「なんだかんだ言ってさ〜、あたし達のパーティって個性派揃いだけど、何気に粒揃いだよね?」
「粒揃い?」
「うん。だってみんなそれぞれ戦闘スタイルは違うけど強いし、ちょっとやそっとじゃびくともしないくらい精神面も鍛えられてると思うし、何より結構な美形さん揃いでしょ?」
「あぁ、言われてみればそうかもしれないわね」
「でしょでしょ? フェイトちゃんはハンサムだし、ソフィアちゃんはカワイイし、クリフちゃんはタクマシイし、マリアちゃんはキレイだし、ネルちゃんはカッコイイし、アルベルちゃんはビジンさんだし!」
「…アルベルの形容、"美人"なんだ」
「否定はしませんけどね…。そういえばスフレちゃん、ロジャーが抜けてるよ?」
「んー…あぁ、ロジャーちゃんはほら、おっきくなったらイイオトコになりそうだし」
「あら、あなただって成長したら綺麗になると思うわよ?」
「あぁ、それは言えてるね。スフレ、将来美人になると思うよ」
「えへへっ、ありがと! でも、みんなもそれぞれミリョクテキだよね!」
「甲乙つけ難い、ってのはこういうことなのかなぁ?」



そんな風に何気なく、女性陣の会話が進んでいって。
ふと、マリアが呟いた。



「優劣をつけたい、ってわけじゃないけど。順位付けしてみたら、どうなるのかしらね?」



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「順位ですか?」
「わー、面白そう! じゃあ例えば、男の子達の中で、"イイオトコランキング"とか?」
「そう、そんな感じ。男性陣メインで考えるとしたら他には…"戦闘面での総合的な強さランキング"とか」
「…うーん、じゃあ"よく食べるランキング"とか?」
「"よくお酒飲む人ランキング"とか! ふふ、こういうのって中学の時作った文集みたいで懐かしいなぁ」
「あー、クラスの人の中でなんでもランキング!ってやつだよね? 地球の映画で見たことあるよ」
「じゃあさっそく、最初に出たスフレの案で考えてみましょうか?」
「"いい男ランキング"? あんまりそういうこと考えた事なかったから、難しいね…」
「えーと、私だったら…、やっぱり一番はフェイトで…、んー、二番がアルベルさん、三番がクリフさん、四番がロジャー、かな? いっそ一位から十位くらいまでフェイトでも良かったんですけどね〜、なーんて」
「あ、やっぱりソフィアちゃんはフェイトちゃん一番なんだv」
「さすがに、一番だけは即答だったわね。貴女らしいわ」
「いっそ一位から十位まで、って…あんたって、本当にフェイトのこと好きなんだね」
「えへへ、やっぱり惚れた欲目、ってヤツかもしれませんけど、フェイトかっこいいですもん」
「わーっ、らぶらぶだねv うーん、あたしだったらそうだな〜、一番ロジャーちゃん、二番がフェイトちゃん、三番が同着でアルベルちゃんとクリフちゃん、かな?」
「あら、ロジャーが一位? やっぱり何だかんだ言って気に入ってるのね」
「何気に三位を同着にしてるのがスフレらしいね?」
「スフレちゃんって、皆を平等に好き、っていつも言ってるもんね」
「ふふふー、でもロジャーちゃんはお気に入りなの! フェイトちゃんは第一印象すっごく良かったから、他のふたりと偏差で二位!」
「なるほど、印象、ね。じゃあ私はその観点で考えれば、一位クリフ、二位フェイト、三位がロジャー、四位がアルベル、かしら」
「あぁ、成る程ね…確かにアルベルの第一印象は最悪だったろうね」
「あー…、確か、牢屋で繋がれてた、んでしたっけ…。そりゃ、印象良く映りませんよね…」
「ふぁーすといんぷれっしょん、って大事だもんね〜。クリフちゃんが一位ってことは、第一印象よかったの?」
「まぁね…。十日間くらい脱出ポッドから出られなくて、本当に死にそうなくらいに衰弱してたところを助けてもらったんだもの。最初は少し怖かったけど、助かったって思ったら、本当に天使みたいに見えてきてね。…正確に言うと、天使みたいに見えたのは彼の隣にいたミラージュだけど」
「あはは、でも一位に名を挙げたって事はやっぱり印象は良かったんだろ?クリフも」
「それに、クリフさんはお父さんみたいな存在、って前言ってましたもんね、マリアさん」
「実は仲良しさんなんだよねっv」
「ふふ、まぁ色々と世話になってるしね。…さて、あとは貴女だけよ?ネル」
「あー…そうだね。うーん…」
「あれ? ネルさんなら、迷わずに一位アルベルさん、って言うかと思いました〜」
「そうそう、だってほんとーにらびゅらびゅ仲良しvだもんね、ふたりとも」
「まぁ、貴女照れ屋だし、あまりこういう話題に慣れてないんでしょうけど」
「んー…、まぁ、ね…」
「あー…。じゃあ、無理にランク付けしなくてもいいですよ? 同着があっても良いんですし」
「うんうん。あ、でもアルベルちゃんは、さすがに誰とも同着じゃないよねっ?」
「そうよね、アルベルはさすがに一位あたりにランクインしてるんでしょ?」
「…アルベル、ね。うーん、じゃああいつは…」



