事の始まりは、マリアの珍しい提案からだった。 「…ねぇフェイト、今日は一日ジェミティに滞在することにしない?」 パーティの参謀的役割の青髪の彼女が真面目な顔をして提案した言葉に、青髪のリーダーはぱちりと目を見張った。 「はい?」 今のは誰よりも時間の無駄や浪費を嫌う彼女が言った台詞であろうか。 怪訝そうな気配を声にも表情にも滲ませながら短く訊き返すと、彼女―――マリアは肩を竦めて見せる。 「そんなに不思議そうな顔しなくてもいいのに」 「いや、だって珍しいし」 「まぁそれもそうなんだけどね」 フェイトの反応は予想範囲内だったようで、さほど怒った様子もなくマリアがそう言ってまた肩を竦め。 次の瞬間には、その薄紅色の唇の端を上げて企み顔で綺麗に笑う。 「いい話があるのよ」 数分後、目の前の双子の姉と寸分違わぬ表情でフェイトはにやりと微笑んだ。 Battle Royal Carnival!! 「ねーみんなちょっと聞いて、なんか今日闘技場主催のイベントがあるらしいんだ! 二人一組の男女ペアで出場できるイベントで、優勝したペアにはジェミティのアトラクション料金や買い物の代金がこれからすべて半額になるパスが貰えるんだって!」 「悪くない話でしょ? ここジェミティには買い物は勿論、賞品やレベルアップ目的でアトラクションに参加する機会も多いもの。これで資金稼ぎに星のホムンクルス大量生産する必要もなくなるし、向こう見ずにつっこんでいく誰かさん達の為に度々補給に来なきゃいけないアイテム購入も気兼ねなくできるようになるわ」 「そうそう! 正直、毎回毎回精神活性剤や蘇生薬を二十個ずつまとめ買いするのって結構パーティの財布にとって痛手なんだよねー。せっかく稼いだお金もほとんどそれに消えちゃうし、効率悪いったらありゃしない」 「それにバトルで得た経験値はきちんともらえるから、時間の浪費ってわけでもないわ。私達は既にランキングバトル一位を独占しているんだもの、優勝は頂いたも同然よ」 「まぁ、一日闘技場でレベルアップ、の日とそう変わらないだろう?」 「もちろん、異論なんてないわよね?」 ―――目の前の その後の展開は速かった。 受付が終了しちゃうわ、とマリアが手早くペアを決めて速攻で登録に行き、その間にフェイトがルール説明をし始める。 「さっきも言った通り、参加条件は男女一人ずつの二人一組。近距離・遠距離攻撃のバランスを考えて、 ペアは僕とソフィア、マリアとクリフ、ネルさんとアルベルね。え? 個人的な思惑を感じる? やだなぁそんなことないよ。で、参加者全員に受けたダメージを無効化してくれるけど累積ダメージが一定量を越すと壊れちゃうアクセサリが渡されて、これが壊れるか、もしくは闘技場の決められた範囲内から出ちゃったらそのぺアは失格。最後に残ったペアが優勝。簡単だろ?」 「あ、ねぇフェイト、ペアのどちらか片方が失格になっちゃった場合は?」 「もちろん、二人とも失格だよ。だから相手の事も考えながら戦闘する必要があるんだって」 「へぇ…。私、足手まといにならないように頑張るね!」 「うん、僕も頑張るよ。絶対優勝しような」 「うんっ!」 やる気満々の地球出身ペアが意気込む中、反対にそれほど熱くなっていないのはエリクール出身ペアの二人。 「まさかあんたと二人で共同戦線を張る事になるなんてねぇ。思ってもみなかったよ」 「それはこっちの台詞だ。足手まといにはなるなよ」 「それこそこっちの台詞だよ。あんたこそ足ひっぱるんじゃないよ」 会話だけ聞けば剣呑な二人のやりとりを見て、マリアが戻って来ていない為話し相手がおらず一人ぼんやりと周りの会話に耳を傾けていたクリフが苦笑した。 「…戦闘で連携組ませたら、お前ら本当に今まで敵同士だったのかよって突っ込みたくなるほど息ピッタリなヤツらの会話がコレだもんなぁ」 無意識熟年夫婦め、とからかうように呟いていたクリフは、クリフだってミラージュさんと並べば無意識熟年夫婦だよねと密かに会話していたフェイトとソフィアには気づかなかった。 「―――皆さん準備はよろしいでしょうか? それでは、試合開始です!」 