「てるてるぼうずー、てるぼうずー♪ あーした天気にしておくれー♪」
「ん? 珍しい…っていうか懐かしい歌だなそれ」
「あ、フェイトもそう思う? さっきね、スフレちゃんとロジャーに地球の童謡を教えてって頼まれてね。いろいろ思い出してくうちに、懐かしくなってきて」
「小さい頃はよく歌ってたけど、今は童謡なんて歌わないもんな」
「そうだよね。いつかの夢の空のよに〜、晴れたら銀の鈴あげよー♪」
「…改めて聞いてみると、なかなかメルヘンな歌詞だよな、その歌」
「うんうん。可愛い歌だよねv なんていうか、ほのぼのしてるしさ」
「…でもさ、本当はちょっと怖い歌だって知ってたか?」
「えっ?」



本当にあった?怖い裏話



「ソフィアはその歌の続きの歌詞知ってる?」
「ううん。一番だけしか知らないなぁ」
「じゃあ教えてあげる。この歌って、二番、三番と続いて、三番では、もしも晴れなかったらてるてるぼうずの首を斬りおとすぞって歌詞があるんだよ」
「えぇっ!!」
「元々はこの歌、雨乞いをする祈祷師? か誰かの歌で、雨乞いして雨が降ったら褒美を沢山貰えたけど、降らなかったら斬首刑だったんだって」
「………。そ、そうなんだ…。確かに怖い歌だね…」
「だろ?」
「じゃ、じゃあ他の歌歌おっかな。えーと、しゃぼんだーまーとんだー、屋根までとんだー♪」
「…それもさ、なかなかに悲しい歌だってね」
「うぇ!? こ、これも? のどかでいい歌だと思ってたのに…」
「あぁ、そういえばソフィア、小さい頃しゃぼんだま飛ばす時によく歌ってたっけ」
「う、うん…」
「なんかね、この歌を作った人の子供が、生まれる前に死んでしまった…つまり、死産だったらしくて。それで、しゃぼんだまをその子供の魂になぞらえて作った歌らしいよ」
「………。ふ、ふぅん…。本当は悲しい歌だったんだね…」
「うん。童謡って、意外に怖かったり悲しかったりするんだよな」
「え、えと…。じゃあ、明るくて可愛い雰囲気の童謡なら、大丈夫だよね? めーだーかーの学校はー、かーわーのー中ー♪ そーっと覗いて見てごらん、そーっと覗いて見てごらん♪」
「…ソフィア。実はそれもアウト」
「えーっ!? めだかが川の中で学校に行ってて、それを人間が微笑ましく見てる歌、とかじゃないの?」
「実はその"川"って、三途の川のことらしいよ。で、めだかが、死んでしまった子供や、水子の霊のこと」
「………。ううう、なんでそんなに怖かったり悲しかったりする歌ばっかりなの…」
「だよなー、僕もいつも思ってた。どんなうまいはなしにも裏があるって言うけどさ、童謡にまでなくてもいいよな」
「…ちょっとそれは違うと思うけど…。じゃあ、裏話があってもいいから、怖くも悲しくもない童謡ってないのかなぁ…」
「あ、あるよ」
「え、ほんとっ? なになに?」
「ん〜…。でもこれ言ったらソフィア怒るかもなぁ」
「えー、どうして? 怖くないし悲しくないんでしょ?だいじょうぶだよ」
「そう? じゃあ教えるけど、あれだよあれ、ひなまつりの歌」
「あ、わかった! 明かりをつけましょ、ぼんぼりに〜♪ って歌でしょ?」
「そうそうそれ。あの歌歌うと思い出すと思うんだけど、雛人形ってあるだろ?」
「うん。そういえば小さい頃はよく飾ってたなぁ」
「あれさ…。えーとつまり、結婚式の様子を表したものなんだって」
「へー! そうなんだ? そういえば確かに、みんなキレイに着飾ってるし、楽しそうだし、思い当たるフシたくさんあるかも」
「だろ?」
「うん、なんだかおめでたい感じがしていいねv …あれ? でも、それでなんで私が怒るかもしれない、なんて思ったの?」
「…。ここから先、話してもいいのかな…」
「えー何よそれ、気になるじゃないそこまで言われちゃったら」
「…。じゃあ話すけど、怒るなよ?」
「? うん」
「…雛祭りって、本来は性教育の為にあったんだってさ」
「…え?」
「本当は寝室とか、鍵付きの部屋が小道具として飾ってあったんだって。…ソレの使用用途は、まぁわかるよね説明しなくても」
「………」
「んでひなまつりの歌もいろいろ解釈があるけどそーいう意味の解釈もあるそうだよ。詳しくは言わないけど」
「…。あのさフェイト、何でそんなこと知ってるの…?」
「え? どっかで聞いた」
「…ふぅ―――ん…?」
「あ、なんだよその疑いの眼差しはっ」
「だってそんなえっちな裏話、普通知らないじゃない! 怖い話とかなら興味本位で調べた、で説明つくけど!」
「べ、別にたまたまだって! それにソフィアが怖い話イヤって言うからちょっと違う話出してあげたんだろ」
「えっちな話より怖い話の方がマシだもん!」
「…ふーん?」
「(ビクッ)な、なによその企み顔」
「そんなに言うなら、とーっておきの童謡の裏話教えてあげるよ。ソフィアがお望みのこわーい話をね」
「う…。い、いいよ? 本物のお化けじゃなくて、ただのお話ならそんなに怖くないもん」
「じゃあ話すね。"とおりゃんせ"って童謡知ってる?」
「うん、わかるよ。とおりゃんせ、とおりゃんせ、こ〜こはど〜この細道じゃ〜♪ って歌でしょ?」
「そう、それそれ。その歌の中に、"この子の七つのお祝いに"ってあるだろ?あれ、七五三のことで、昔は子供が七歳になると、天神様のところにお参りに行く風習があったそうなんだ」
「ふんふん」
「それでね、ある日村で一人の子供が七歳の誕生日を迎えた。誕生日を迎えてすぐの秋の日、その子はお母さんに連れられて天神様の所へお参りに行った。その時、そのお母さんが村にいるお婆さんに、"お参りに行く時、行く時は振り返ってもいい。でも、帰りは何があっても絶対に振り向いてはいけないよ"って言われた」
「へぇ…。あ、だから、"行きはよいよい帰りはこわい"なのかな?」
「そう、その通り。それで、そのお母さん…まだ、若い娘さんだったそうだけど、彼女はその言いつけを忘れないようにって、子供と一緒に歌いながらお参りに行った」





