「…ふぅ、困ったことになったね」
「まったくでがすよ。なんだってこんな薄暗くてジメジメしてカビ臭いところに放り込まれる羽目に…」
「まぁ、愚痴ってもしょうがないわ。なんとか生き延びる手段を考えないと」
「そうだな、ゲームの展開上の都合で一ヶ月はここにいなきゃならんわけだしな」
「そーだね…じゃ、とりあえず、現状を再確認しよう。今僕らが放り込まれてるのは地下奥深い牢獄で、衛生状態ははっきり言って最悪、食事は期待できそうもない」
「とりあえず、腹ごしらえする方法や寝床をどうするかを考えないといけねぇでがすな」
「そして今私達の手元にあるのは、RPGお約束の四次元ポケット並に物が入るふくろだけ」
「まずは寝床の確保だな。もう多分夜中だろうし、十分な睡眠がないと体力も落ちるし」
「もう使わない装備品で何か使えるもの…あ、これとかどう?」
「確かに毛皮のポンチョや皮の腰巻きは敷布団代わりになりそうでがすね」
「あと、毛皮のフードやターバンは枕代わりになりそうね」
「ビロードマントやレザーマントは掛け布団代わりになるな。…でもなぁ、レザーマント二つで二人分だろ、ビロードマントは一枚しかねぇから、誰か寒々しい思いすることになるぜ?」
「確かに、他の装備品は小さいから重ねがけしたとしても最終的にマント類を掛けなきゃ熱逃げて寒いだろうしね…。じゃあまずゼシカはビロードマントだね。女の子は大切にしなきゃ」
「兄貴らしいでがすなぁ」
「…えっ? 別にいいのに」
「いいっていいって、女の子犠牲にして暖かい思いするわけにゃいかねぇしな」
「んじゃ、僕ら三人でじゃんけんかな」
「…でももし兄貴がマント無しで寝ることになるようでげしたら、アッシが代わるでがすよ!」
「おいおい、それ公平じゃないだろ。ティリスに当たる確率高すぎじゃねぇか」
「あら、だったら誰かが二人で共同で使えば?」
「「「………」」」



リバイバル*サバイバル



「…ヤンガスとは無理だと思うよ…横幅の問題で」
「それを言うんでがしたら、ククールとも無理でがすよ。身長の問題で」
「そもそも野郎二人で共同なんて冗談じゃないぜ。まぁ、女性となら話は別だが」
「それどういう意味かなククールなんでゼシカの方見ながら言ってるのかなどういう魂胆なのかなまさかくだらないこと目論んでないよねまさかねそんなことないよねないと思うけどもしそうだったらどうなるかわかってるよね覚悟はいいね?」(一息で)
「…え、笑顔で黒いオーラ発しないでくれ頼むから謝るからごめんなさい許してください」
「あーあ、自業自得でがすね。兄貴はゼシカの姉ちゃんの事になると性格変わるでがすから」
「な、ならさ、ティリスとゼシカで共同に使ったらどうだ? サイズも同じくらいだし」
「え?」
「あぁ、いいでがすね。横幅でも身長でも問題ないでがす」
「…ゼシカがいいなら僕はいいけど」
「…私もいいわよ、別に。ティリスならそこの色魔と違って何もされなさそうだし」
「………(色魔って言われたのは微妙だがティリスの機嫌が直って良かった…)」



次の日



「ふぁー…」
「おはようでがす、兄貴。昨日の簡易寝床はよく眠れましたかね?」
「うん。やわらかかった」
「………あの、それどういう意味で取れば…いえ、なんでもないでがす」



「んー…おはよ。ここって日が差し込まないから朝って感覚湧かなくて嫌だわ」
「おっ、起きたなゼシカ。昨夜はどうだったよ? 何かされなかったか?(にやにや)」
「枕が足りなかったから腕枕はしてもらったけど」
「………そーかそーか、うん。仲良きことは美しきことかな、ってやつだな」
「は?」



「さて、全員起きたところで朝食と言いたいところだけど…」
「ふくろの中に何か食料あったでげすか?」
「なかったらまずいわよかなり」
「なんか食い物あったか? それがないと一ヶ月生き延びることすら難しいぜ」
「どれどれ…お、トーポのチーズならいっぱいあるよ」
「薬草も毒消し草も、満月草もたんまりあるでがすな」
「錬金用に買いだめしておいたのが功を奏したわね。チーズ類もたくさんあるし、これなら何とか持ちこたえられそう」
「あと、飲み物はただの水とおいしいミルク、あと最悪はアモールの水やら飲むしかないな」
「栄養すっごく偏りそうだけどね…。まぁ人間は水と塩があれば一ヶ月生き延びられるらしいし」
「錬金用に岩塩もたんまりあるでがすから、塩分は採れそうでげすな」
「種も結構あるわね。錬金に使うからってとっておいてよかったわ。サザンビークの大臣もこれで生き延びたらしいし、無いより全然ましでしょ」
「人生、何が役立つかわからねぇもんだな…」



