「…あのさ、変なこと訊いてもいいかい?」 「えっ? なんですかネルさん、そんなに改まって…」 「いや、大したことじゃないんだけどさ…」 「…ソフィアはさ、フェイトのどんなところが好きなんだい?」 「へ?」 恋スルカタチ 「や、答えづらかったら、いいんだけど…」 「あ、いえいえそんなことないですよ。んーと、腹黒王子様なところかな」 「………」 「あははは、ごめんなさい冗談です。えっと、根は真面目なとことか、皆を思いやってるところとか、頑張りやなところとか、色々ありますけど…やっぱり、優しいところ、ですかね」 「あぁ、なるほどね」 「…女の子に優しいのはちょっと妬けますけど」 「あはは、そうだね、ソフィアは複雑な気分になるかもね」 「でも、ほかの人に見せない優しさを二人きりのときに私だけに見せてくれたりとか…そういうところも、好きかなぁ」 「…他の人には見せないところを見せてくれる、か…」 「?」 「あ、ごめん。なんでもないんだ。答えてくれてありがとう」 「あ、いいですよ」 「ねぇフェイト、フェイトは私のどこが好き?」 「は? また急な質問だなソフィア」 「んー、なんかね、さっきネルさんに似たようなこと訊かれて」 「ふーん…? まぁいいけど、えーとなんだっけ、僕がソフィアのどこを好きか?」 「うん」 「そうだな…、全部?」 「…。あの、その答えはとっても嬉しいんだけどさ。なんていうかこう…具体的にどこがどういう風に好きとか言ってもらえるともっと嬉しいんだけどな」 「具体的? …えー、難しいなそれ」 「どうして?」 「や、だって具体的も何もソフィアは全部ソフィアだし。ソフィアなら怒ってても泣いててもどんなことしてても大好きだから」 「…。フェイトってほんと、恥ずかしいこと普通に言うよね…」 「ソフィア、耳まで、っていうか首まで真っ赤」 「…い、言わないでよもう!」 「なぁマリア、君もし好きな人のどこが好き、って訊かれたら具体的に答えられる?」 「…は? 何よ急に」 「いやちょっとね。参考までに君の意見を聞かせてもらおうと」 「なんの参考かは知らないけど…。それは、答えるでしょ。その誰かを好きになる理由があったから好きになるんでしょうし」 「そっかー…。僕さっき答えられなかったんだよね、ソフィアにそう訊かれて」 「あら、別にいいじゃないの。具体的に言う必要がないくらいソフィアの何もかもが好きなんでしょ?」 「………。なんか、改めて言われると照れくさいもんだね」 「君だけには言われたくないわよ、それ。それに、さっき私もああは言ったけど、別に恋するのに具体的な理由なんかなくたっていいじゃない。…あなた達見てると、そんな風に思えるけど?」 「理由、ね…そうか、そうだよな」 「答えになったかしら?」 「うん。ありがとマリア」 「どういたしまして」 「ミラージュ、あなたはクリフのどこが好きなの?」 「あら、マリアにしては珍しい…と言うより、懐かしい質問ですね」 「あぁ、そういえば昔はよく質問してたわよね。いつどこでどんな風に出会ったかとか、どういう風に好きになったとか」 「ふふ、そうでしたね。今日の質問は、クリフのどこが好きか、ですか」 「ええ。これはまだ、訊いていなかった気がするしね」 「…そうですね。クリフはいつも無駄に元気でお酒を飲むと止まらなくて子供相手にも本気になる大人気ない大人の見本で」 「…あの、ミラージュ。別に彼の嫌なところは訊いてないけど」 「…だからこそ、放っておけないんです」 「………」 「それに、あの人は普段余裕ぶって振舞っていますが、…脆いところは本当に脆い人ですから」 「……ミラージュ…」 「傍に、いたくなるんです。ついていきたい。支えてあげたい…。そう、思える人なんですよ」 「………。クリフは幸せ者ね」 「何か言いましたか?」 「…いいえ、何も?」 「クリフ。唐突ですが、貴方は私のどこを好いて下さっているんですか?」 「…はぁ!? なんだそりゃ、長い付き合いだがお前の口からんな質問が出たの初めてじゃねぇか?」 「答えたくないのでしたら結構ですが」 「いや、んなこと言ってねぇだろ。んー、お前の好きなトコ?」 「…はい」 「そうだな、安心して背中を任せられるっつか、そんな感じか?」 「訊かれても困りますが」 「はは、そうだな。