「うっす」 「おう」 「じゃあ、次は―――」 「その後は―――」 共同作業で料理を作って、そのあと一緒に出来上がったご飯を食べて。 勘違いによって生まれたものだけれど、それでも楽しく過ごした、"恋人の日"一ヶ月前の日。 ―――"恋人"の為にできるコト。 それはきっとありきたりで、なんでもなくて、ちょっとしたことだけど、でも。 一緒にいることが、きっと。 一番大切な、キミの為にできるコト。 |