それから間もなくして、ジェミティ闘技場特設会場に大会開始を告げるディルナの声が響き渡った。 特設会場と呼ばれているだけあって、普段の闘技場とは比べ物にならないくらいに広く障害物や地形の変化も大きく造られている会場で、集まった選手達が一斉に動き始める。 登録された番号とは関係なくランダムに開始場所が決められているようで、三つのペアが配置された場所は互いに遠く離れていた。 荒野エリアに配置されたフェイトとソフィアは、視界を遮る障害物のほとんどない場所で良かったー、と喜び合いながら、周りにいるザコ共の排除にかかっていた。 「ラッキーだったよなー。さっき案内見たら、森林とか街中をモチーフに造られたエリアもあったみたいだし」 「うんうん。もしそんなとこに配置されてネルさんみたいな隠密さんが敵の中にいたら、絶対に不利だったよね」 「そういった戦術にしたら確実に相手有利だもんな。でも、せっかく僕らに有利な場所で戦えるんだから、絶対に勝ち残らなきゃね」 「うんっ、そうだね! よーし、頑張るぞー!」 二人は楽しそうにそんな会話をしながら。 「よし、じゃあまずは周りのザコ共を一掃しようか。僕が援護するから、ソフィアは周りを気にせずに大技の詠唱に専念して」 「わかった!」 広範囲高威力の大技を出し惜しみなく使用して、周りのザコを一気に戦闘不能にさせていた。 対して、山岳エリアに配置されたクリフ・マリアチームは、 「トライデントアーツ!」 「よし、バーストタックル!」 場外負け判定ライン(今回は崖)を探し出し、おびき寄せた敵を連携で片っ端から場外負けにさせる戦法を取っていた。 「まったく、なんだってこんなに戦いにくい場所に配置されたのかしら。ランダムに配置されたんでしょうけど、運が悪いわね」 「まぁ、そのお陰でこういう戦法でラクできるんだし、愚痴ってもしょうがねぇよ」 「そうね…。不利な状況を有利に変えてこそ、強くなったと言えるわよね。じゃあ次はあの辺にいる一団をおびきよせてマグネティックフィールドで足止めするから、後はよろしくね」 「よっしゃ、任せとけ!」 敵を足止めする技を持つマリアと敵をふっ飛ばす技の多いクリフが組んだ事を考えると、場外負けルールが存在したのは他の参加者達にとっては不運だったのかもしれない。 そして解凍マグロ団最後の一ペアはというと。 「あぁ、もう! 邪魔な落石だね!」 「うるせぇ、俺に言うんじゃねぇ!」 不運にも山洞エリアに配置され、敵以前に無数に転がってくる落石を相手にしていた。 「しかも、この落石に当たってもダメージ判定なんだね…。いつもなら無視できるのに」 「ったく、悪趣味な場所だ」 「バール山脈の洞窟と地形が似てるのは正直助かったけどね。落石の動きも読みやすいし。鬱陶しいのは変わらないけど」 「いつまでも愚痴ってんじゃねぇよ。どこで戦おうと実力を出せなきゃ、本物の実力とは言えねぇだろうが」 「…わかってるよ」 落石をかわしながら時には連携し時には個別に、二人は襲い掛かってくる相手を戦闘不能にしていく。 バール山脈に似ているどころか実はまったく同じデータが使われているエリアに配置され、なおかつ落石の動きもある程度知っている二人が他の雑魚どもにひけを取るはずもなく。 また落石の鬱陶しさからか二人とも多少なりとも苛立っていたため、一撃一撃に力が篭もっていたのか周りの雑魚達はあっという間に減っていった。 それから小一時間も経たないうちに、選手達の数は圧倒的に減っていた。 「現在の状況をお伝えします。生き残っているペアはもはや四つ、しかもうち三つは今やランキングバトルで一位を独走中の解凍マグロ団のメンバー達です!」 いいタイミングで入ったディルナの実況に、皆はそれぞれに反応を返す。 「お、やっぱりみんなまだ勝ち残ってるね」 「そうだね。でも、残りの一つってどこだろう?」 のんびりとそう疑問を口にしたソフィアに、答えたのはペアであるフェイトではなかった。 「さぁ、それはわからないわね」 「あ! マリアさん!」 「よっ、お前らも予想通り順当に勝ちあがってたな」 「それにクリフも。