「ネルさん、スープのほうできましたよ」
スープの鍋をかき混ぜていたソフィアが味見をしてそう言った。
「ああ、お疲れ様。さてと、これで全部だね」
たった今完成したスープを除いた夕食を盛り付けていたネルが答える。
「完成ね。じゃ、みんなを呼んできましょうか」
飲み物をコップに注いでいたマリアが嬉しそうに言った。
宇宙船ディブロの中、彼女達はキッチンに集まって夕食の支度をしていた。





ねむりひめ





今日の夕食はアイテムクリエイションの練習も兼ねて、料理のスキルレベルが比較的高い女性陣が作ることになった。
「既製品の機内食じゃなくて、たまにはソフィアの手料理が食べたいんだけどな」
と惚気た(笑)フェイトの一言から始まったのだが、女性陣達は結構楽しんでいるようだ。
ディブロの乗員すべての分をつくるのはさすがの彼女らでも大変なので、用意したのはパーティメンバーの六人分。
途中、リーベルがマリアの手料理を食べたそうにこちらを見ていたこともあったが、彼女らは気付かなかった。
「誰が呼んでくる?なんなら私が行こうか。通信機とやらを使うまでもないだろ」
「あ、お願いします。じゃあ私はスープを盛り付けておきますね」
お玉を片手に器をもう片手に、慣れた手つきで盛り付けをしながらソフィアが頼んだ。
「じゃ、私は後片付けするわね。ネル、任せたわよ」
オムレツを作るとき使用した色とりどりのボウルを慣れない手つきで洗いながら、マリアも続く。
「了解」
ネルはそう言ってキッチンを出た。
今のパーティの男性陣は、フェイト、クリフ、アルベルの三人だ。
料理ができるまで部屋で待機!とマリアが言ったので三人とも部屋にいるはずだった。
ネルは、あいつら大人しくしてるんだろうか?と考えながらディブロの廊下を歩く。
部屋にいなければまた捜しにいかなければならない。
その分食事の時間が遅れるし、何より二度手間になるのが面倒だった。
そんなことを思いながら歩いていると、フェイトの部屋が見えてきた。
ネルは慣れない手つきで壁のインターホンを押し、繋がったのを確認して呼びかける。
「フェイト、食事の用意ができたよ」
「あ、はい」
一瞬間があって、フェイトはすぐに部屋から出てきた。楽しみで仕方がないといった風に。
「わざわざありがとうございます」
「気にすることないさ。それより、ずいぶんと嬉しそうだね。そんなにソフィアの料理が楽しみかい?」
「えっ、まぁ…。あいつ、戦闘は苦手ですけど料理は得意ですから」
「そう、私も楽しみだよ。じゃあ先に行ってて。他の二人を呼んでくるから」
「はい。じゃあまた後で」
フェイトが立ち去って、ネルはクリフの部屋に向かおうとする。
と、後ろでドアが開く音がした。
「おう、もう用意はできてんのか?」
今まさに呼びに行こうとしたクリフが丁度良く部屋から出てきたところだった。
「ああ。丁度良かった、今呼びに行くところだったんだ」
「そうか。じゃあ先に行ってるぜ」
そう言ってさっさと行こうとするクリフに、ネルは少し驚く。
「おや、随分と急いでるじゃないか」
「そりゃ、腹減ってたしな。まったく、味見もろくにさせずに部屋ん中閉じ込めるしよ」
「あんたの味見はつまみ食いと同義語だろう?」
「…まぁ、そうともいうかもな。じゃ、またな」
痛いところをつかれたようで、バツの悪そうな顔でクリフはダイニングへと逃げるように向かっていった。
ネルはやっぱりね、とつぶやきながら最後にアルベルの部屋へと向かった。
一番大人しくしていなさそうなヤツを最後にしたのは失敗だったかもしれない、とネルは少し後悔する。
部屋で大人しくしていてくれればいいのだが。
アルベルの個室の前まで来て、ネルはインターホン越しに中に呼びかけた。
「アルベル、夕食の用意ができたよ」
だが、中から返事はなかった。
「アルベル?」
もう一度呼ぶが、やはり返事はない。ネルは訝って部屋の中に入ってみる。
捜していた人物は、部屋の中に置いてある椅子に腰掛けていた。
片膝を立てて、そこに腕を乗せて顔を伏せている。
「なんだ、いるんじゃないか、返事くらい…?」
ネルは言葉を途中で止めてアルベルの様子を窺った。
アルベルは目を閉じて、すぅすぅと規則正しい呼吸をしている。
「…寝てるのかい?」
ネルはアルベルの傍まで寄って顔を覗き込んでみる。やはり彼は眠っていた。
声をかけても反応がなかったのはそのせいか。
「ちょっと、起きな!」
肩を掴んで揺さぶってみる。
が、反応はない。
「アルベル!」
「……うるせぇ…」
ぼそぼそと言う彼は明らかに夢の住人で、起きる気配はない。
ネルは一旦起こすのをやめ、はぁとため息をついた。



「まったくこいつは…。…さて、どうしようかな」



「やっぱり、蹴ってでも起こしたほうがいいか」
「まぁいいや、放っておけばそのうち来るだろうしね」