彼女は怒っていた。 顔は笑っているのに目は笑っていない。むしろ据わっている。 口調はいつも通りだったがどこか素っ気無く、怒りをできるだけ出さないように気を遣って喋っているのがわかる。 「あの、ネルさん」 「なんだい?」 怖いくらいの完璧な笑顔でそう返され、声をかけたフェイトは二の句が次げなくなる。 いやあの。むちゃくちゃコワイんですけど。 そんなことを考えながら何も言えずに固まっているフェイトを見て、周りの仲間達は、 「あぁ、フェイトでもダメだったか…」 とやや諦めたような顔つきでため息をついている。 「えっと、…いえ。なんでもないです」 早口にそう答えて、フェイトはその場からすぐに逃げた。 「…怖かった…っ!」 「うん、声かけられただけでも勇気あるよフェイト…」 「まったくだわ。…それにしても、何をあそこまで怒っているのかしら」 「っつーか、原因はアレしかねぇだろ」 全員の視線が一箇所に向けられる。 話題に上がっている彼女の視線の先にいたのは、いつにも増して無口で仏頂面の、金色と黒の混じったプリン頭。 彼女の視線に気づくと、ふいと目を逸らして立ち上がり、すたすたとどこかへ歩き去っていった。 目の据わっている例の彼女は彼の背中を睨み付けながら、昔地球のとある国にあった般若の面の如く険しい顔をしている。 何故か。 今日、プリン髪の彼は、赤毛の彼女を避け続けていた。 その所為かどうかは、定かではないが。 いつもはどれだけ頭に来る出来事があろうとも怒りを表に出さない赤毛の彼女は、今猛烈に怒っていた。 すなおになろう。 「あぁもう何があったか知らないけどさ、早くネルさん元通りになってくれないと僕らビクつき過ぎて死んじゃうよ」 「うんうん、原因はわかってるんだし、何かしないと」 「何があったか、って、喧嘩したんじゃないの?いつもの如く」 「妙じゃねぇか?いつもならすぐに仲直りしてんのによ」 クリフのその意見に、話し合っていた三人はうんうんと頷く。 「あーわかった、多分また調味料云々で喧嘩したんだよ。前もそうだったし」 「んー、でも、今日の朝ごはんの時何も言ってなかったし、昼ごはんの時だって普通だったよ」 私食事当番だったから、ずっと見てたけど。とソフィアが付け足す。 「大体、今回は不自然さの度合いが違うだろ。ネルは憤怒の如く怒りまくって、アルベルはそんなネルを避けまくってんだぜ?」 「じゃあ他に何かあったのかしら。クリフ、あなた昨日アルベルと同部屋だったでしょ。何か知らない?」 「…。知ってるって言やぁ知ってるが」 「「何々!?」」 「ちょっと、そういうことは先に言いなさいよ!」 「…。あぁ。でもこれが原因で仲違いしたようには見えねぇんだがなぁ…」 あまり解決にはならないかもしれない、と前置きして、クリフはとある出来事を話し始めた。 今日の朝の事。 超絶低血圧を誇る例の彼は、やっぱり今日も熟睡していた。 自他共に認める寝起きの悪さの彼を、クリフは早々に起こすのを諦めた。 いつも通り、彼の目覚まし時計役の彼女を呼びに行く。 数分後、クリフに呼ばれて部屋に来た彼女は、寝ている彼を見て少し眉をしかめた。 「んぁ?どうかしたか?」 それに気づいてクリフが声をかけると、彼女は曖昧に笑ってなんでもないよと答える。 その後おもむろに彼が寝ているベッドに近づく。 …こないだは胸倉を容赦なくひっつかんでそのまま空いた手で往復ビンタだったっけなぁ、と思い返しながら、クリフは寝ている彼を同情の目で見ている。 彼女はベッドのすぐ脇に立ち、寝ている彼をしばらく見下ろしていた。 「…?」 クリフは思わず訝る。 いつもならここで起きなだの今何時だと思ってるんだいだの朝食食べ損ねるよだのの大声が出てくるはずの彼女の様子が、いつもと違う。 