どうやら、今のところここ一体のエリアで勝ち残ってるのは僕達だけみたいだね」 にやりと笑い、フェイトが移動してきたらしいマリアとクリフを見た。 「ええ、そうね。アルベルとネルのペアは、もう一つの誰かさん達と戦ってるんじゃないかしら」 「そう…。僕とソフィアの予定では、雑魚を全部片してから皆との決着を着けようと思ってたんだけど、そういうわけにもいかないみたいだね」 「そうだね。できれば私達以外のもう一つを、皆でフクロ叩きにしてから邪魔が入らない状態で決着を着けたかったんだけどね」 言いながらフェイトとソフィアが各々の武器を構えた。 「まぁ、そんな事も言ってられないわね。それに三つのペアが残ったんじゃ、二対一の不平等な戦いになってしまいそうだし。これで良かったのかもしれないわ」 「それもそうだな。…そうなったら何故かは知らんがぜってぇ俺が狙われるに決まってるしなぁ」 「何か言った、クリフ?」 「いいや何にも。んじゃ、始めるとすっか?」 マリアとクリフも、挑戦的な表情をして身構えた。 「おおっ、こちらの荒野エリアでは解凍マグロ団同士の対決が勃発しそうです! 言わば準決勝に相当するこの戦い、制覇するのはどちらなのでしょうか!」 ディルナの声が響き渡ると同時に、四人が動いた。 そして、条件の悪い山洞エリアから早々に移動し、闘技場エリアに来ていた残りの二人はと言うと。 「…なるほど、私達以外に残っているペアがどこかと思えば…」 「こいつらなら納得がいくな」 ランキングバトルでは二位の座を譲っているものの、実際には二位のナイトオブドラグーンよりも強いのではないかと噂されているデーモンロードの二人。 闘技場エリアで勝ち残っていたらしい二人(二匹?)の姿を認めて、ネルは短刀の柄に手を遣りながら口を開いた。 「ランキングバトルでは私達の方が上だけど、その時は三人がかりで倒したからね。今の状態なら、いい勝負になりそうだ」 「面白いじゃねぇか、あいつらと戦う前の準備運動にはなりそうだな」 「油断してると足元すくわれるよ。せいぜい足を引っ張らないようにしなよ」 「上等だ」 不敵に微笑みあって、二人音も無く得物を鞘から抜いた。 「カーレントナックル!」 「当たるか!」 「甘いわねっ! レーザーエミッションっ!」 「うわわっ、息つく暇もナシかよっ!」 荒野エリアでは、フェイト&ソフィアペアとクリフ&マリアペアの戦い…と言うよりも、フェイトへの集中攻撃が続いていた。 「フェイト頑張って! エクスプロー…」 加勢しようとソフィアが呪文を唱えようとすると、 「エイミングデバイスっ!」 すかさず足元にレーザーが打ち込まれ、思わずソフィアは詠唱を中断させ飛び上がって避ける。 「悪いわね、邪魔はさせないから」 不敵に笑ってマリアが言い放ち、またフェイトへの集中砲火へ戻る。 「まったく、エグい戦い方するもんだな二人とも!」 俊足を利用してなんとか二人と距離を取りながら、フェイトが苦々しげに呟いた。 「当然じゃない、このイベントのルールからして、二対一の戦局を作り上げた方が圧倒的に有利なんだから。そうなれば、フェイトを集中して狙うのは当たり前でしょ?」 「そうそう、まさかソフィアを集中砲火なんざしたくねぇしなぁ。ま、運よくここのエリアにも場外負けポイントいくつか見つけたし、戦闘不能にまでしようってんじゃねぇから。運が悪かったと思って諦めな」 にやりと笑いながらかけられた挑発に当然乗らず、フェイトは走る足を止めないままに口を開く。 「誰が諦めるかよ。ソフィア、大技は詠唱中断されるから、短い詠唱で済む呪文で援護してくれ!」 「わかったっ! よーし、ファイアボルト!」 ほぼ一瞬で発動できるまでに熟練度の上がったファイアボルトが、クリフに向かって飛んで行く。 避ける為に仕方なく壁際に移動したクリフを見て、フェイトがにやりと笑った。 「よし、今度はこっちが仕掛ける番だからな。リフレクトストライフっ!」 「おっ、と!」 ギリギリで避けたクリフをさらに追撃しようとするフェイトに、 「プルートホーン!」 マリアがそれを許さないと言わんばかりにレーザーを放った。 「わわっ! まったく、キリがないな!」 「そうねぇ、じゃあそろそろ諦めて場外負けしてくれないかしら?」 