不定期更新小話。溜まったら適度にWORKに収納。
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不定期更新小話。溜まったら適度にWORKに収納。
お買い物ごっこのススメ(べるぜバブ/男鹿ヒルベル親子)
「…ヘイ、ラッシャーイ」
「なんだその棒読みは! 魚屋さん役を任されたからにはもっと真心込めて接客せんか!」 「アダ!」 「…あー、ったく! 言えばいんだろ言えば! へいらっしゃあーい!」 「さて坊ちゃま、どれを買いましょうか? 値札が付いているものなら、書いてある分のお金を支払えば坊ちゃまのものになりますよ」 「アー…アイ!」 「へいおまちー税込1050円になりまーす」 「さあ、お財布から千円札と50円玉を出しましょうね。そうそう、それが千円札です。50円玉は、真ん中に穴が空いているお金ですよ」 「ダー、ダブ!」 「素晴らしい!5円玉と間違わずに選ぶことができましたね! はい、ではお金を渡して下さい」 「はいちょーどいただきましたーありあとっしたー」 「坊ちゃま、上手にお魚を買うことができましたね」 「アイ!」 「ふーこれで終わっ…」 「よし、次は八百屋の役だ。こちらの前掛けを着けろ」 「…こーなる気はしてたよ、野菜っぽいおもちゃもあったし」 「ダッ!」 「坊ちゃま、次はお野菜を買いに行きましょうね…おや? 何をしておいでですか?」 「アー、ダー、ダブ」 「おい、何ジャンプに値札貼ってんだ」 「ああ、なるほど、今度は八百屋さんではなく本屋さんですか? わかりました、今すぐ値札シールをお作りしますね」 「アウ、ダッ!」 「ごはんくんの漫画もですね。今お作りしますから、坊ちゃまはお買い物ごっこで買いたいと思うものにシールを貼っていってください」 「おい、プレステにまで貼んな、ゲーム屋までやんのかよ。つかオレの部屋ん中シールまみれにする気か」 「貴様、坊ちゃまが楽しんでおられるというのに、水を差すような事を言うでない」 「あーはいはい、ベル坊の気が済むまで剥がさなきゃいいんだろ」 「ごはんくんコミックス23巻、、410円になります」 「アー、ニョ?」 「とりあえず札出しとけ。紙のやつ」 「アイ!」 「はい、千円お預かりします。590円のお返しです」 「ダ!」 「な、もーそろそろ終わりにしねえ? ゲームしたいんだけど」 「プレイステファニー2なら今は坊ちゃまの所有物だ。貴様が勝手に使う事は許されんぞ」 「おま…人のことお買い物ごっことやらに付き合わせといてそれかよ」 「父親代わりなのだからこれくらい当然だろう」 「ったく…。…ん」 「む?」 「ヒルダ、お前背中…、…」 「背中がどうかしたのか」 「…おいベル坊、お前次は店員やってみろ。今まで客ばかりだったからな、お前もやってみてーだろ?」 「ダ? ダーイッ!」 「? なんだ、先ほどまでは終わりにしようなどと言っておったくせに」 「オレ客な。すんません、あそこにいる侍女悪魔下さーい」 「ダ…ダブ?」 「ほらよく見ろって、あの女にも値札貼ってあんじゃん。千円って。背中んとこ」 「…は?」 「値札シールが貼ってあるものは、何でも金出した人のもんになるんだもんなー。はい、千円」 「アイッ。アー…」 「ぴったりだからお釣りはいらねーぞ。はいベル坊、オキャクサマのオカイモノが終わったら何て言うんだ?」 「ダッ! ダブダ、アーダッ!」 「そーそー、ありがとーございましたー、な。これであの女はオレの所有物確定」 「…貴様、先ほどから何を馬鹿なことを言っておる」 「値札シールが貼ってあるもんは、その分の金払えば買った人のモノになんだろ?」 「…」 「はい、これでお前はオレのモノな。さて、せっかく買った所有物なんだから大事に持っておかないとなー」 「…おい、調子に乗るな」 「はー? お前こそベル坊が楽しそうに店員役してんのに水刺すような事言うなよな」 「くっ…坊ちゃま、今度はヒルダがお客さんの役をやってもよろしいでしょうか?」 