妙に険しい表情で、口元に指をあてて何かを考え込んでいる。 「…どした」 声をかけると、はっとした様子で慌てて彼女は答えた。 「あ、いや、大したことじゃないんだ。ただ、昨日から何だか体調悪そうだったからさ」 部屋での様子はどうだった?そう問いかけてくる彼女に、クリフは寝起きの頭をフル回転させて同部屋の彼について思い出す。 「…いや、俺の知る限りは普通だったが」 普段あまり他人を観察するような性格ではない自分の記憶はそうアテにはならないと思ったが、とりあえずそう答える。 「そっか…。まぁ、なんとかは風邪ひかないの法則の元腹やら足やら出してる馬鹿のことだから、大丈夫とは思うんだけどね」 …最初は"なんとか"って言葉を濁してるのに、結局馬鹿って言うんすか。 そう突っ込みたかったが、クリフはやめておいた。 「でも一応念のために、熱だけ測らせておいてくれないかい?」 救急箱の中に体温計があったと思うから、と付け足す彼女に。 「あぁ、心配すんな」 そう告げると、彼女は安心したように微笑む。 「じゃあ、頼んだよ。それと、私がこう言った事あいつには言わないでおいてくれるかい?」 「? …構わねぇが」 「悪いね」 そう言って、さてそろそろ起こすかと彼に向き直る彼女に、クリフは笑いながら声をかけた。 「心配なら心配って言やぁいいのに。素直じゃねぇなぁ」 「…。別に心配なんかじゃないよ。ただ、体調崩されると皆に迷惑がかかるからね」 背を向けたままそう言う彼女に、クリフははいはい、と軽く返事をする。 その後、頬を思いっきり外側に引っ張られ、挙句の果てに胸倉を両手で捕まれがぐんがぐんと思い切り揺さぶられた後、彼はようやく覚醒した。 「ったく、素直じゃねぇなぁあいつも」 じゃあ後はよろしく、と言って彼女が部屋を出て行った後、クリフは目が半分閉じている彼を見やった。 言われた通り、体温計を持ってきて熱を計るために彼に差し出す。 ベッドの上であぐらをかいて座ったままの彼に、半分しか開いていない目でじろりと睨まれた。 「…なんだよ」 「あぁ、いやな、お前なんだか体調悪そうだったからよ。念のため熱計れほれ体温計」 「余計な世話だ」 「まぁまぁまぁまぁ」 なだめるようにそう言って強引に渡す。まるで聞き分けのない弟か何かみてぇだな、とクリフは苦笑する。 彼は渋々と言った風に熱を計りだす。 少し経って、時計の長針が次の数字まで移動して、彼は体温計を見た。 「どら?」 普段と同じ表情で表示された数値を見ている彼からひょいと体温計を奪う。 見ると、水銀が示している温度は普通に平熱。 「何だ、平気だな」 「だから余計な世話って言っただろうが」 「ま、気にすんな。んじゃお前も早く支度しろよ。朝食食い損ねるぜ」 彼女の杞憂だったことに少し安堵して、クリフは部屋を出て朝食を食べに行った。 「…っつうことがあったんだけどよ」 「ふぅん…ってことは、朝は普通だったって事だよね」 「俺の見る限りではな」 「そうよね。お互い怒っても避けてもないんだもの」 「…という事はですよ、その後何かあったってことですよね」 「でもねぇ…その後も別に普通だったわよ?私ネルと同部屋だったけど、特に何もなかったし」 あそこまで怒るようなことは何もなかったと思うけど、と続けるマリアに、ソフィアがうむむむむと唸る。 「じゃあ、ここは手っ取り早くスマートに、実際にアルベルに訊いてみよう!」 「ネルさんには訊かないの?」 「…ソフィア。お前は訊けるのかあの、あ の !状態のネルさんに」 「訊けませんごめんなさい」 「だろ?