それに…、いつも傍にいて、俺のこと支えてくれるだろ? そーいうとこだな」 「………」 「感謝してるぜ。こんな無鉄砲な俺についてきてくれてんだからな」 「あら、無鉄砲という自覚はおありなんですね」 「…まぁ、そりゃ、な。いつも突っ走ってる自覚はあるし」 「ふふ、そうですね。でも、その方が追いかけ甲斐があります」 「………。あぁ、そうか。お前のそういうとこが好きなんだわ、俺」 「え?」 「そうやって、俺についてくるの当たり前、な風にサラッと言ってくれるとこ」 「…そうですか。では、私もクリフに好かれ続けたいですから」 「ん?」 「これからも変わらず、暖かい事もキツい事もさらりと言い続けて差し上げます」 「…ははは、そりゃいい。んじゃ、これからも頼むわ」 「はい」 「なぁアルベル。お前ネルのどんなとこが好きなんだ?」 「あ? なんでお前にんなこと言わなきゃならねぇんだ」 「ちょっと気になってよ。いいじゃねぇか別に言って損するもんでもなし」 「思い切り俺は損する気がするんだが」 「まぁまぁまぁ」 「………。どこが好きか…」 「おう。この際べらっと言っちまえよ」 「…わからん」 「…は?」 「思いつかない」 「………。おいおい、それ恋人としてどうなんだよ」 「さぁな」 「さぁなってあのな。お前本当にネルに惚れてんのか?」 「どうだろうな」 「オイオイオイオイオイオイ」 「惚れてるのかどうかなんざ知らねぇよ。ただ…」 「ん?」 「…目の届く範囲にいないと落ち着かねぇし、傍にいないと何してるのか気になるし、他の野郎と話してるだけで気分悪ぃし」 「………」 「それでいて傍にいると落ち着くし、なんつぅかほっとするし、最初は自己を省みないどうしようもねぇ阿呆だと思ってたっつぅのに今じゃどうしても放っておけねぇし」 「………」 「これが惚れてるっつぅことだと思ってたんだが、違うのか?」 「…天然…?」 「あ?」 「お前な。今お前の言った台詞の一言一言が"俺はネルの事好きだ"って叫んでるってわかってねぇのか?」 「はぁ?」 「…や、なんでもねぇよ。よーするにだ、お前はネルに惚れてるし微妙に自覚ねぇけどマジで好きなんだろ、結局そんだけなんだろハイハイ」 「………」 「なぁお前、俺のどこが好きなんだ?」 「は!?」 「…何だよ、確かに珍しいこと訊いたがそこまで驚くことねぇだろ」 「え、あの、いや、だって…あんたに訊かれるなんて思ってなくて…」 「…。そのうろたえ様は…何かあったな」 「え、べ、別に」 「お前がそういう返答するときは何かあった証拠だ」 「………」 「言わねぇんなら文字通り口割らすぞ」 「わかった言うよ」 「…んなに嫌かよ…」 「…えーと、…。自分でもちょっと疑問に思ってた事とまったく同じ事をあんたが訊いてきたから、驚いたんだよ」 「は?」 「だから、…私も、自分があんたのどこが好きなのかなって、ちょうど考えてたとこだったから…」 「………。なんだ、珍しいなお前がんな事考えるなんざ」 「ん…。ちょっと、ね」 「あ?」 「ふと、気になったんだよね。最初はあんなに毛嫌いしてたあんたのこと、どうしてこんなに好きなのかって」 「ほぉ? それで、答えは出たのか?」 「…ううん」 「あ?」 「思いつかなかったんだ。何も。あんたのどこが好きなのか」 「…何気に俺と同じようなこと言ってんなお前」 「ん?」 「や、別に」 「?」 「何でもねぇよ」 「そう? …で、色々考えても、どうにもわからないんだよね。だって大人になってからの第一印象は最悪だったし、性格も正反対だし、好みも合わないし、共通の話題って言ったら戦うことくらいだし」 「………」 「考えれば考えるほど、あんたを嫌いになるような理由ばかり思いついちゃって」 「………」 「…拗ねるんじゃないよ」 「うるせぇ」 「最後まで聞きなって。…でね、どう考えても好きになる理由とか、思いつかないのに…」 「…何だよ」 「それでも傍にいたいとかずっと一緒にいたいって思えるんだから、」 「………」 「やっぱり私あんたの事好きなんだなって」 「…答えは、それかな」 「………」 「…アルベル?ちょっと、苦しいよ」 恋心のかたちは、人それぞれ。 好きのかたちも、人それぞれ。 だけどきっと、どれも正解。 どれも正解で、どれも本物。 |