「あんたの子どもの頃ってどんな風だったんだい?」





Sweet&Sour memory





問われて振り向いたのは、作りかけの夕食を頬張りむぐむぐ口を動かしている彼。
「なんだよいきなひ」
「…口の中に物入れたまま喋るんじゃないよ」
不明瞭な声をなんとか聞き取って、つまみ食いされている夕食を作っていた彼女。
彼は一瞬不機嫌そうに眉を顰めてから、だが大人しく従って無言でもぐもぐ口を動かす。
彼の喉がごくんと鳴ってから彼がもう一度、今度ははっきりとした声音で言った。
「何だよいきなり」
「…いや。ただ、大の男が子どもみたいにつまみ食いしてるの見て気になっただけさ」
「腹減ったんだ、悪いか」
「それは自分のものだと思ったから盗った、っていう泥棒の言い訳と同列に思えるんだけど」
「お前が作ったものなんだからいいだろ」
当然のように、見ようによっては自信たっぷりに言うものだから。
彼女ははぁあ、とため息をついた。
「………。そうやって言い訳するところが子どもみたい、って言ってるんだよ」
「ガキで結構」
とうとう開き直った彼に、彼女ははは、と苦笑した。
「で、さ。話戻すけど、あんた子どもの頃からこんなだったのかい」
「さぁ」
「さぁ、って…」
「何故そんなことを気にする」
「え?気になるから」
至極当然そうに答える彼女の反応が意外だったようで、彼が思わず無言になる。
「……」
「あぁ、そういえば前ソフィアやマリアやフェイトも気になるって言ってたね」
「は?」
「あんた女顔だから小さい頃女の子と間違えられただろうとか、子どもの頃はそのプリン頭のグラデーションが逆だったんじゃないかとか、歪んでないあんたが見てみたいとか云々」
「…阿呆共が…」
「いいじゃないか別に、私だって気になるしさ。姿絵とか肖像画とか残ってないのかい?」
「ねぇな」
「…うーん、じゃあ親戚とかであんたに似てる子とかは?」
「おらん」
「…ならウォルター老やリジェールに聞き込んでみようかな、どんな子だったかって。ついでに似顔絵描いてもらえないかな?」
「…んな面倒な事してまで見たいのか」
「え?うん」



「だってあんたは私の事憶えててくれたのに私は憶えてなかったなんて悔しいから。忘れたんなら思い出せるだけ思い出したいから」



「………」



「…それなら」
「ん?」
「数年待てばすぐわかんだろ」
「え?」
きょとん、と首を傾げる彼女の、素であろう動作に内心笑いながら。
でも顔には出さずに彼が続ける。
「数年?秘蔵の肖像画が数年後に開封されるとか?」
「違ぇよ、同じような姿が見たけりゃ数年待てって言ってんだ」
「姿だけ?数年かけてあんたの子ども時代のそっくりさんでも探すって言うのかい」
彼はその質問に答えず。
すっ、と人差し指を、彼女の腹部に向けた。
「?」
彼の意図するものがつかめず、彼女が眉根を寄せる。



「お前が俺似のガキ作ればいい話だろ」



ぽかんとなった彼女の様子に彼が笑った。



「じょ、冗談は顔だけに、」
「冗談?」
彼がむっと眉根を寄せる。
「悪いが冗談で済ませるつもりはこれっぽっちもねぇぞ」
「う…」
言い返せない彼女に、彼は面白そうに口の端を上げる。



あぁでもお前似のガキでも悪かねぇな。いっそ双子でも生んだらどうだ?
疾風団長絶対に継がせるとかそんなんじゃねぇが鍛えてぇから男は一人いるしな。
クリムゾンブレイドは世襲制だろうから何にしろもう一人いるだろ、やっぱ双子だ手っ取り早く。



とかあっけらかんと言っている、未来の、ごく近い未来の旦那様に。



何言ってんだいこの馬鹿、と怒鳴る気も起きず、未来の奥様はため息をついた。