じゃあアルベルに訊きに行こうかー」 どこか楽しげに言うフェイトに、結局は楽しんでるだけじゃねぇか、とクリフは苦笑した。 彼は日のあたる窓辺に寄りかかって座り、ぼぉっとしていた。 目は眠そうにとろんとしていて、手足もだるそうにだらんと伸ばされている。 その様子はまるで、日向ぼっこしながらぐうたらしている猫のようで。 彼に似合っているような似合っていないような様子だったので、目撃したフェイトは思わず吹き出した。 「こら。喧嘩の理由を訊きに行くんでしょ。笑ったりしたらアルベルさんに失礼だよ」 ソフィアに言われて、フェイトは口元を押さえて笑いをこらえつつ、はいはいと生返事をする。 今まさにアルベルに声をかけようとした、その時。 「…!!」 フェイトは声を詰まらせた。 どうしたの、と声をかけようとしたソフィアも、同じく動きを止める。 「何?」 「何かあったか?」 後ろにいる二人がそう聞いて、前にいる二人は答えない。 二人の視線の先には、だるそうに窓枠に腰掛けている彼に近づく、赤毛の彼女。 後ろの二人もぎくりと固まった。 彼女は相変わらず怒った様子で、彼を睨みつけている。 彼も彼女に気づいて、めんどくさそうに視線を上げた。 途端、その場に険悪な空気が漂う。 「う、うわわわ何かやばそうだよ!」 「ど、どどどどうしよう!?」 思わず近くにあった太い柱に隠れながら、フェイトとソフィアが慌てる。 「とりあえず様子を見ましょう。流血沙汰になったら止めればいいわ」 「…いや、その前に止めに入らなきゃやばいだろ」 つられて柱に隠れつつ、後ろの二人はこっそりとあるいははらはらと様子を見ていた。 そんな四人に気づいているのかいないのか、彼は窓枠からゆっくりと立ち上がり、どこかへ行こうとした。 が。 「待ちな」 がしりと尻尾のような後ろ髪を掴まれる。 彼女の声は誰が聞いても不機嫌だとわかるような、低い声だった。 「離せ」 緩慢な動作でゆっくりと彼が振り向く。 「嫌だよ。離したらまたあんた逃げるだろう」 彼の発言をさらりと無視して、彼女が口を開いた。紫の双眸は依然として彼を睨みつけたままだ。 「嫌だよ。離したらまたあんた逃げるだろう」 「…は?誰が誰から逃げるって?」 「とぼけるんじゃないよ」 ぴしゃりと彼女が言い放つ。 「今日一日ずっと、私を避けまくってたのは何処の誰だい」 「…別に避けてなんかねぇよ」 いつも通りの、いやいつも以上に眠そうな目で、今度は彼が口を開いた。 「お前こそなんなんだ。今日一日ずっと俺を睨んだり苛ついたようにため息ついたり」 「…」 「えー?なになに、喧嘩してたんじゃなかったの」 「なんかお互いによくわかってないような口ぶりじゃない?」 「いや、とぼけてるだけなんじゃねぇのか」 「それにしたって、何だかいつもの喧嘩とは違うみたい―――」 マリアが台詞を言い終わるか終わらないかのところで。 「…あ」 赤毛の彼女が、目の前で気だるそうに窓枠に座っている彼の胸倉をひっつかみ。 そのまま勢いよく引き寄せた。 二人の顔が、近づいて、 「わ」 「きゃ」 「は」 「え」 見ていた四人がそれぞれに違う声を漏らす中。 ―――こつん。 二人の額が、小さく音を立てて引っ付いた。 「…やっぱりね」 数秒後、顔が離れてすぐに、彼女がそう言い放った。 「あんた、熱があるだろう」 「…人間誰しも熱はあるもんだろ」 「馬鹿かあんたは!」 屁理屈を一蹴されて、彼が顔を逸らす。 その動作は肯定の意を示していて。 ネルが整った眉をしかめる。 「あんたが体調崩して一番困るのはフェイト達だろう!」 「…うるせぇよ」 「…ったく…ほら、部屋戻ってとっとと寝な!」 「…え?」 「どういうことですか?さっき、クリフさんが平熱だった、って…」 不思議そうに二人が顔を見合わせる。 