目の前に、貴方の大切な人(仲間、友人、恋人など)が気絶して倒れていたとします。
その人は名前を読んでも揺すっても目を覚ましません。
そして貴方の手には、気付け効果のある薬がひとつ。
―――さぁ、貴方はどうやって気絶している大切な人を助ける?





応急処置は、早く、正しく、麗しく!





ソフィアの場合



「フェイトがさっきの戦闘で気絶したわ!早く起こさないと、次の戦闘に入っちゃう」
「えぇっ、フェイトが?大変、早く起こさないと!」
「声をかけても蹴っ…いえ、揺り動かしても起きないの。どうしたものかしらね…」
「回復呪文じゃ怪我以外は癒せないし…あっ、気付け薬(カプセルタイプ)があります!これ飲ませてみましょう!」
「…でも、どうやって飲ませるの?気絶してるのに。液体ならともかく…カプセルでしょ?」
「………」



「…えっと、こういうときはまず、片手で上あごを頭ごとつかんでそっと口を開けて…(がっし)、頭を後ろに傾けて(がくん)、もう片手で口を押し開けて(かぱ)薬を舌の奥に置いて素早く口を閉じる!(ばぐっ)あとは、飲み込みやすいように喉をさすってあげて…(なでなで)」
「…ソフィア。それって、もしかして猫に薬飲ませる方法じゃ…」
「あ。…で、でもほら、フェイト奇跡的に飲み込んでくれましたよ!」
「あら、ほんと。じゃああとは起きるのを待つだけね」



フェイト、奇跡的に無事生還。





スフレの場合



「ロジャーがさっきの戦闘で気絶したわ!早く起こさないと、次の戦闘に入っちゃう」
「えぇっ、ロジャーちゃんが?大変大変、早く起こさないと!」
「声をかけても蹴っ…いえ、揺り動かしても起きないの。どうしたものかしらね…」
「あたしキュアコンディションとか使えないし…あっ、気付け薬(カプセルタイプ)があるよ!これ飲ませてみよう!」
「…でも、どうやって飲ませるの?気絶してるのに。液体ならともかく…カプセルでしょ?」
「………」



「…えっと、こういうときは…とりあえず飲み込ませればいいんだよね!よっし、ロジャーちゃんの口を思いっきりこじ開けて(がばっ)、口の中に薬を入れてっと、ほら飲んで飲んで〜(ザラザラザラどばー)」
「…ス、スフレ!一回二錠でいいのよ?そんなに飲ませたら副作用…いえそれ以前の問題よ!」
「ほぇ?…あぁっ!ノドに詰まっちゃってる!」
「ちょ、ちょっとロジャーの顔土気色になってるわよ!?」
「きゃぁああロジャーちゃんしっかりしてぇぇ!」



ロジャー、冥土を何度かさまよいつつもなんとか生還。





ミラージュの場合



「クリフがさっきの戦闘で気絶したわ!早く起こさないと、次の戦闘に入っちゃう」
「クリフが?それは困りましたね、早く起こさないと皆さんに迷惑がかかってしまいます」
「声をかけても蹴っ…いえ、揺り動かしても起きないの。どうしたものかしらね…」
「そうですね…あぁ、気付け薬(カプセルタイプ)がありますから、これ飲ませてみましょうか」
「…でも、どうやって飲ませるの?気絶してるのに。液体ならともかく…カプセルでしょ?」
「………」



「…とりあえず、飲み込ませればよろしいんですね。でしたら口に指を突っ込んで(がぼ)喉を開いて(ぐぇ)薬を放り込んで(ぽい)、水を流し込んで(ごばばば)、はい、終了です」
「…あの、それはさすがに無理矢理過ぎると思うのだけれど」
「クリフにはこのくらいでちょうど良いです。以前普通に飲ませようとカプセルを口の中に入れて水を飲ませたら見事に吐き出しましたからね」
「………。あら、クリフがうめいてるわ。覚醒までもう少しかしら」
「それは良かった。これで問題解決ですね」



クリフ、他の面々よりはなんぼかマシなルートで無事生還。





ネルの場合



「アルベルがさっきの戦闘で気絶したわ!早く起こさないと、次の戦闘に入っちゃう」
「アルベルが?放っとけば起きるんじゃないかな、あいつ戦闘が始まったら目輝かせて特攻するタチだし」
「でも声をかけても蹴っ…いえ、揺り動かしても起きないの。どうしたものかしらね…」
「それは困ったね…あぁ、気付け薬(カプセルタイプ)があるから、これ飲ませてみようか」
「…でも、どうやって飲ませるの?気絶してるのに。液体ならともかく…カプセルでしょ?」
「………」



ネルは一瞬何かを考えて。
次に周りを見回して、仲間達が気絶したアルベルに注目しているのに、少し嫌そうな顔をしてから。
ぱく。
カプセルを自分の口の中に放り込む。
「あら」
マリアが驚いたように声をあげた。
ネルはさして気にした風もなくすっと腰を降ろし、ぶっ倒れているアルベルの胸倉を掴んで上半身を起き上がらせて、
ちゅう。
何のためらいもなく口付けた。
周りの皆が呆気に取られている中、ネルの舌が動いて、
ころん。
カプセルがアルベルの口内に移った。
数秒後、アルベルの喉がこくんと鳴って。
これで目的達成とばかりに、ネルはアルベルから離れ―――
なかった。
何故か胸倉を掴んでいる方とは逆の手でアルベルの鼻をつまんでさらに唇も塞いだままその体勢を維持している。そのまますでに一分が経過。
「………」
「………?」
「………」
「………っ、…!」
一分三十秒を過ぎた頃、気絶していたはずのアルベルから反応があって。
でもネルはまだそのままだったものだから、
「…!…っ、……!……!!」
アルベルの紅い目がかっと開いて、目の前にあるネルの顔を見てすぐに引き剥がすように彼女の肩を押し戻した。
「ようやく起きたかい」
酸欠でぜぇぜぇ言っているアルベルに、ネルが何事もなかったかのように言う。
「殺す気か!」
「何言ってるんだい、死んだ魚みたいにぐでーっと気絶してるから起こしてやったんだろ」
「目覚めるどころか永眠する所だったじゃねぇか!」
「気付け薬飲ませるついでに目も覚ましてあげたんじゃないか、感謝しな」



アルベル、他の面々よりかなり美味しい思いをしながら無事生還。





おまけ。



「すごい…!ネルちゃんって、王子様だったんだね!」
「「は?」」