部屋の整理をしていたら、前―――と言っても、旅に出る前だから随分前―――に雑貨屋さんで買ったアバカロープが出てきた。
ラッピングにも使えるし、そのまま部屋に置いてもインテリアになって可愛いよね、と衝動買いしてしまったものだったかな?
雑貨屋さんの袋に入ったままのそれを取り出してみる。
少しざらざらした触感のアバカロープがころんと出てきた。赤、青、緑の三色セット。
本当はピンク、オレンジ、白のセットが欲しかったんだけど、人気商品だから入荷待ちだって。
ネットショップならすぐ手に入るかなぁって思ってて、結局買えなかったんだっけ。
押入れに入れっぱなしはさすがに可哀想なので、棚の上に置いてある猫のぬいぐるみの横に置いてみた。
インテリア用に、って一緒に買ったカゴに入れるとやっぱりとても可愛い。
今までもったいないことをしたなぁって思いながら、ちょんと赤いアバカロープの玉をつついた。
そういえばこれラッピングだけじゃなくて、軽い荷物なら梱包用にも使えて便利なんだよね。引っ張っても千切れないし、毛糸みたいにほつれないし。
今、部屋を二つ挟んだ場所のリビングでくつろいでるフェイトにも分けてあげようかな、いやいや彼が梱包はともかくラッピングなんてしないし…。
インテリアだけで終わらせるのちょっと勿体無いから、何かに使えないかな、ちょっとだけでも。
と、考えていた、ら。



「………そうだ!」



名案が浮かんじゃった!





Fateful encounters





即実行に移すべく、赤のアバカロープの玉を持ってリビングへ直行する。
そこには勝手知ったる様子でフェイトがソファに座って、ケータイ片手にかちかちとメールを打っていた。
あれ、相手誰?訊くとクリフ、と返事が返ってくる。
片手の親指でカチカチと打ち込んでいるフェイトのもう片方の手は、空いている。
チャーンス。
「ねぇフェイト、さっき部屋の整理してたらこんなものが出てきたんだ」
そう言って、赤いアバカロープを見せる。
ついでにさっき、ラッピング用の包装紙やハサミを持ってきたから、フェイトはすぐに感づいて尋ねてきた。
「何それ、ラッピング用の紐?」
「そうそう。でね、ちょっと複雑で難しい、大きなリボンの形に上手く結ぼうと思っても難しくって…フェイトに協力してほしいんだ」
「協力?」
言っとくけど僕ソフィアほど器用じゃないよ、と渋い顔をするフェイトに、首を横に振ってみせる。
「大丈夫だよ、ただ、片手貸して欲しいだけ」
「片手?」
「誰かの指に巻いて練習すると上手くいくんだって」
本当にそうかは、知らないんだけどね。
でもラッピングとかに詳しいわけも無いフェイトは、疑問に思うことなくふぅんと呟いた。
「そのくらいならいいよ。僕片手でメール打てるし」
「ありがとう!」
作戦成功!とばかりにガッツポーズをとって、さっそくフェイトの隣に座る。
いけないいけない、あんまり浮かれてると感づかれちゃうよね。あくまで自然に自然に。
アバカロープをしゅるしゅると適当な長さに出して、フェイトの空いた片手の指に巻きつける。
くるくると巻きつけていると、フェイトがからかうように口を開く。
「指の血止まるほど巻くなよー」
「大丈夫だもん」
そう答えておいて、今度は少しアバカロープを伸ばして、私の片手にも同じように巻きつけた。
そんでもって、またフェイトの指…さっきと違う指に巻きつけて…。
「…?あれ、僕の指だけじゃなかったの」
「あ、本当はね、手が二本いるの。でもさすがにフェイトに両手借りると申し訳ないなぁって」
「言ってくれればクリフのメールなんて暫く放っておいたのに」
…何気に酷いねフェイト。
「いいのいいの、私も片手で巻けるし、そこまでしてもらうのも悪いから」
そう言って誤魔化して、また二人の指に巻いていく。
たまに結んだり、糸同士を絡ませて結び目を作ったりして、本来の目的がバレないようにごまかしごまかし巻いていく。
「…なぁソフィア、なんか絡まってきてないか?リボン作るんだろ?」
フェイトが訊いてきてぎくりとなる。
「大丈夫大丈夫!」
そう言ってさらに続ける。
危ない危ない、バレたかと思っちゃった。
でももーすぐで完成だもん、もーちょっともーちょっと!
フェイトの指にもう一回巻きつけて、私の指にももう一回巻きつけて、結んで、完成!
完成!と言おうとしたところで、フェイトの呆れた声が聞こえた。
「ソフィアさ…やっぱこれ、失敗しただろ?」
フェイトがアバカロープの巻かれた片手を見ながら苦笑する。
それもそのはず、いまやフェイトの片手は、赤いアバカロープが縦横無尽に絡まっているんだから。もちろんリボンなんて見る影も無い。
同じように巻いていた私の片手も、もちろん同じ状態。
「えー?そんなことないよ?」
だって私的にはこれで完成なんだもん。
フェイトの片手の中で、赤いアバカロープが一番絡まってるのは小指。他の指は引っかかってたり軽く巻いてあるだけで、ちょっと解けばすぐに取れそう。
まるで赤いアバカロープでつり橋がかけられてるような状態で繋がってる、私の片手も小指だけが異常に絡まっている。
一番解くのに時間がかかりそうなのは、お互いに小指。



―――運命の赤い糸。



みたいじゃない?
アバカロープなら引っ張っても千切れないし解れないし。
こんだけぐるぐる巻きにすれば解くのも一苦労だし。
そんな事を思ってニコニコしていた私の笑顔を、失敗を誤魔化すための笑顔とフェイトは勘違いしたらしく。
「…ったく、失敗したならそう言えばいいのに。あーもーこれどーすんの、解くの大変だよ」
呆れた顔してるフェイトがそんなこと言ってるけど、気にしなーい。
「あはは、じゃあしばらくこのままでいる?」
解く様子もない私にフェイトはため息をひとつ。
計画成功で超ご機嫌な私はそんなこと気にしないけどね。
「そんなことしたらお前も僕も身動き取れないだろ」
フェイトは苦笑いしっぱなしのままそう言って、おもむろにソファから腰を上げる。
どーしたのかなーって思いながら見ていると、フェイトは手を伸ばして何かを掴む。
…ん?あれ?ってちょっとーっ!そそそそれって私がラッピングする風に見せるためのカモフラージュに持ってきたハサミじゃない!
何する気ああああちょっとやめてやめて何すんのー!
「解けないし、ちょっと勿体無いかもしれないけど切るよ?」
同意求めつつ返事もしてないのに実行しようとしないでえぇ!
「フェイト、ちょっと待っ―――――!!」
私の慌てた声もムナしく、フェイトはハサミを私とフェイトの小指を繋いでいるアバカロープに近づけて―――



じょっきん。








「フェイト!!あなた一体ソフィアに何したの、有り得ないくらい大泣きしながら私のところに泣きついてきたわよ!?」
「えっ…それがマリア、僕にもさっぱり…」