「…っかしーな、確かに平熱だったんだが」 「何度位くらいだったの?」 「三十六度四分…」 「って、それむしろ低いくらいじゃないの」 「俺もそう思って、平熱だって言ったんだが」 「そこに隠れてる約四人。とっくに気づいてるから出て来い阿呆」 びくり。 窓枠の彼に、振り向きもせずに言われて。 こそこそ話し合っていた四人は肩を跳ね上げて固まる。 「…バレてたのか」 あっさり降参してフェイトが柱から出てきた。 「気配も消さずに何言ってる」 「だってただの覗き見じゃん。そんなのめんどくさい」 「………」 笑いながら言ってくるフェイトに、文句を言う気も失せたのか彼は軽く首を振る。 「ちょうどいい。クリフ、この馬鹿部屋まで持って行ってくれないかい」 親指で彼を指す彼女に、クリフが苦笑する。 「…自分で戻る」 「なら最初からそうしなこの馬鹿」 「あーうるせぇうるせぇ」 そんな言い合いをしながら、でも雰囲気はさっきよりいくらか柔らかくなっている二人を見ながら、残された四人は顔を見合わせる。 「結局どういうことだったわけ?」 「何でネルさん怒ってたの?」 「何でアルベルはネルを避けてたんだ?」 「何でアルベルは平熱だったっていうのにネルは熱があるって言ってるのよ?」 何故か質問が一周して自分に向けられて、フェイトは困惑した表情で肩をすくめて見せた。 「…さぁ」 彼の背中を押しながら、彼女はやっぱりまだ怒っていた。 「…何だ」 その雰囲気を感じ取った彼が、首だけ振り向いて問うた。 「…別に」 短く素っ気無く返して、彼女は歩き続ける。 彼もそれ以上は訊かず、部屋まで沈黙が続いた。 彼の部屋に着いて、二人が中に入る。 無言で彼女が彼の背中を乱暴に押して、ベッドに向かわせた。 「…はぁ」 ため息をついて、彼が渋々ベッドに座る。 「ったく。子供じゃないんだから体調管理くらい自分でやりな」 「…あーはいはい」 どうでもよさそうな返事を返す彼にいらっとしながら、彼女は剣呑な目つきのまま口を開く。 「…クリフから聞いたけど、あんた、"平熱"だったんだって?」 「…そうだな」 「あんたの平熱は一体何度?」 「さぁ」 彼の相変わらずな物言いに、彼女がふーっと長く息を吐く。 「平熱低いって自覚はある癖に、なんで言わないのさ。クリフや他の皆にとっての平熱はあんたにとっての高熱だろう」 「………」 「何度も言うようだけどね、あんたも一応は戦力なんだ、体調崩されたら困るんだよ。今日はたまたま戦闘はない日だったけど、明日に響くようなことがあったら困るじゃないか」 「あーわかったよ。わかったからとっとと出てけ」 「…何だって?」 ただでさえ険悪だった彼女の表情が、さらに険しくなった。 「お前が怒鳴ると耳に響くんだよ。だからそろそろ出てけ」 「…あんたね、いい加減に…」 ばたん。 「ストーップ」 「はい、お二人ともそこまで!」 急に扉の開く音が聞こえて、続いてフェイトとソフィアの明るい声が響く。 部屋の中にいた二人は呆気にとられてぽかんとする。 そんな二人を見ながら、フェイトが先に口を開いた。 「だからアルベル。風邪うつしたくないからあまり近寄らないほうがいいって素直に言いなよ」 「…なっ」 目を軽く見開き、彼が絶句する。 そんな彼ににっこりとフェイトが微笑む。 「今日ずっとネルさんを避けてたのも、それが原因だろ?ま、風邪だって気づかれて心配かけたくないってのもあったんだろうけど」 「………」 彼女が意外そうに彼を見やる。 彼はうっと詰まって視線を逸らした。 「ネルさんも素直に、心配だからゆっくりと休んでちゃんと元気になって、って言えばいいんですよ〜」 「…ちょ、ソフィア?