「ダ? ウー、ダブ」 「だめだってさー。ほら、大人しくオレのもんになっとけ」 「…馬鹿者が」 「馬鹿ってなんだよ。お買い物ごっこの一環だろ?」 「ほう、ならばごっこ遊びが終わったら私は貴様の所有物ではなくなるというのだな」 「…や、それはねーけど」 「ふん。ならばわざわざ人身売買まがいのことを坊ちゃまにさせるな。魔王だからと言って、坊ちゃまがどこぞのRPGのように奴隷を商品のように扱ったり取引に使ったりなどという卑劣な真似をするわけがなかろう」 「や、半分冗談っつーか、そこまで深刻な話にすることねーと思うけど…。わーったよ、ベル坊がどっかのリーゼントみたいに金で人を買えるとか動かせるとか思うようになったらヤだもんな」 「そういうことだ」 「ベル坊、今のなしな。悪魔とか人間とか、もちろん魔王にも、値段はつけちゃいけねーし買っても売ってもだめだ」 「ダ…? ダブっ」 「よし、わかったな。…これでいいんだろ」 「うむ。…貴様も、父親らしくなってきたではないか」 「…別に」 「ああ、それと」 「んだよ」 「…わざわざ買う必要など、ないだろうに」 「へ?」 「聞こえなかったのならそれでよい。聞こえていたのなら忘れろ」 「…」 「む? ああ、それが背中にひっついていたという値札か。一体いつの間についていたのだろうな…、おい?」 「なぁ。今お前、値札ついてねーし、オレも金なんて出さねーけど」 「男鹿?」 「お前はオレのだよな?」 「…。聞こえていたのならば忘れろと言っただろう」 「やだね。誰が忘れるかよ」 「…ふん」 お買い物ごっこを終えて、先ほどまで手に入れたものを満足そうに並べていた幼い魔王は、親代わりの二人の会話を静かに聞いていた。 父親代わりが母親代わりの頬に手を伸ばし、母親代わりはそれを抵抗することもなく受け入れている。 ほわわんとした空気が流れている二人を見て、幼い魔王はきょとんと首を傾げ、それから先ほどまで母親代わりの背中にもひっついていた値札シールや、おもちゃの紙幣、それから先ほど自分が手に入れた、本物そっくりに作ってあるおもちゃの魚や野菜、漫画やゲームを見る。 それからもう一度、幼い魔王は親代わりの二人を見て、先ほどの会話を頭に思い浮かべて。 悪魔も人間も魔王も、買っては駄目だし売っても駄目らしいが。 買わなくても売られなくても、悪魔が人間の所有物になることもあるし、人間が悪魔の所有物になることも、あるらしい。 「ダーブっ」 ひとつ賢くなった幼い魔王は、仲睦ましい様子の二人を見て、嬉しそうに歓声を上げた。 しあわせ約数(べるぜバブ/ヒルダ+フォルカス)
「解熱剤と、人間界でも聞き目が持続する熱冷ましシート、あと人間に塗っても副作用のない傷薬、と…。これで全部だね」
「うむ。いつもすまないな、フォルカス」 「これくらいお安いご用だよ。また不足するようだったらいつでも連絡してくれたまえ。まぁ、救急箱の中身の補給なぞ、頻繁に行わないに越したことはないのだがね」 「…そうだな。では、薬の期限が切れそうになったら、また連絡する。その時は頼んだぞ」 「ふむ。そうだな。ではベルゼ様によろしく、と…ああそうだ、少し前にレイミアから茶菓子をもらったのだが、たくさんあるから良かったらベルゼ様へのおみやげに持っていくといい」 「これは…、坊ちゃまがお好きな銘菓だな。では、いくつか頂いていくとしよう」 軽く頭を下げてから、彼女は箱の中に並べられて鎮座している茶菓子を二つ手に取る。 二つともベルゼ様の分かな、と予想をつけたフォルカスは、ふと少し前にラミアから聞いた話を思い出す。 確か、ベルゼ様は人間界に行ってから誰かと喜びや楽しさを共有することを覚えられて、あんまんを半分こしてもらって嬉しかった、とラミアは言っていた。 