机の上には、開封されていない精神安定剤が手付かずのまま置かれている。





トランキライザー





「どうしたんだ、その薬」
「あぁ、これかい?さっき私が、ウチュウセン?に慣れなくて気分悪いだろうからって、ソフィアが気を利かせて持ってきてくれたんだ。実際に青い顔してたみたいで、かなり心配されたよ」
「薬…ねぇ。こっちの世界の薬が俺らに効くのか?」
「大丈夫だと思うよ。でも、一日一回一錠までにしないと副作用が出る可能性があるとは言われた」
「ほぉ…さすがに薬は同じようなもんなんだな。で?飲まねぇのかその薬」
「飲まないよ」
「は?お前さっきまで気分悪そうに青い顔してただろうが」
「…でも、薬に頼るのってどうかと思うんだ。どうせ時間がたてば効果は切れるし、いつもその薬を服用してるわけにもいかないし。それに…少し情緒不安定になっただけだし。このくらい自力で治さないと」
「慣れない場所で気が動転してんのはわかるが、なんでも自分で背負い込もうとするな。無理するな。辛かったら言え。考え込むのに疲れたら、好きな物食って好きな事して寝りゃ大抵精神は安定すんだよ」
「………この上なくあんたらしい理論で笑えるね」
「悪いか」
「悪くないよ。そうだね、それもいいかもしれない」



こてん。



「…で。なんでお前は俺の肩を背凭れ代わりにして当然そうにもたれてんだ?」
「ん?だって、好きな事してれば直るんだろう?」
「………」
「今私は"自分の好きな事"をしてるんだけど?」
「…ほぉ」
「これなら、"一日一回まで"にしなくてもいいし、"副作用がある"わけでもないし」
「…俺は精神安定剤代わりかよ」
「いいだろ?」
「光栄だということにしておく」
「ふふ」





「なら、俺も疲れたらお前を精神安定剤代わりにしてもいいという事だな?」
「は?」
「お前だけだと不公平だろうが」
「…ふふ。そうかもしれないね。いいよ」





きみがぼくの精神安定剤。
ぼくがきみの精神安定剤。



それってとても素敵だよね?





机の上には、開封されていない精神安定剤が手付かずのまま置かれている。








おまけという名のオチ。



「それなら遠慮なく」



どさり。



「…は?なんで私押し倒されてるわけ?」
「"好きな物食って好きな事して寝りゃ"精神は安定すんだよ」
「…ちょ、ちょっとさっきのってそういう意味じゃなくないかい!?」
「お前限定でそういう意味だ」
「だっ、ちょっと!み、耳元で囁くんじゃないよ!」



「…いいっつたよな?お前を精神安定剤代わりにしても」
「…騙された―――!!」