「誰が!」 短い言い合いを交わしながらも、フェイトは追撃で絶え間なく銃弾を放ってくるマリアの攻撃を紙一重で避ける。 銃撃の届かない場所に行こうと走り出すフェイト目掛けて、 「そこだっ! バーストタックルっ!」 突進してきたクリフを、また間一髪でフェイトが避けた。 「うわっ!」 「ち、惜しかったな」 「そうね、今の攻撃が決まっていれば場外負けさせられたのに。次は外さないでよ、クリフ」 フェイトがギリギリで避けた場所のすぐ後ろ、荒野ポイントにも転々と存在している小さな崖を見遣りながら、マリアが残念そうにそう呟いた。 「まったく、場外負けを虎視眈々と狙うなんて、優しいのかえげつないのかわからないよ」 ぶつぶつと愚痴りながらまた走り出したフェイトの声が聞こえたのか、クリフが笑いながら答える。 「そりゃー、優しいに決まってるじゃねぇか。大切な仲間と戦いたくないっていう思いやりの表れだろ?」 「あーそれはどうもありがとう!」 なげやりにそう答えてから、フェイトは走りながら遠くにいるソフィアを見遣る。 銃撃でフェイトを追っているマリアか、隙さえあれば突進系の技で場外負けを狙っているクリフどちらに攻撃しようか迷っていたソフィアも、その視線に気づいてフェイトを見た。 視線が合ってすぐ、フェイトがその場に立ち止まって口の動きだけで何かを言う。 かなりの距離があったが、なんとか言わんとする事が伝わったのかソフィアがこくりと頷いた。 「…何を企んでいるの?」 一連のやり取りを見ていたマリアが訝しげに尋ねる。 「さあね。このままじゃイタチごっこの繰り返しだから、そろそろケリをつけようかと思ってさ」 防戦一方で体力削られるのもごめんだしね、とフェイトがにやりと笑った。 距離を取るのをやめて立ち止まったフェイトを見て、マリアとクリフは注意深く距離を詰める。 「なんかやらかすつもりだな。出来るだけ早く決着つけるか」 「そうね。でも逸りすぎて失敗しないでよ、相手を場外負けにさせようとするってことは、逆に私達が反撃されて場外負けになるかもしれないっていうリスクも負わなきゃいけないんだから」 「あぁ、わかってるって。仮に相手に避けられたとしても場外負けラインに到達しねぇように距離測ってるからよ」 素早く会話する二人を見ながら、フェイトがやはり不敵な表情のまま口を開く。 「そんなのんびり会話なんてしてていいのかい? 仕掛けてこないなら、僕からいくからね」 言うが早いが彼は二人との距離を目で素早く測り、剣を構えて、 「! クリフ、下がって!」 素早く後ろへ飛びのきながらマリアが叫ぶとほぼ同時に、 「ストレイヤー…」 「うおっ!」 フェイトを中心に一定範囲内に赤い渦が巻き起こる。 間一髪でその範囲内から抜けた二人を見て、フェイトはち、と舌打ちして技を発動させる。 「ヴォイド!」 その場から消え、一瞬で移動してクリフを狙ったフェイトの剣は、 「やっぱりこっちを狙ってきやがったかっ!」 予想していたクリフに間一髪のところで避けられる。 「あーあ、惜しい。ま、渦範囲内から逃げられた時点で無理かなとは思ったけどね」 フェイトはちぇ、と舌打ちしながら、すぐにまた距離を取る為走り出す。 「こら待てっ!」 また距離を開けられる前にとクリフが追いかけようとするが、 「ちょっと! ある程度の距離を空けないと、今度こそ動きを止められるわよ!」 マリアが慌てて声をかける。クリフがすぐに立ち止まった。 フェイトはある程度距離を空けてから急に立ち止まり。 「次は外さないよ」 またにやりと笑って、剣を素早く構える。 だが、フェイトの背後に場外負けラインの崖がある事に気づいたマリアが、はっとなってクリフに目配せした。 「ストレイヤー、」 同じ戦法で来ると気づいて、二人がすぐに渦範囲内から抜ける。 「今よ、クリフ!」 「おっしゃ、もらった! バーストタックルっ!」 動きを止められる事なく範囲内から抜けられたのを見て、フェイトがその場から消える直前。最もフェイトが無防備になるその瞬間、クリフが動いた。 場外負けライン外にフェイトを吹き飛ばそうとクリフが一瞬で距離を詰め、その勝負に決着が着くと思われた時。 