ヒルダ殿も、前に人間界には半分こしやすいお菓子が多くて坊ちゃまが嬉しそうだと言っていた。パピコやら雪見大福やらチューベットやら。…全部アイスだね、と聞き返すと、坊ちゃまはアイスがお好きなようだ、確かに人間界のアイスは美味しい、とヒルダ殿は笑っていた。 以前の彼女なら、なにかお菓子があればベルゼ様に差し上げる事しか考えなかっただろう。しかし今の彼女は、侍女悪魔だからと言って半分こすることを躊躇う事もないベルゼ様の心遣いを受け入れているようだった。 だから、恐らく今回も、ベルゼ様と自分の分、なのだろうなとフォルカスは思う。 以前まで、彼女の世界にはベルゼ様しかいなかった。彼女自身すらも、彼女の意識には存在していなかったようだった。 人間界へ行ってから、その意識が徐々に変わり始めているようで、結構なことだとフォルカスはうんうんと頷いた。 「いいよいいよ、もっと持って行きなさい。ラミアがいないとお菓子の消費が著しく減るからね。5個でも10個でも好きなだけ」 「そうか? それならば遠慮なく頂こう」 彼女の変化が他人事ながら嬉しくて、どうせならもっと持っていけと提案したフォルカスに、彼女はまたぺこりと頭をさげ、茶菓子を見る。 再び一つ二つと大事そうに手に取り、最終的に合計六つを手元に置いた。 それを見て、そういえばベルゼ様とヒルダ殿が居候している家は四人家族だったか、と納得した様にフォルカスがうんうんと頷く。 今彼女の世界にいるのは、ベルゼ様、そして自分だけではないのだろう。 「ヒルダ殿は変わったね」 「む?」 「いや、何も。契約者殿と、ご家族によろしくね」 「…ああ」 では失礼する、と立ち上がろうとした彼女に、フォルカスはふと思い出したように告げる。 「ああ、ヒルダ殿。いけないいけない、うっかりしていた」 「? どうした」 「その、お土産のまんじゅうだけど。契約者殿のご家族には差し上げない方がいい」 「何故…、あぁ、なるほど。確かに、魔力ゼロの人間が食すには少々危険だな」 「うむ。残念だがご家族に召し上がっていただくことはできないね」 「ああ…、残念だが、仕方ない」 言葉通り、残念そうな顔をした彼女は、少しの間何かを考えて。 「フォルカス。…坊ちゃまの魔力の触媒となっているあの男ならば、これを食しても問題はないだろうか」 「ふむ、そうだね。ベルゼ様の上質な魔力を宿しているわけだから、契約者殿ならば食べても大丈夫だと思うよ」 フォルカスがそう伝えると、彼女はほっとしたように、誰が見てもわかる程度に表情を柔らかくさせた。フォルカスが意外そうに片眉を上げる。 自分でも表情が緩んだのに気付いたのだろう、彼女は少しだけ慌てたように付け足した。 「まぁ、あの男は魔界の食べ物などいらないと言うのかもしれんがな」 その言い方と台詞は照れ隠しにしか見えないよ、とフォルカスは言おうか迷って、結局やめた。 彼女は手元にあるお菓子の包みを見下ろして、また何事かを考えるような素振りを見せてから、口を開く。 「では、…こちらのお饅頭は、このまま頂いていこう。ちょうど六つあることだしな」 「ふむ? 構わないが、丁度?」 「ああ。あの男が食べると言えば二つずつ、食べないと言っても私と坊ちゃまで三つずつ頂く事にする」 「…」 「6、とは良い数字だな。1でも、2でも、3でも、6でも余りなく分ける事ができるのだから」 そう言って、彼女は笑う。 フォルカスは大事そうにお菓子を仕舞う彼女を見て、そうだね、と一言だけ答える。 また何かあればよろしく頼む、と重ねて告げ、立ち上がってアランドロンの元に向かう彼女の後姿を、フォルカスは目を細めながら見送った。 アランドロンと共に彼女が人間界へ帰ったのを見届けた後、フォルカスは穏やかに笑っていた彼女を思い返す。 以前の彼女ならば。例えばベルゼ様のお好きなお菓子があった場合、ベルゼ様が程良く満腹にならないように何個お出しすべきか、と考えるだけだっただろう。