普段、色恋事に関する話題であまり口を開こうとせず、誰かの話の聞き手に回っている彼女が。
その場の流れとはいえこういった話題に乗ってくれるのは、結構に珍しいので。
ソフィアは目をきらきら輝かせ、マリアは興味津々と言った様子で、スフレはわくわくと期待しながら、考えているらしい彼女の答えを待った。



何気に三人の視線を浴びている彼女は、ややあってから口を開く。



「…下から数えて…」
「「「下から!?」」」



見事に、三人の驚いた声がハモって響いた。



「ってことは下から数えたほうが早いんですか!?」
「うそー! ほんとにほんと?」
「…さすがに、少し意外ね」



驚きながらコメントされ、彼女は少し困り顔をして答える。



「そ、そうかい?」
「そうですよー。だってアルベルさんの順位が下から数えた方が早いなんて…」
「…なんかアルベルちゃん、アワレになってきちゃったよ」
「…私も、なんて言うか、正確に何位なのか訊くのが躊躇われるというか可哀想になってきたわ」
「…そう? 別にあいつに気を遣わなくてもどうせ順位は…」
「い、いいいいえいいです!なんかどうせとかつけられちゃってるしアルベルさんカワイソウなんで!」
「じゃ、じゃあネルちゃんの"イイオトコランキング"の意見は保留ってことで!」
「じゃあ次、"戦闘での総合的な強さランキング"いってみましょうか?」



焦ったように強制的に話題を進められて、結局彼女の"良い男ランキング"は、発表されることのないままその話題は終わった。かのように見えた。
が。





「…なぁ」
「ん?」
それから数日も経たないうちに。
下から呼ばわりされた当の彼が、彼女にげんなりしたように尋ねてきた。
「お前、俺の事についてあいつらに何か言ったのか?」
「あいつら?」
「女共だ。こないだから"ネルさんの評価上げる為に頑張ってください"だの、"もっとネルに認められるように男を磨きなさい"だの、"落ち込まないでねだいじょうぶ!"だのうるせぇんだが」
「…あぁ」
思い当たるフシは確かにあるので、彼女が納得したように呟く。
それを見てやはり原因はお前か、と言わんばかりに彼が眉を寄せた。
「なんなんだ? 俺の陰口大会でもしたのか」
「そんなことしてないよ。ただ、皆で話してた時に男性陣の話題が出ただけで」
「ほぅ? それで女共が俺だけに文句を言ってくるとはどういうことだ?」
「別に…」
「"脱・下からですよ!"とかわけのわからんことも言われたんだが?」
「………」
「それに評価あげろだのお前に認められろだの落ち込むなだの言ってきやがったっつぅことは、お前が俺に対して何某かの良くはない評価をした、つぅことだろ」
「………、」
こういうことだけ妙に鋭い彼に、彼女が無言になって視線を逸らした。
が、それを許さないとでも言うように彼が彼女の肩を掴んで引き寄せ、目を合わせる。
「…言えよ。大体当たってるんだろ?」
紅いふたつの瞳がじっと見つめてきて彼女はなんとなく気まずくなって、でも視線を逸らすことなく彼を見た。
「さぁね…」
「否定しないなら肯定と見なすぞ」
「…否定はしないけど肯定もしないよ」
「は?」
「だから、当たらずとも遠からず、なんだよ」
「なんだそりゃ」
「…まぁ、あんたの予想、大体は合ってるんだけどさ」
「じゃあ何が違うんだよ」
「…言わなきゃだめなのかい」
「駄目だな」
「…」



