それは、彼らがアーリグリフの酒場を半ば貸しきり状態にしてどんちゃん騒ぎ&飲み会をしていた時。
普段滅多に酔わない彼女が珍しく酔って惚気て、まわりの女性陣を一瞬にして沈黙させたその後のお話。





酔いどれ★ほろ酔い★暴露大会その後のその後





「フェ〜イ〜トっ!ねぇ聞いて聞いて!ネルさんってばか〜わいいんだよ!」
「え、ネルさん?」
「そうなの!さっきね、お酒飲んでるんだしってみんなで無礼講だよ★惚気大会!してたんだけど、珍しくネルさんがノロケてくれたんだv」
「へー、確かに珍しいよな。ネルさん、惚気なんて滅多に口にしないのに」
「でしょ?だから私達も驚いたんだよ」
「それで、なんて惚気たんだよ、ネルさん」
「それがね、アルベルさんの事指して、あいつってなんであんなにかっこいいんだろう、な〜んて言ってたんだよ!」
「うわ、本当珍しっ!」
「でしょでしょ!他にも、恋人のどこが一番好き?とか、どこに惚れた?とかって言う質問に、思いつきすぎて選べない、とか!」
「…へぇー…。なんていうか、ちょっと意外だな」
「だよね〜。でも、ネルさん珍しく酔ってたみたい。だから普段言わない事もすらっと言えちゃったんだと思うよ」
「ネルさんが酔ってた?」
「珍しいよね〜。私ネルさんが酔ったとこ、見た事なかったもん」
「僕だって見た事ないよ。ふーん、あのアルベル並みに酒豪なネルさんがね…」



「…俺がなんだって?」



「わぁ、アルベルさん!?もー、驚かせないで下さいよぉ」
「あれーアルベル?さっきまで、ネルさんと飲んでたよね」
「…飲むだけ飲んで、くーすか寝こけてやがんだよ」
「あらら、ネルさん寝ちゃったんですか」
「…あぁ。ったく、世話の焼ける…」
「そうは言いつつも、別に嫌そうな顔はしてないように見えるんだけどな、アルベル?」
「………。で。なんかかけるもんねぇか」
「あぁ、荷物の中に何かあったと思うけど」
「そうか。捜してみる」





「…アルベルさん、ネルさんが風邪ひいたりしないように、わざわざ私達に訊きにきたんだね」
「あいつも丸くなったよな」
「だよね〜。ネルさん並みに惚気たりしないけど、やっぱり大切に思ってるんだねv」
「…なぁソフィア、アルベルもネルさん並みに、いやネルさん以上に惚気言わないよな」
「え?うん」
「だったらさ、アルベルを酔い潰して暴露大会したら、ネルさんみたいに惚気てくれないかな?」
「…うわぁ、面白そう!さっそくやってみよっ!」
「んじゃーマリアに頼んで超アルコール高い酒でも用意しよっか」
「うん!私頼んでくるね!」





「え?アルベルを酔い潰して惚気させよう大作戦?」
「はいv」
「面白そうね。いいわよ、そういうことなら助力は惜しまないわ」
「ありがとうございますっ、マリアさん!」





「じゃーん!マリアさん特製、アルコール度激高お酒ー!」
「よし、準備万端だな。あとはアルベルをうまーく丸めて言いくるめて飲ませれば…」
「ネルさんのみならず、アルベルさんが酔って惚気るところも見れるかもしれないってことだよね!…あ、アルベルさんネルさんに毛布かけ終わったみたい」
「よし、もう少しでアルベルが持っていったお酒は切れるはずだから、また持ちに来たときに作戦開始だね」
「うん、そうだね!…あ、来た来た!フェイト、お願いね!」
「よしきた」





「アルベルー、ネルさんも寝ちゃったし、一緒に飲まないか?一人で飲んでてもつまらないだろ?」
「…別に一人でも…」
「いいじゃないか、たまには一緒に飲もうよ。それにさっきソフィアに聞いたんだけどさ、ネルさんってば酔っていろいろアルベルの事惚気たらしいよ〜?」
「…」
「聞きたくない?ネルさんがなんて言ってたか」
「………」
「…聞きたいけど聞きたくない、って顔してるね。でもアルベルが聞きたくないんだったらしょうがない、他のみんなに話してくるよ」
「な、おい、なんでそうなんだよ」
「だってこんな珍しい事、思わず誰かに話したくなるじゃないか。だからアルベルに話そうかと思ったんだけど、嫌ならしょうがないな、クリフやアドレーさんに…」
「待て。…しょうがねぇから聞いてやる、だからあいつらには言うな」
「そうこなくっちゃねー、はいこれアルベルのお酒」
「…妙に用意が良くないか?」
「…そう?別に普通だろ」
「………」