「グラヴィテーションっ!」 今までほとんど何も動きの無かったソフィアが呪文を放った。 「何っ!?」 フェイトに体当たりする寸前で逆に動きを止められたクリフが驚きの声をあげている間に。 「ヴォイドっ!」 その場からフェイトが消え去り、クリフの背後に現れる。 「しまっ…」 マリアが銃口をフェイトに向けるが、それより早くフェイトの一閃が閃いた。モニターで見ていた会場がわぁっと沸く。 同時に、どごっひゅるるるという音と共にクリフの巨体が場外負けライン外に吹っ飛ばされ、しゅん、と姿が消える。控え室に飛ばされたようだ。 「フェイト選手の一撃が見事に決まりました! クリフ選手、場外負けです! フェイト選手・ソフィア選手のペアがこの戦いを制しました!」 「やったー! フェイト、ナイスファイトっ!」 遠くからぴょんぴょんと跳ねて手を振るソフィアに、フェイトもにこにこと笑いながら手を振り返す。 「ソフィアこそ援護さんきゅ。タイミングばっちしだったよ」 「あーあ、負けちゃったわね」 喜び合う二人を見て、マリアが苦笑する。 「えへへ。でも、マリアさん達も手強かったですよー?」 「だな。これで残りは、アルベルとネルさんのペアだけか」 「そうだね、まだ結果はわからないけど、あのお二人ならきっと勝ち抜いたと思うし」 「そうね…。じゃあ私は、クリフと合流してから一足先に観客席に行ってるわ。また機会があれば戦いましょうね。今度は負けないから」 苦笑したまま、少しだけ悔しそうにマリアがそう言って、エリアの外にあるトランスポートへと歩いて行く。 「マリアさんもお疲れ様でしたー! また勝負しましょうね!」 「次も負けないからね。…さて、次はいよいよ事実上の決勝戦かな?」 「そうだねっ、ネルさんとアルベルさん、今どこにいるのかな?」 ソフィアがぽつりと呟いた疑問を聞いたのかそれとも偶然か、またディルナのアナウンスが入った。 「では次は闘技場エリアで繰り広げられている、事実上もう一つの準決勝の様子を見てみましょう! おおっ、こちらの戦闘も佳境に入っています!」 そのアナウンスを聞いて、二人は闘技場エリアへと移動し始めた。 「確かもう一つはデーモンロードの魔族二人だっけ? あいつら相手じゃ確かに手こずるだろうなぁ…」 「そうだね…。でもあの魔族も強いけど、ネルさんとアルベルさんはもっと強いから大丈夫だよ」 のんびり会話を交わしながら歩く二人が闘技場エリアへ近づいた時、大きな歓声が上がった。 「決まりました! ネル選手の術がミリアム選手を直撃、ミリアム選手戦闘不能です! アルベル選手・ネル選手のペアがこの戦いを制しました!」 「デーモンロードのミリアム選手、一対一のまま拮抗していた状態を崩したのは痛かったねー。すぐに攻撃に移って二対一の局面を作ってしまえばよかったんだろうけど、マークを外されたネル選手の動きの方が素早かったってことだね」 「あっ、終わったみたい!」 「よし、闘技場エリアに行こうか。ネルさん達は連戦で悪いけど、決着つけなきゃね」 ソフィアがこくりと頷き、ぱたぱたと小走りに闘技場エリアの入り口を目指す。 観覧席が設置されている闘技場エリアは、次は事実上の決勝戦に沸いている観客と、そして。 「お前最後の攻撃、俺が巻き込まれても構わないと思ってやっただろ!」 「何言ってるのさ、あのくらい避けられるだろう? 術の発動するタイミングくらい計れて当然じゃないか!」 「あの距離でお前の詠唱が耳に入るはずねぇだろうが! 自分本位に考えんじゃねぇよ!」 「詠唱が聞こえなくても、術の発動場所に予兆があるじゃないか! あんたなら気づいてて当然だって思ってたけど、どうやら私の買いかぶりだったみたいだねぇ!」 「んだとテメェ!」 「うるさいね、あんたがあの女悪魔に間抜けにも誘惑されかかってたからしょうがなく助けてやったんじゃないか、感謝しなよ!」 「余計な世話だ!」 ど真ん中で言い争う二人。 「………」 「………」 その口喧嘩で、先ほどの戦闘の結末がどんな風だったのか容易に想像ができて。 フェイトとソフィアは揃って苦笑した。 |