考えてみれば、思い当たる節は山ほどあった。



例えばこの頃ひーとあっぷげーじ経験値三倍とやらのおかげでレベルが一気に跳ね上がり、戦闘時は施術のみで終わってしまうとか。
それ以前にも、後方支援を任されていたので周りに注意を払う事はあれど、激しい移動はほとんどしなかったとか。
ここのところアイテム不足が目立っているので、クリエイションする機会が増えているとか。
そのクリエイションで何故か彼と一緒に料理ラインを任される事になり、何でもかんでも食べる彼の舌には任せられないと味見は自分担当になっているとか。
お陰で、何故か甘くて女の子が好き好むような食べ物の味見ばかりしていたとか。
味見どころか、出来上がった料理を申請を済ませてから彼と一緒にわんさか食べていたとか。



考えてみれば、思い当たる節は山ほどあって頭が痛くなった。





ダイレクト*ダイエット*ダイジェスト





「はぁ…」
「…なんだよ?風呂からあがるなりため息つきやがって」
「んー…ちょっとね…」
「? まさか未だにここの設備の使い方がわからないなんて言うんじゃねぇだろうな」
「違うよ、そういうのじゃなくて…はぁ…」
「???」
「いいよあんたは気にしないで。ほら次あんただろ、入ってきなよ」
「…おぅ」





不思議そうな顔のまま風呂に入って、湯船につかりながら俺何かしたかと彼は考えを巡らせていた。
だが風呂から上がる頃になってもどうにも思い当たらなくて、首をひねっていた彼がふと見つけたものは。
構った形跡のあるディブロの"体重計"のパネル。
「………」
彼は納得したようにあぁ、とつぶやいて、着替えを済ませて風呂場を出た。





「お前、体重増えたのか?」
「―――――!!」
絶句した彼女を見て、彼はやっぱりな、とつぶやいて。
「…図星か」
「…っ…。あぁそうだよ!悪いかい!」
「別にんなこと言ってねぇだろうが」
「…。…はぁ…。数年間キープし続けてきたのに、戦争が終わって気が緩みすぎてたかな…」
「そこまで気にするようなものか?体重なんて」
「気にするよ!…あんたは何をどれだけ食べようがまったくぜんぜん太らないからいいだろうけどね」
「別にお前、太ってなんかねぇだろうが」
「でも体重増えてるのは事実なんだよ。…はぁ…」
「ふぅん…。どれ、」
言うが否や彼は彼女の両脇に手を伸ばして、彼女をひょいと持ちあげた。
「うわ!な、何」
彼女の視界が急にぐんと高くなって、彼女の慌てた声が彼の頭上から降ってくる。
「………。別に重くなってなんかねぇぞ」
「そ、そんな抱え上げたくらいでわかるわけないだろう」
「ふぅん?」
彼は彼女を下ろして、今度は両手を少し下ろして彼女の胴回りを両手で掴んだ。
「こっちも別に太くなってなんかねぇし」
「…。あんたの計り方、ヤらしい」
「は?」
「いや別に。…でもそんな曖昧な計り方で分かるほど増えちゃいないけどさ。増えたのは事実なんだってば…」
「だから、なんでそこまで気にすんだよ」
「だって!」
彼女はぱっと顔を上げて何かを勢いよく反論しようとして。
「、っ…」
急に口を閉じてそっぽを向いてしまう。
「…?」
首を傾ぐ彼を横目で見ながら、彼女は悔しそうに目をそらした。
「だ、だから!ほら、私隠密だし、体重増えたら動き鈍くなったりするだろう?困るじゃないか」
「…それであんだけ気にしてたのか?」
「そ、そうだよ」
「ほぉーう。その割にはたった今思いつきましたと言わんばかりの反応だったよなぁ」
「う……」
正面から真っ赤な瞳がじっと自分を見つめてきて、彼女は後ろめたくなって小さく呻いた。



―――変だ。
以前なら、普段なら。
体重が増えたら真っ先に任務に支障が出る事を気にしていたのに。
今は、慌てて言い訳を考えて、やっとそれを思いつくなんて。



変だ。
真っ先に、…太ったことを彼にどう思われるか、気になっただなんて。



でもそんなこと恥ずかしくて言えるわけなんかないから。



「…はぁ、とにかく体重減らさなきゃ…」
「…話逸らしたな」
「本筋に戻しただけじゃないか。…あーぁ、これから食事制限して運動量増やさないと」
「聞けよオイ」
「…だってあんたに言っても意味ないことだから」
「はぁ?」
「だってあんたは私の体重が増えようが増えまいがどうでもいいんだろ?」
「? まぁ、そうなるな」
「じゃあ、言わない」
「…???」





「て、ゆーかさ。私の体重が増えた原因って、あんたにもあると思うんだけど?」
あんた甘いものばかり作るじゃないか、しかも美味しいし、と心の中でぼやきながら彼女が呟いた。
「はぁ?なんでそうなんだよ」
彼は当然気づかずに聞き帰す。
それを見て、ふっと笑って彼女が続けた。
「…ま、私にも責任はあるんだけどね。喜んでたのも事実だし」
まったくどうして彼の作るお菓子は甘いのにあんなにも美味しくて思わずもう一口食べたくなるような味なのだろう。
不思議に思いながら彼女がぼやく。
彼はひたすら不思議そうな顔をしていたが、彼女のぼやきを聞いて何かピンときたようで目をきらりと輝かせた。
「…なるほどな」
「は?」
やけににやにやと笑いながら、気のせいか迫ってきているように見える彼に。
「な、なに」
彼女は身の危険を感じて一歩後ずさりする。
「確かに俺にも責任あるかもしれねぇなァ」
「だ、だからなにが」
「ん?お前が体重キープできるだけの"運動"を充分にさせてやらなかった責任」
「何言って…」
そこまで言いかけて、彼女の頬が真っ赤に染まった。
「な、なっ…」
「俺にも責任あんだから、勿論責任取って減量の手助けしねぇとな。回数増やすとか体位変えるとか」
「ち、ちがっ、私があんたにも原因あるって言ったのはそういうことじゃ」
「なんだ違うのか?体重増える原因で俺にもお前にも責任あってお前が悦んでるのなんてそんくらいしか思いつかないんだが」
「よ、よろこぶの漢字違う!ていうかそれってかなりこじつけ…」
「ま、原因云々はどうでもいい。とりあえずお前がため息連発するの無くす為に、手伝ってやるよ、運動量増やして体重減らすの」
「そんな手伝いありがた迷惑…ちょっ、ぎゃ―――――!」





二週間後。





「…減ってる…」
「ほらな、効果あっただろ」
「この色魔め…」
「何とでも言えよ」
「…。じゃ、これで元の体重に戻ったわけだから、あんたの"手伝い"も必要なくなったわけだね」
「………」





「…本当に元の体重に戻ったのか?」
「なんだい、じゃあ体重計持ってきて確かめてみるかい?」
「いや、いい」



むにゅ。



「お、ここは減ってねぇな…でっ!」
「変なところで計るんじゃないよあんたはもういつまで経ってもいつになっても!」