とおりゃんせ とおりゃんせ
ここはどこの細道じゃ
天神様の細道じゃ
ちっと通してくだしゃんせ
御用のないもの通しゃせぬ



彼女と子供は、歌いながら天神様への道を歩いた。
その道はとても長かったから、途中で子供が疲れてきたって駄々をこねて、しょうがないから彼女は子供を背負って道を歩いたんだ。
子供がお参り前に寝てしまわないように、歌を歌いながら。



この子の七つのお祝いに
お札を納めに参ります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらもとおりゃんせ とおりゃんせ



きちんと、行きでは大丈夫、帰りはダメだって忘れないように。
そんな風に歌いながら歩いた。
秋の花が咲いた、色づいた華やかな道を歩きながら、ふと彼女は気になった。
"どうして、振り返ったらいけないのかしら?"
気になってきた彼女は、ふと後ろを見た。
肩越しに見た背後は、まあ当たり前だけど、自分の通ってきた道がちゃんとあって、視界の隅には背中に背負っている子供の顔が見えた。
別に幽霊とかお化けとかもいない。
彼女は安心して、また歩き始めた。
しばらくしてから天神様のところについて、彼女は子供を下ろしてお札を納めて、お参りをした。
無事にお参りが終わって、彼女は子供を連れて岐路に着いた。
長い道のりだったから、彼女はまた子供を背負って歩いた。…彼女も疲れていたんだろうけど、子供が駄々をこねるからしょうがなく、ね。
そうやって歩いていると、彼女は後ろから、自分以外の足音を聞いたんだ。
ひた、ひた、ひた…。って、小さいけれど、気のせいじゃない紛れもない足音を聞いた。
彼女は最初気にしていなかったけど、その足音は止まなかった。
しかも、最初のうちは等間隔で、ゆっくりとした足音だったけど、段々間隔が短くなってきて、近づいてくるんだ…。ひたひたひたひた、って。
彼女は段々怖くなってきて、早足で歩き出した。背負った段階で子供は疲れて眠っちゃってたから、背中はずっしりと重かった。それでも彼女はできるかぎり早足で歩いたけど、やっぱり足音は近づいてくる。
行きと違って辺りは暗くなってるから、余計に彼女の恐怖心は煽られた。
最初に通ったときはあんなに綺麗に見えた道端の花も、暗い中でぼう、と浮き上がる様は異様なほど不気味で、彼女の恐怖心を煽る要素となってしまった。
彼女は風で花が揺れるだけで、びくりと反応するほど怯えていた。
―――彼女は、恐怖と無事お参りが終わった、っていう安心感から、すっかりあの言いつけを忘れちゃってたんだろうね。
どうしても足音の正体が気になって、そっと、後ろを振り向いてしまったんだ…。
振り向いた先には―――