何言い出すんだい」 続いてソフィアがそう言って、今度は彼女が詰まる。 「本当の事ですよね?だってクリフさんに熱計ってあげてって言ったのもネルさんじゃないですかぁ。心配だったんでしょ?」 「……〜っ」 追い討ちをかけるように言われ、彼女の顔が赤くなる。 ほんのり気まずい空気が流れた。 「もー、二人とも意地っ張りなんだから」 「見てるこっちがもどかしいですよー」 フェイトとソフィアが顔を見合わせて、 「なー」「ねー」 と声を合わせて言う。 当の二人はバツの悪そうに視線を逸らしあったまま。 「それじゃこの辺で失礼しますね」 ぺこり、と頭を軽く下げてソフィアがドアを開ける。 「じゃあね。あ、アルベル、あんまり素直じゃないと、ネルさんに嫌われちゃうよ〜」 「うるせぇ阿呆!」 彼の怒鳴り声を自然に無視して、二人はにこにこ笑いながら何事もなかったかのように去って行った。 「………」 「………」 二人が部屋に残されて、また気まずい空気が流れる。 「…悪かったよ」 先にぽつりと口を開いたのは彼だった。 「………!?」 彼女が驚いたように彼を見る。 「あんたが素直に謝るなんて…相当酷い風邪みたいだね」 「…おい」 「冗談だよ」 くすくすと笑って彼女が答える。 「"あんまり素直じゃない"と、嫌われるみたいだからな」 彼がくく、と喉で笑う。 「…誰に」 「お前」 「…」 彼女がまた、軽く目を見開く。 「やっぱりあんたいつにも増して変だよ。熱が上がったんじゃないかい」 「確かめてみるか?」 にやり、と意地悪く笑って言われ。 彼女は少し考え、すっと彼の顔に自分の顔を近づけた。 こつん、と音がして軽く額がくっつく。 同時に、にやりと笑んだ彼の目が閉じられる。すぐに彼女の首の後ろに手がまわされて。 彼女がえ、と思う間もなく口付けられる。 それはもう、あっという間の出来事だった。 「…馬鹿」 彼女は今日、何度も言い放った台詞をもう一度つぶやく。 「ひっかかるお前もな」 「はいはい」 頬が赤い彼女を面白そうに見ながら、彼がつぶやく。 「…これ以上素直に自分の思うまま行動したら、さすがに風邪うつしそうだからな。やめとく」 「…。…別に私は、素直に行動してくれて構わないけど?」 すっかり機嫌の直った彼女がそう答えた。 「………それは、"素直になった"お前の本音か?」 「…ま、ね。だって素直じゃないと嫌われるんだろ?」 だからちょっとだけ素直になってみただけだよ、と呟き微笑む彼女に。 「…風邪うつっても知らねぇぞ」 「ふふ」 そんな会話が為されて、そのあと急に静かになった。 「あーすっきりした!」 「本当本当。あのお二人本当に見ててもどかしいんだもん」 「それにしてもあなた達勇気あるわね。あの二人に割って入って好き放題言ってくるなんて」 「何でわざわざあんなこと言いに行ったんだ?」 「えー、だってあーゆー二人って、背中押してあげないと進展しなさそうだから」 「だよねー、背中を軽く押して後押ししてあげたくなるよね」 「そうそう、例えるなら崖の前で自殺迷ってる奴に行くなら早く行けやゴルァ!って背中蹴り飛ばしたくなる感覚?」 「うんうん、そんな感じ。的確な表現だね」 「………」 「………自殺幇助は立派な罪よ」 次の日。 彼の風邪はものの見事に全快した。 が。 何故か代わりに彼女が熱を出して寝込んでいた。 どこかバツの悪そうな顔の彼に、某腹黒少年は爽やかな笑顔で肩を叩いてこう言った。 「…やっぱり、アルベル達にとっては素直になれなくてとことん意地を張り合ってるもどかしい関係のままのほうがよかったかもネ!」 素直になりすぎたアルベルなんて怖いだけだもんね!アハハ! 「黙れこの阿呆が!」 |