「アルベルさん、渋々ながらもフェイトと飲むことに同意しました!フェイト選手、さすがに口は達者です!」
「やっぱりネルのことに関すると弱くなるわね、彼。わかりやすくって面白いわ」
「しかし少し疑いを持っている様子、ここをフェイト選手がどう乗り切るかが見ものです」
「…ソフィア、あなた野球かなにかの実況解説みたいになってるわよ」
「えへへ、結構面白いですよ?…あっ、アルベルさん一杯目のグラスに手が伸びました!なんと一気飲みしています!」
「…すごいわね。作った私が言うのも何だけど、あれかなりアルコール度高いわよ」
「へぇ、そうなんですか?…さすがは、我がパーティが誇る酒豪のアルベルさんです。あの強いお酒をためらわずに一気飲み!これはフェイト選手も驚いた様子、これから彼がどう動くかが勝負の分かれ目となるでしょう」
「…いつの間に勝負に?」





「でねー、その時スフレが、"恋人の一番好きなところ"をみんなに訊いたらしいんだ」
「…ほぅ」
「その時はネルさん、どこだろうね?って悩んでたらしいんだけど」
「………」
「あと、その次の、"恋人のどこに惚れたか"っていう質問にも、いろいろと考えてたんだって」
「………」
「あ、アルベル不機嫌そう。でもまぁ聞いてよ、これからが面白くなるんだから」
「…ふぅん」
「その後ソフィア達が、アルベルかっこいいんだし、そこまで悩む事ないんじゃない?みたいなこと言ったらさ。ネルさんなんて言ったと思う?"そうだね、あいつってなんであんなにかっこいいんだろう"なーんて言ってたんだって!」
「…それはもう知ってる」
「へ?あ、ネルさんが言ってたの?なんだ、知ってるんじゃないかつまんない」
「その他は知らねぇ…」
「あ、そうなんだ。じゃあその後さらになんて言ったか聞きたい?聞きたいよね〜、だってネルさんの言ったことだし」
「……いいから、さっさと言えよ」
「はいはい。それがさ、ネルさんったら"あいつの好きなところとかどこに惚れたかなんて、思いつきすぎて選べない"だってさ!もーすんごい惚気だよね!」
「………」
「あれ、アルベル?聞いてる?」
「……聞いてる…」
「……。アルベル、酔ってきた?」
「…んぁー?酔ってねぇよ…」
「(呂律まわってないよアルベル)ふーん、そう?そうだよね、アルベルいつものペースで飲んでるんだし、酔うわけないか。じゃあもう一杯どうぞ」
「おぅ…」



「おぉっ!アルベルさん、どうやら酔いが回ってきた様子!さすがフェイト選手、作戦成功まであとわずかです!」
「でもアルベル、酔うだけ酔ってかくんと寝ちゃったりしないかしら?」
「は、ぅっ!それは考えてなかったです…。そうだったら意味ないですよねぇ…」
「まぁ、アルベルが眠りこける前にフェイトがいかに惚気させるように会話を仕向けるかどうかよね」



「…そろそろかな」
「……ぁ?」
「(反応鈍くなってきてるなよしよし)なぁアルベル、さっきソフィア達は女同士で暴露大会してたけどさ、丁度良いし僕らもやろうよ」
「……んで、んなことしなきゃなんねぇんだよ」
「だってさ、普段言えない事を言うチャンスだろ?ほら、酒が入らないと言えない事ってあるじゃないか」
「………」
「別に惚気ろなんて言ってないよ?愚痴とか不平とか不満とかさ、言いたいこと腹割って話し合おうよ」
「………」
「沈黙は肯定!はい始めよっか。じゃあまずアルベルからね〜なんか暴露ってよ」
「…何言え、ってんだよ」
「んー、じゃあさ、別に言うことないんなら僕の質問に答えてね」
「………」
「じゃあ第一問、アルベルどうしてネルさんに惚れたの?」
「おぃ…それ結局惚気ろって言ってるようなもんじゃねぇか…」
「まぁまぁまぁ。だってほらさ、話の流れってものもあるし!」
「………」
「ほらほら言ってよ〜。それとも何、ネルさんみたいに思いつきすぎて選べない〜なんて思ってたり?それはそれで面白いんだけど」
「…惚れた理由、ねぇ…」
「うんうんそうそう。なんでもいいからさ」
「………そりゃ、」



「美人だし」
「お」
「料理美味いし」
「…」
「隠密にゃ向いてねぇが優しいし性格良いし」
「……」
「胸あるし柔らかいしいい体してるし抱き心地良いし」
「………」
「どんな顔してようが何してようが可愛いって思わずにはいられねぇから」
「…………」
「惚れる理由が云々というより」





そのあと。
アルベルはそりゃもう真面目な顔で、きっぱりと言い切りました。





「惚れねぇ理由がないだろう」





「………」
「…ぁ?何てめぇから訊いといて呆けてんだよ」
「…いや、惚気てくれるの期待してたわけだし、こうなってくれて展開としてはものすごく良かったんだけどさ…」
「…なんだよ」
「あの、えっと、そのごめん。他人の惚気聞いて照れたの、初めてだよ…」
「はぁ?」
「ううんごめんなんでもない」



「………」
「…ものすっごい惚気ね。ネルといい勝負だわ」
「…聞いてて、ここまで照れる惚気ってのも、すごいですよね…」





恋愛は惚れた方が負け、なんてよく言いますが。
惚れた理由が思いつきすぎて選べない彼女と、惚れない理由が思いつかない彼と。
さて、どちらが惚気大会の勝者でしょう?