「きゃあああああああっっっ!!!」



「うぁ! …ソフィア、声大きすぎ」
「だ、だ、だ、だって、だって…! こ、こ、怖いんだもんやっぱり怖いんだもんっ!」
「(…可愛い…)まぁまぁ、ここからがいいとこなんだから」
「やだやだやだ! も、もうそれ以上言わないでお願いだから! 怖くて眠れなくなっちゃうよ…!」
「(そういえば小さい頃、怖い話したら一緒に寝るって聞かなかったっけ。上手くいけば一緒に寝てーって言い出してくれるかも)」
「…フェイト?」
「ん、ちょっとね。でもソフィア、ここで最後まで聞かなかったら今度は続きが気になって眠れなくなるかもしれないぞ」
「う…。で、でも、怖いよりマシだと…」
「本当に? ソフィアの場合さ、自分で本当の話よりもっと怖い話想像しちゃって眠れなくなるだろ」
「………んー…」
「ほら、気になるだろ? 聞いとけよ、ここまで聞いたんだから。じゃあ続き話すね」
「えぇっ! い、言わないでよー!」
「まぁまぁ聞けって。―――それで、振り向いた先には―――何もなかった」
「…へ?」
「何も、なかったんだよ。ただ、今歩いてきた道と、暗闇があるだけで。他には何も見えなかった。幽霊もお化けも盗賊も、何も…、ね」
「…、な、なぁんだ…。もぅ、びっくりさせないでよ」
「そう、何も…なかったんだ」
「…?」
「…続き話すね。それで彼女はすっかり安心して、また家へと歩き始めた。もう足音も聞こえなかった」
「つ、続き、あるの…?」
「うん、もうちょっとね。…で、やがて彼女は村に着いて、自分の家へ向かった。彼女も疲れてたし、子供も眠ってしまうほど疲れてたんだから、もう今日は寝ようと思って、子供を背中から下ろした。その時―――気付いたんだ」
「えっ…。な、何…?」
「背中から下ろした子供の、首から上が、無かった…」
「………!!!!」
「彼女は泣き叫んだ。その時はっと気付いたんだ。どうしても気になって振り向いてしまったその時、振り返った後ろには自分が歩いてきた道以外何も視界に写らなかった。行きに振り向いたときには視界の隅に入っていた、背負っている子供の顔も、何も…。そう、その時、振り返った瞬間、言いつけを守らなかった彼女の子供の首は無くなっていたんだ…」
「………っ、…っ!」
「首の無い子供を抱きしめながら泣き叫ぶ彼女の耳に…また、あの足音が聞こえてきた…。彼女は、反射的に振り向いてしまった。その瞬間、彼女の首も―――!」
「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあああ!!! もう嫌、もうイヤーっっっ!」
「(よし、もう一息かな?)あっ! ソフィアの後ろ―――」
「きゃぁぁぁぁぁああぁぁああ!!」





「…ちょっとフェイト? ソフィアが泣きついてきたんだけど、何したのよ」
「…あー。ちょっと怖がらせてみようと思って調子に乗って怖い話ばかりしてたら、ね…」
「まったく…。あの娘が可愛いのはわかるし認めるけれど、からかうのも程ほどにしなさいよ」
「まぁね…。それもこれもささやかな計画を果たすため…!」
「何よ、それ。それにしても、あの娘が怖い話苦手なの、知ってるんでしょ? もう、悪趣味なんだから」
「あ、てことはさ、ソフィア相当怖がってた?」
「怖がってたわよ。涙目になって小動物みたいに震えながら、"マリアさん!今日一緒に寝てください!"って言ってきたくらいよ」
「…えっ?」
「"一人じゃ怖すぎて眠れないんです!"って。まったく、どんな怖がらせ方したのかは知らないけど…」
「………」
「何よ、魂抜けたみたいな顔して」
「…姐さん、僕はもうダメです」
「はぁ?」