三日後



「…チーズ飽きた…」
「同感、でがす…こう毎日毎日乳製品だと飽きるというかうんざりしてくるでがすな…」
「しょうがないじゃない。私だって肌荒れ必至なの我慢してるんだからね」
「なら適当に違う種類のチーズ混ぜてみるか? 多少は味が変わってマシになるかもしれないぜ」
「あ、そーだね。じゃあ普通のチーズにちょっぴり辛口チーズを混ぜて、と…お、ピリっとしてておいしいかも」
「じゃあアッシは激辛チーズと混ぜてみるでがすよ。普通だと辛くて食べれそうにないでげすから、混ぜたらちょうど良いかも…うっ、辛ッ! 水、水!」
「…しかし、固形チーズばかりも飽きるわね…チーズフォンデュ食べたいなぁ」
「あぁ、チーズ熱して溶かしたやつを色々な物につけて食べるあれか。確かに薬草や種とかに浸せばちょっとは美味いかもな」
「メラで暖めたら良い具合に溶けるんじゃない?」
「直接やったら燃えちまうでげすよ」
「あ、でも確か、お鍋の代わりになりそうなものが装備品の中にあったわよね。確か錬金メモでも鍋代わりに使用して…っていうのがあったし」
「ミスリルヘルムか…。確かに使えそうだが、消毒もなしでいきなり食べ物入れるのはどうかと思うがな…」
「水で洗って熱湯消毒すればいいよね?」
「でも熱湯なんてどこにもないでがすよ? 飲料水使うのも勿体無いでげすし」
「平気よ。ね、ティリス?」
「うん」
「…何が平気なんだよ?」



「まぁ見ててよ。ヒャド!」
かちーん
「ん? 鍋代わりのミスリルヘルムに氷の塊なんて入れてどうするんでがすか?」
「じゃあ、次は僕の出番だね。ギラ!」
じゅぅっ
「お、ミスリルヘルムが熱されて…すげぇ、一瞬で氷解けたうえに沸騰してんぞ中の水!」
「まぁ、こんなものね」
「じゃ、これ利用して消毒して、早速チーズフォンデュでも作ろうか。薬草や種とかに浸して食べればおいしいかもしれないし」
「今日の昼ごはんはそれで決まりね。お鍋熱して牛乳入れて、刻んだチーズを入れて溶かすとしましょうか」
「チーズ刻まなきゃならないんでがすか…手でちぎると細かくならないでがすよ」
「包丁とまな板が欲しいわねぇ…代用品ない?」
「どれ…。ブロンズナイフとシルバートレイなんてどうだ?」
「あ、使えそうだね。よし、ゼシカ一緒に消毒しよう」
「うん」
「じゃあアッシは石を集めてかまどを作っておくでがすよ」
「なら俺は食材の用意だな」



「さて、チーズも溶けたしそろそろ食べようか」
「そうでがすな。あー、いい匂いが漂ってきて腹の虫がうるさいでがすよ」
「はいはい、じゃあ食べましょ」
「薬草とか種とかは準備できてるな、よしはじめようぜ」



「「「「いただきまーす!」」」」





巨大な鳥かごのような形の、エレベーター代わりに使用されている檻が上から降りてきて。
看守の交代時間がやってきた。
交代で来た看守その二は、その場にいる看守その一に声をかける。
「よっ、ご苦労さん。交代だぜ」
「ああ…」
微妙に反応が薄い看守その一に、看守その二は不思議そうに声をかける。
「どうした?」
看守その一は、乾いた笑いを浮かべながら見張っていたはずの牢屋を指差した。



「ゼシカ、岩塩とってくれる?」
「はい、どうぞ」
「あぁそうか、塩味があればまた味のバリエーションが増えるな」
「そうでがすな〜もぐもぐ、それにしてもこのちーずふぉんでゅとやらはウマいでがすな〜がつがつ、ただの薬草がかなり美味しく感じられるでげすよむしゃむしゃ」
「あーちょっと! ヤンガスあんた食べすぎよ!」
「あはは、まだ沢山あるから平気だよ」



牢屋の中、つまりは普通なら死と恐怖と絶望に満たされている空間のはずのそこで。
繰り広げられている、ほのぼのとした光景に。
「…なぁ」
「…なんだ」
「俺…目がおかしくなったかもしれん」
目をごしごしこすりながら、看守その二が呟く。
「ここって牢獄なんだよな?」
「…あぁ」
「なんか…キャンプか林間学校に見えるのは俺だけか?」
看守その一はふっと笑った。
「…安心しろ。俺にもそう見える」



唖然としながらつぶやいた看守その二のセリフに、看守その一は小さく答えた。