「もし私が死んだら、ティリスは私の事、忘れないでいてくれる?」



memories.



「…急にどうしたのさ、ゼシカ」
「ちょっとね」



「…さっき、教会の前を通ったらね、お葬式が行われてたの」
「みんな、悲しそうな顔してて。泣いてる人もいて」
「そんな中で、亡くなった人が眠ってる棺が、そこにいたみんなの前で埋められて」
「私、亡くなった人の事も何も知らないけど…見てるだけですごく、悲しくなって」
「そこから動けずにいたの」



「そしたらね」
「私の近くにいた、嗚咽を上げてた女の人が、埋められてく棺に向かって泣きながらこうつぶやいたのが聞こえた」
「"私は貴方を、絶対に忘れません"って…」



「…それで、気になったの? 自分の死後、僕が君を忘れるかどうかって…」
「うん…」
「………」



「忘れないで、なんて言わないよ」
「え?」
「憶えててほしい、とも、言わない」



「でも…」



「忘れないでほしいなんて言えない、でも…時々でいいから…私の事、思い出してほしい」



「思い出す…?」
「うん。時々で、たまに、でいいから」
「………」
「…ティリス?」



「思い出す事なんて、ないよ」
「!」



「僕はゼシカの事、忘れないから」



「忘れる事なんて、有り得ないから」
「だから、思い出す事もない」
「ずっと憶えてるんだから」
「…僕は、君を、」



「…忘れないよ」



「………」





「ありがとう…」



「ほんとはね」
「ん?」
「…忘れないでほしい」
「………」
「私が生きてた時の事。出逢った時の事。一緒に冒険して、一緒に戦って、一緒に笑って、一緒にいた時の事」
「ゼシカ、」
「忘れないでほしいの」



「だからね」
「うん?」
「…思い出す事なんてない、って言われて、悲しかった」
「それは…」
「…忘れない、って言われて、嬉しかった。すごく。すごく」



「ねぇ、ティリス」
「なに?」
「私もね。ティリスがもしも死んでしまっても、ティリスのこと、忘れない」



「絶対絶対、忘れたりなんかしない」



「…ありがと。」





「…でもさ。もしゼシカが、死んでしまったら…」
「ん?」
「僕、その場で後追うかもしれないから、ずっと忘れないよって断言できないかもなぁ」
「…なに言ってんのよ、ばか」
「馬鹿…」
「そんなことしてみなさいよ、天国からこの世に向けてなに馬鹿なことしてんのよ、ってバシルーラしてやるんだから」
「ゼシカバシルーラ使えたっけ?」
「天国だしなんでもありでしょ」
「なんでもありか…じゃあ僕は、ゼシカにバシルーラされる前にゼシカを引っつかんでルーラでこの世に戻ろうかな? 二人一緒に」
「…この世って、ルーラで戻れるの?町扱い?」
「じゃあダンジョン扱いでリレミトで」
「真面目に答えなくていいのよ」
「僕は本気だよ? 結構」



「………やっぱり、あなた馬鹿よ」
「手厳しいね」
「…でも」
「ん?」
「私も、馬鹿かも」



「………」
「私も。…ティリスが死んでしまったら…同じ事するかもしれない」
「…困ったな、今からバシルーラの練習しなきゃ」
「じゃあ私もルーラを習得しなきゃ、ね」
「…真面目に答えなくてもいいんだよ」
「いいのよ、私も馬鹿だから」