言うなれば、何個お菓子があろうとベルゼ様に差し上げる分を考える引き算しかしなかったはずだ。 それが今の彼女は、お菓子を何人で分けるかを考えている。ベルゼ様が楽しみを近しい者と共有しようとしている事も理由の一つではあるのだろうが、自然に引き算ではなく割り算の考えを身につけている彼女は、やはり変わったな、と思う。 彼女が変わった原因であろう契約者の不良少年を思い浮かべる。なかなかどうして面白い人間だ。 ふと、彼女が最初に手に取った二つのお菓子は、ベルゼ様とヒルダ殿の分ではなく、ベルゼ様と契約者くんの分だったのではないかと思い当って、フォルカスはこらえる事もなく、ふふ、と声に出して笑った。 きっと三人で二つずつ仲良く茶菓子を食べているであろう姿を想像して、フォルカスは大分数の減った銘菓の箱を見遣る。 次にラミアがベルゼ様にお土産を持って行きたいと言い出したら、六個入りのものを勧めよう、と思いながら、銘菓の箱の蓋を閉じた。 新婚さんいってらっしゃい(べるぜバブ/男鹿ヒル)
「邦枝」
「え? どうしたのヒルダさん」 「すまぬが…制服のネクタイを貸してもらえないだろうか」 「ネクタイ? いいけど、何かあったの?」 「坊ちゃまが、日本のアニメに出演している"お父さん"はみなネクタイをしている、と気づかれてな」 「ああ、そういえば子供向けアニメのお父さんキャラってみんなそうかも。たいていサラリーマンだものね」 「それで、人間界での父親である男鹿にもネクタイを付けてみろ、と」 「お、男鹿がつけるの? 私のネクタイ」 「ああ、やはりあのようなドブ男に貸すのは嫌か。すまなかったな、ではカズとやら辺りに…」 「ああああ待って、別に嫌じゃないの、は、はい!」 「? 悪いな、助かる」 「ほら、借りてきたぞ」 「えー…まじでやんの」 「ダッ!」 「当然だ。坊ちゃまも楽しみにしておられる」 「へーへー。…」 「何をしておる。…もしや貴様、ネクタイの結び方も知らんのか」 「つけたことねーんだからしょうがねーだろ。なんだよ、お前はわかんのかよ」 「そのくらい当然だ。以前、大魔王様がお考えになった余興で、侍女悪魔が全員執事の格好をしたことがあったからな」 「ふーん。んじゃ…」 「ちょっと待ったああああああ!」 「? なんだ古市」 「男鹿がネクタイ、って聞いたときから嫌な予感はしてたけど、やっぱりそーいう流れかっ! 男鹿ばかりいい目見やがって!」 「はぁ? 何の話だよ」 「ネクタイ結べないやー、もーしょうがないわねーやってあげるわよー、あははありがとー、なんて新婚さんいらっしゃいな展開認めん! ヒルダさん、甘やかしたら駄目ですよ!」 「貴様は先ほどから何を言っておるのだ。そもそも、頼まれたところで私がわざわざネクタイを締めてやるわけなかろう」 「頼んでねーよ。結び方教えろって言おうとしただけで結べなんて言ってねーし」 「あっ、そうでしたかそうですよね! あはははーごめんなさいちょっと早とちりしちゃって」 「ふん、わかったのなら静かにしていろ。おい貴様、私が教えてやるのだから一度で覚えるのだぞ」 「へーへー、お願いシマス」 「ダッ、アーイ!」 その時、さりげなく会話を聞いていたクラスの面々は、よくやった古市!夫婦がいちゃこらするところなんか見せつけられたくねーもんな!とほっとしたり、なんだ面白そうな事が始まると思ったのになー、あーあーつまんないッス、と少しがっかりしたり、反応は様々だった。 とにかく、古市の言う新婚さんいらっしゃいな展開は回避されたと思われたのだ、が。 「ほら貸せ。私が手本を見せてやる」 そう言って、彼の首にひっかけられただけで結ばれてすらないネクタイをするりと抜いた彼女の手つきだとか。 「ちょっと待て、早すぎんだろ。もっかいやって」 「一回で覚えろと言っただろうに。