彼女はようやく観念したのか。
ずっと合わせられたままだった視線を下げて、目を閉じてはぁ、とため息をついた。



「…ちょっと前に、皆と話しててさ。話の流れで、男性陣の中で誰がいい男か順位をつけようって事になって」
「はぁ?」
「だ、だから話の流れだって言ってるだろう!」
「…ほーぅ? つぅことは、お前はその順位付けで俺をかなり下に位置付けたってことか?」
かなりの不機嫌さを持って言われた台詞に、彼女は一瞬押し黙ってから答える。
「…。最後まで聞きなよ。確かに、皆に私にとってあんたは何位か、って訊かれて、下から数えて…とは言ったけど…」
「あぁ、それか。"脱・下から"ってのは」
肩をすくめて、納得がいった様に、だが不機嫌そうに投げやりに彼が言った。
彼女はそんな彼を横目で見ながら、やはり視線は合わせないまま、少し頬を赤くしている。
彼女の頬が赤いことに、彼はまだ気づかない。
「それで? 結局下から何番目なんだよ、お前にとっての俺は」
「…言わない」
「は?」
「だから、言わない」
「ここまで言っておいてその返答で満足するとでも思ってんのか?」
「………言わな、い」
「…ほぉ。なら俺が聞いたらさらに不機嫌になるような内容、だと」
「………」
「ま、どうせお前から見た俺の評価はそんなもんだった、つぅことだろ?」
「…、だ、だからっ、」



顔を背けていた彼女が、困ったように彼を見て。
その顔がその表情が、照れくさそうに彼を上目遣いで睨んでいて。
彼女がそんな顔をしている訳が分からなくて、彼が不思議そうに、少し驚いた風に目を見開いて。
そんな彼に、彼女は赤い頬のまま、口を開いた。





「…四番目」
「あ?」
「だから、下から数えて四番目!」





………。



四番目?
下から?



現在のパーティの人数は八人で。
男女比率は見事に一対一。
故に男性陣の人数は四人なわけで。
彼女らが言う"いい男の順位付け"にエントリーされた人数も四人で。
つまりは四人中、下から四番目ということで。



ということは。
上から数えて…





彼が何かに気づいたように目を見開いて。
彼女は照れくさそうに悔しそうに顔をそむけた。
そんな彼女が、耳まで赤いことに気づいて。
ぶは、と彼が思わず笑い出した。



「ふ、っくくくくく…」
「わ、笑うな!」
「っくっくっく…下からとか言いやがるから、どんな順位なのかと思えば…」
「し、下から数えるイコール順位悪い、とは限らないだろ! ストレートになんて言えないんだよ私は!」
「い、一緒だろが結局…く、はははっ、…お前、っとに素直じゃねぇよな…」
「う、うるさいよ!」



腹を抱えて笑っている彼を悔しそうに睨みつけて、彼女が赤い顔のまままくしたてるように言う。
彼はそれにも構わずやはり爆笑し続けていて。
感情の起伏が乏しい彼にしては珍しく、呼吸困難に陥りそうなくらいに笑っているその様子が憎たらしくて。
とにかくなんとか話題を変えよう、ついでにこいつに一矢報いることはできないか、と彼女は口を開いた。



「…じゃあ、あんたはどうなのさ」
「…あ? 何がだ」
「だから、もしもあんたがこのパーティの女性陣をいい女順に順位付けるとしたら、なんて答えるんだい?」
「………」
彼女に問われた事を考え始めたのか、彼がようやく笑いやむ。
ややあって彼はにやり、と笑んだ。
「…お前はどう答えて欲しいんだ?」
「はぁ? …別に、どうだっていいけど?」
「ほぉ。なら、もし俺が一位にお前以外を選んでも構わない、と?」
「っ…、」
ほぼ反射的に、息を呑んで悲しそうな顔をして。
そんな自分に気づいたのか、彼女がはっとなって自分の口元を手で覆う。
ポーカーフェイスが近頃下手になってしまった彼女を見て、彼が笑って、





「安心しろ。最下位から一位までお前しかいねーよ、俺の中での"いい女の順位付け"なんざ」





彼女はぽかんとする以外の選択肢を思いつかなかった。
その頬はばっちりしっかりと、染まってはいたけれど。



「…、私以外の皆はどうなのさ?」
「範疇外だ」
「………」



また、彼女が顔を赤くさせて。
悔しそうに、だが今度はどことなく嬉しそうに、口を開く。



「あんたの、そういう率直なとこ、本当に苦手だよ」
「あ?」
「…でも」



彼女が彼の肩にこつん、と頭をもたせかけた。



「嫌いじゃないな。…そんなところも」





「…阿呆」



言いながら、彼が彼女の背に腕を回した。





「…今の発言でちょっとだけ、あんたの株上がったかな」
「ん?」
「一、二票入ったよ、今ので」
「…いい男ランキング、とやらか?」
「うん。二位以下に差がついたね」
「…他の追随を許してねぇだろう?」
「…うん、まぁ」
「ま、どうせ他に票が入ろうと、その位置を譲るつもりはねぇがな」
「は?」
「一生お前の中でその順位にいてやるよ」
「………。ばーか」





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ただし―――順位は、不動。