仕方がない、もう一度だけだぞ」 あっという間に完璧に結び終えた彼女と、それをじっと見ていた彼の距離の近さだとか。 「…。あ、そっか、正面から見てっからわかんねーんだよ。ヒルダちょっと前向け、後ろから見てるから」 「貴様、まだ覚えられんのか。まったく、そんな調子では坊ちゃまの望む日本の父親像とやらには程遠いな」 椅子に座りなおして正面を向いた彼女の肩に彼が後ろからちょこんと首を載せている仕草だとか。 「覚えたか」 「…ちょっと練習させて」 「は? 覚えたなら自分で試せ」 「いーだろ、一回くらい」 後ろから両手を伸ばして、彼女の首でネクタイを締める練習をし始めた彼の格好が、ほぼ彼女を抱きしめているような状態になっているとか。 そして二人とも、まったくもってそれを意識も自覚もしていない様子だとか。 「これでどーだ」 「ふむ…。まぁ初めてにしては悪くはないな。だがもう少ししっかりと、緩みのないように結べ」 「苦しくねーの?」 「これくらいどうということはない。ほら、もう少しきっちりと結べ」 あげくその状態のまま平気で練習を続けていたりだとか。 その数分後、彼女の厳しい審査をかいくぐって彼は完璧にネクタイを結び終えたわけだが。 それを見てはしゃぐ幼い魔王と、幼い魔王を抱っこしながら機嫌良さそうにしている彼女と、きっちり結び過ぎてちょっと苦しそうだというのに二人を見てため息をつきながらもネクタイを解かずにいる彼の姿は。まるで。 こいつら別にネクタイ結んであげる、とかそういうベタなやりとりなんかしなくても、もうなんか空気?雰囲気?が甘いんだけど! むしろ甘やかしてないけど甘えてるし甘えさせてるだろ!それはアリなのかアリなんだなコンチクショー! 「新婚かっ!」 クラスのほぼ全員の内心を代弁したかのような古市のツッコミが、教室内にこだました。 気まぐれシェフとその下僕と侍女(べるぜバブ/男鹿ヒル)
*短編集おまけ漫画ネタバレ含みます
「で、お前実際料理の腕は全然なんだよな?」 「いきなりなんだよ」 「前拉致監禁されて缶詰食わされた時軽ーくスルーしたけどさー、実際お前包丁さばき?らしきものは速かったじゃん」 「らしきものってなんだらしきものって」 「それとさー、あの時ヒルダさんと妙に距離が近いっていうか、二人とも料理中のあの近さに慣れてるっつーか…とにかく、昔調理実習で俺に丸投げして食べる事だけに専念してたお前が、割と料理姿が様になってたからさぁ」 「あ? フツーだろ」 「嘘つけお前調理実習始まってすぐに包丁持った時三角巾でマスクみたいにしながら隣の席のヤツの眼鏡ぶんどって"コンビニ強盗ー"とかやってたじゃねーか!」 「そーだっけ」 「とーにーかーく、オレが訊きたいのは、普段からヒルダさんと一緒に料理してんのかってことだよ!」 「うん」 「してんのかよ! えっ本当に? ここはお前、オレが勘違いしてお前がんなわけねーだろって否定してなぁんだーそっかーアハハハーで終わる流れだろ!」 「さっきからうるせーよお前! まぁオレは味付けと味見してるだけだけど」 「味見はともかく、ちゃんと味付けとかしてんだ…。あの面倒くさがりの男鹿が…」 「しょうがねーだろ、うまいメシがかかってんだ」 「あー、そういやヒルダさんって人間界の料理苦手なんだっけ?」 「苦手ってもんじゃねーよあれ! あれはもう味音痴とか殺人シェフとかそーいうレベルだ!」 「そこまで言うかよ」 「言うっつの。砂糖を入れすぎたから塩で帳消しにした、とか、フルーツ杏仁のあの寒天?みたいなのに作り方がわからなかったから、見た目だけ見て普通の豆腐と人参とキュウリを四角く切ってシロップかけて生で出すとか、あとカレーってよほどのことしなきゃ失敗しねーと思ってたけど、普通にまずいカレーって実在すんだな」 「へ、へー…」 「まだあんぞ。前なんかのゲームで辛いケーキとかあってこんなんどーやって作るんだよ、とか思ったけどヒルダは見事に作りやがった。うまいものを足せばもっとうまいものになるだろうからコロッケに大量にタバスコ入れるし。タバスコならまだいい、前コロッケにプリン入れようとしやがった」 「確かに前弁当一口貰った時のは、すごかった…な」 「まぁオレは残さず食えるようになったけどな! あいつの所為で、いやおかげで?オレの胃は鋼のように頑丈になったぜ」 「なんだかんだでお前、ずっとヒルダさんの料理食べ続けてたんだな」 「…出されたメシは食えって姉きがうるせーんだよ」 「ま、そーいうことにしとく。で? ヒルダさんの味付けとかがちょっとアレだからそこだけ手伝ってるってこと?」 「おう」 「それならお前が自分一人で作ればいーじゃん」 「や、あいつ食材の組み合わせと味付けはやべーけど、他はまともなんだよなぁ。野菜切ったり下ごしらえしたりとか、本見ればどんな切り方もすぐ覚えるし」 「ふーん」 「だからオレは考えたのだ。味付けさえオレがやればまともな、いや普通以上にうまいメシにありつける!」 「まぁ、普通に考えればそーなるわな。じゃあお前、最近弁当の時やけに浮かれてんのって」 「おー、今のオレの弁当はうめーぞ」 「てめっ羨ましいなオイ! よこせ! 一口よこせ!」 「ぜってーヤだ。誰がやるか」 「こんにゃろ、ヒルダさんと一緒に料理してるってだけでも羨ましいのに! あげく共同作業のうまいメシにありつけるとかどんだけ幸せ者なんだよてめー!」 「いろいろ厄介事に巻き込まれてんだから、これくらいいい目見てもバチあたんねーだろ」 「いい目見過ぎなんだよコノヤロー!」 運命共同体宣言(べるぜバブ/男鹿ヒル)
「…ただいま」
「ダッ」 「お帰りなさいませ、坊ちゃま。…む? 何を不機嫌そうな顔をしておる」 「別に」 「…? 何かあったのか」 「良かったな、ベル坊は将来とんでもねー大物になるってよ」 「! それは喜ばしいではないか。なんだ、高名な預言者にでも会ったのか」 「預言者じゃなくて占い師。帰り道で人だかりができてて、ベル坊が行きたいって言ったから寄ってみたら、赤ん坊はタダで見てくれるっていうから見てもらった」 「ほう、そうかそうか、その占い師は見る目があるな」 「ねーよっ!」 「は? 貴様、坊ちゃまが大物にならないとでも?」 「ベル坊の結果は、人間滅ぼしさえしなけりゃ当たってもいーけど」 「ああ、貴様も占ってもらったのか。なんだ? 悪い結果でも出たのか」 「べつにっ!」 「…?」 「ただいま戻りました」 「お邪魔しまーす。ベルゼ様、こんにちは!」 「ダブッ!」 「お、何だお前、最近ずっとこっちにいるよな」 「うっさいわねっ、ちゃんと師匠にも許可もらってるんだからあんたにとやかく言われる筋合いないわよ!」 「でッ! なんだあいつ、急に不機嫌になりやがって」 「先ほどまでは上機嫌だったのだがな。…ところで」 「ん?」 「以前、坊ちゃまが偉大な魔王になられると言い当てた占い師の事だが」 「…それがなんだよ」 「貴様の占いは外れたのか?」 「そーだよハズレだよ、当たってたまるかあんな結果」 「そうか…。ならば、100%当たるわけではないということか」 「占いなんてそんなもんだろ。なんだよ、お前も見てもらったのか? どんな結果だったの」 「…言わん」 「は?」 「この話はもう終わりだ。坊ちゃま、お土産に坊ちゃまのお好きなごはん君カップケーキを買ってきましたから、お部屋で頂きましょうか」 「ダーッ!」 「…なんだあいつ、あっちから話題ふってきたくせに」 彼はくるりと背を向けて部屋へ戻る彼女の背中を眺めながら、数日前、学校帰りにふらりと立ち寄った占い師との会話を思い出す。 ―――ふぅむ。この赤ちゃんは将来、とんでもない大物になるでしょう。これだけ大物になる子は滅多にいませんよ。鼻が高いですねお父さん。 よし、サービスでついでにお父さんも占ってさしあげましょう。なに、遠慮はいりませんよ、お金なんてとりませんから。 どれどれ、…ほほう、あなたもなかなかに波乱万丈な人生を歩むようですね。でもそれなりに、いや人より幸せな充実した道を歩めるようです。 でも…おや?いやしかし…うーむ? あっすみません、ちょっと意外な結果が出たもので…わ、わかりました、私もプロです、どんな結果も正直にお伝えしましょう。 幸せな人生を送る、と出ていますが、…運命の人とは出会わない、いない、と出ていまして…いや不思議です、今のあなたは既にご結婚されていいてかわいい赤ちゃんもお生まれになっているというのに、えっ、血の繋がったお子さんではないのですか? あっ、すみませんあの睨まないで、いえそのあれですよ、落ち込まなくても大丈夫です今や一生独身なんて珍しくないですし、あの怖いですそのえーと、ほら、占いなんて信じるも信じないもあなたの自由ですから! ほら外れる事もありますし! 最後にはプロとしてそれはどうかと思う発言すら出ていたあの占い師の言う事など、当たってたまるかと彼は無言で顔を顰める。肩にひっついている幼い魔王が急に不機嫌そうになった彼を見て首をちょこりと傾げた。 至近距離から不思議そうにじっと見てくる幼い魔王をちらりと見てから、今ここにはいない彼女のことを考える。 運命なんて信じていなかったけど、でもこれからずっと隣に誰かがいるとすれば、それは彼女だろうと何となく思っていた。 隣に彼女がいないのに、充実した幸せな人生を送る自分がどう頑張っても想像できなかった。 占いなんて信じないし外れる、と思っているのに意外と動揺している自分に気づき、彼がますます不機嫌そうに目を細めていると、突然脛にがつんと何かがぶつかった。 「ちょっとあんた、いつまで突っ立ってんのよ。ヒルダ姉様の言ってたこと聞いてなかったの? ベルゼ様を早く部屋までお連れしなさいよ」 「お前、ふつーに声かけれねーのかよ…。いちいち蹴りやがって」 「…これくらいで済ませてあげてるんだから、文句言うんじゃないわよ。本当なら50年くらい起きない薬とかぶちこんでやりたいくらいだわ」 「はぁ? 何お前、オレに何か恨みでもあんの」 「ありまくりよ! まったく、こんなヤツとヒルダ姉様が恋人同士っていうのでさえ認めたくないのに、さらに運命とか、ありえないありえないわ!」 「は…?」 「あーもうっ、今日占ってもらったら、ヒルダ姉様は今好きな人、もしくは今の恋人が運命の人でずっと幸せに暮らす、って出たのよ! 認めるのも癪だし悔しいけどあんたしかいないじゃない!」 「………」 「何よその反応、まさか不満だっていうの?」 「いや、不満じゃねーけど…あれ? オレが占ってもらった時は、オレには運命の人なんていねーって」 「は? そんなの当たり前でしょ、あんたまさか浮気する気?」 「待て、なんでそーなる」 「だってヒルダ姉様は、"ひと"じゃないでしょ」 「……………」 「遅いぞ、何をしておったのだ」 「…あー」 「さぁ坊ちゃま、こちらにカップケーキをご用意いたしております」 「ダブ!」 「…ヒルダ」 「なんだ…、…おい?」 「さっきさ、占いなんて100%当たるわけじゃない、って言ってた時、お前なんか残念そうにしてたよな」 「…当然だ、坊ちゃまが大物になられないはずがないからな」 「うん、そだな」 「なんだ、貴様が外れだと言いだしたのだろう」 「あれな、間違い。あの占い当たるわ確実に」 「は…?」 「つか、当てる。当てよーな」 「…」 「いいからうんって言え」 「…。うむ」 「よし」 「…むぅぅぅ、ベルゼ様、あんなのが親でいいんですか?」 「ダッ!」 「…そうですか。うん、ベルゼ様がそう言うんだったら、なんていうかしょうがない、かな…」 「アダ?」 「なんでもないです! ベルゼ様は絶対に、立派な魔王になります! なれますよ、ね!」 「ダブッ!」 |